溺愛されてる貴族令嬢は、小さな竜人を義弟(おとうと)にしました。

竜ヶ崎彰

1章 姉弟になるまで

第1話 可愛い男の子、見つけちゃいました!

 ここは、魔法が存在するとある世界。

 その世界に存在する1つの国「オルガリス王国」には、領土「アスタルト領」があった。

 その領土を納める貴族のアスタルト一家は、仲良し家族で領民からも慕われていた。

 そして、彼女もまた…


「今日はたっくさん、どんぐり持った来たからいっぱい食べてね!」


 ここはアスタルト邸の傍にある森の中、そこにいたのは…大勢のリスと戯れる可愛らしい少女であったが…彼女は…


「リタ様~!」「リタお嬢様~!!」

「あ!」


 彼女を追って、メイドらしき2人の女性がいた。


「リタ様!またここにいらしたんですか!」

「えへへ…」

「お父様がカンカンですよ…早くお屋敷にお戻りください…」

「は~い…」


 先ほど、リスと戯れていたこの少女こそ、アスタルト領主の次女である貴族令嬢の「リタ・アスタルト」であった。






ーーアスタルト邸


「リタ!お前はまたそんなになるまで遊んで!!!少しは領主の娘としての自覚を持つんだ!!」

「ご、ごめんなさい…」


 リタは顔と服が土まみれとなっており、先ほど森で遊んでいた事がバレて領主である父親に怒られていた。しかもその汚れは誤魔化せるほどでもなかった…。


「で、でもお父様!あの森のリスは親子で住んでいて、とっても可愛いんです!!ですからつい…」

「ついじゃない!!それに、そんなに汚れてしまっては…お前の…お前の…」

「お前の可愛い顔が台無しになってしまうではないかあああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 父親はそう嘆いてリタに抱き付いて頬を顔でスリスリした。

 そう、この父親は娘であるリタを溺愛している親バカなのであった。しかし、それは父親だけでなく…


「リタ…あなたのやる事を否定するわけではありませんが…やはり領主の子供としての振る舞いもしていただきたいのよ…だってあなたは…」

「可愛い可愛い私達の自慢の娘なんですからあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 父親にまさに似ていて、親バカな母親であった。


「ごめんなさい、お母様…」

「反省しているならもういいわ…今日はもうお風呂に入りなさい」

「はい!失礼しました!」


 父の部屋を後にし廊下に出たリタ


「リタ、あなたまた小動物に食べ物を与えたみたいね…」

「サティお姉様」


 部屋を出たリタは、廊下で姉であるサティ・アスタルトと遭遇した。


「け、相変わらずのじゃじゃ馬だな!」

「まあいいじゃないか、それがリタなんだから…」

「お兄様…」


 彼らはサイガ・アスタルト、ユーリ・アスタルト、アスタルト家の長男と次男、サティ、リタの兄にあたる。


「お前相変わらず動物好きだよな!!そのままリスに出もなっちまったらいいんじゃねえの!?」

「え、そんな~」

「こ~ら、ユーリ、妹にそんなこと言わないの!」

「何だよ、兄貴…」


 兄たちに色々言われて心が沈んだリタは、そのまま浴場へ向かう為にその場を離れた。


(またユーリお兄様を怒らせてしまったわ…ユーリお兄様はやっぱり私の事が嫌いなのかな…)


 思い詰めているリタをよそに3人の兄と姉達は…


「あっちゃ~、またリタに嫌われちまったかな…」

「ユーリってそういう所あるよね、本当は、リタの事が大好きなくせに…」

「な!いや、俺はそんな…」


 ユーリは少し照れたが、それはまさに図星だった。

 ユーリの妹であるリタに対する言い方は、彼自身が妹を心配するあまりの悪い癖であるだけで根は優しい性格である。故にそれを知らないリタは、彼に嫌われていると思っている。


「ユーリお兄様、そんなに落ち込まないでください、いずれリタにもお兄様の優しさが伝わりますわ…」

「サティ、お前だって、同じだろ!お前もリタの事好きなくせに!」

「それはもちろん!今でも昨日の事のように目を閉じれば思い出しますわ!」


 サティは目を閉じて、リタが生まれた日を思い出していた。


「12年前のあの日、私に妹が出来て、同時に私は"姉という立場"にもなった事、まさにこれは神様が私に与えてくれた使命…リタ…リタ…」

「うわ~また始まったよ、サティの悪い癖が…」

「あはは、それもサティの可愛い所だよね…」


 妹を愛してやまない異常な想いを抱く、それこそがサティの悪い癖であった。あまりにも過保護でリタを両親と同様に非常に溺愛している"親バカ"ならぬ"姉バカ"気質であった。


 浴場にてリタはお湯浴びを済ませ大きな湯船に浸っていた。


「お姉様は私に優しくしてくれてますし、お父様もお母様も、とても優しい…でも、どうして私だけそんなに…」




一方で、リタの両親は…


「あなた、私達はやはりリタを甘やかしているのではないですか?あの子が可愛いのは百も承知ですが、少し心配で…」

「そう言ってくれるな、君だって知っているだろ…あの子の魔力の少なさを…」



 12年前、リタは生まれてすぐに魔力の検査を受けた時の事だった。


 この世界では、生まれた子供はすぐに協会へ行き、体内に秘めた魔力の量を図る事が義務付けられていた。

 「魔力」とは、その名前の通り、魔法を発動する際に必要なエネルギーの事。

 大抵の人間なら生まれた時に並大抵の魔力を持って産まれるが、出産当時のリタの魔力は、なんと普通の子供より少なかったとの事。

 この世界では魔力の量で人種の差別はされないが、両親はリタの魔力の少なさには涙をした。



「あの時、魔力が少ないと判断された時は、私も悲しかったです…なんども思いました、『ごめんねリタ、あなたをこんな風に産んでしまって』と…」

「そうだったな…だから私は決めたんだ、魔力が少ないからと言って差別されることなくリタには楽しく生きて欲しいと…それで私は、出来る限りの愛情をリタに注いだつもりだった…」

「だが、私の思いは間違っていなかったんだ…あの子は、あんなに優しい子に育ってくれた…だから、私はあの子の父親でいたいんだ…その為にもこれから先も、リタを…」

「そうね、そうですわ…私達もあの子の為に頑張らなきゃ…」



 そして、眠る時間になった事で、リタも眠りについていた。




ーー翌日


 リタは家族や使用人の眼を盗んでまたしても、屋敷裏の森へと足を運んだ。


「あのリスちゃん達はどこかな~?ん?あれって…?」


 以前遊んだ大勢のリスを探して森を歩き回るリタ、その時彼女は、倒れている少年を見つけた。

 少年は眠っているようだが、何日も森を彷徨っていたかのように着ている服には小枝や葉っぱがたくさん付着していた。それを見たリタは、少年を放っておけず、屋敷へ連れていくのだった。

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