第49話 拉致
「ぐはぁ!」
首を掴まれた俺はそのまま扉に叩きつけられた。
「やあやあ!君、かっこいいねぇ!僕たちの作った部活入ってよ!」
なんちゅう馬鹿力だ。とてもこの少女が出しているとは思えない。
「や、やめ…ヴァ…っ!」
「なんで無視するのおいこっち見ろよ僕の方見てよ。ねえ。ねえ!ねえ!!」
俺はヴァーレンの方を見る。だが、ヴァーレンもその少女の左手に拘束されていた。
「ねえ、入るよね!ねえ!ねえ!」
その少女は背伸びして、俺と鼻がぶつかるくらい顔を寄せてくる。その金色の瞳は光が無く、どこに焦点が合ってるのかいまいちわからなかった。こいつも猫耳の獣人だ。だとしても、こんなパワーどこから出ているのか。
「わかった…!だぁ…ヴァー…はなっ、せ…!」
俺は部活に入るのと引き換えに、苦しんでいるヴァーレンの解放を要求する。
「わーい。じゃあ、この契約魔法に調印してー。」
ヴァーレンは解放され、その子は左手で一枚の契約用スクロールを差し出してくる。俺は右手をかざして、契約に同意する。すると、その子は嬉しそうにそのスクロールを見る。俺の事は一向に放す気配がない。
「クヒヒヒヒ!これでずっと一緒だね!」
少女は口元を歪めながら、再度俺の目をのぞき込んでくる。息がそろそろ限界だ。
俺の視界がぼやけ始めた時、背中に凄まじい衝撃が走る。
「ぐぁああ!!」
「んー?」
俺は部屋の壁に叩きつけられる。床を転がり霞む視界で、ヴァーレンが側まで飛行してくるのを確認する。
「だいじょ、う、ぶ、か?」
「キュゥ…ゥ…」
ヴァーレンはなんとか無事らしい。前を見ると、さっきの少女と三人組がにらみ合っていた。あの猫耳男が扉を破壊してくれたようだ。
俺はクラクラする頭を叩き起こし、普段滅多に使わない詠唱による召喚を行う。
ここまでされて、手加減などしてやる義理はない。
「神器に届きし魔の杖よ、契約に従い我が元に顕現せよ!来い!魔嬢オルカン───!」
人形形態のオルカンをそのまま召喚する。
長い黒髪を靡かせ、その魔嬢は姿を現す。ゴシックのドレスはどれだけ破壊されても魔力を込めれば元に戻る。それは服という名の鎧だ。その紅い目を見開き、オルカンはすぐに戦闘態勢に入る。
「エルラド、指示を寄越せ!」
オルカンは両手に魔方陣を出して、すぐに迎撃の準備をする。
「非殺傷!防御に専念しろ!その間に体勢を立て直す!」
俺は自分たちを守るように指示を飛ばす。まずはヴァーレンの回復だ。それが終わったら、次は俺。そのあとは窓を破壊して、ヴァーレンに元に戻ってもらう。こんな地獄とはとっととおさらばだ。
「了解!」
目の前では四人が格闘戦を続けていた。三人を相手取りながら、その少女にはまだまだ余裕の色が透けて見えた。
そして、彼女の視線がこちらを向く。
「…誰その女?」
少女は男二人をこちらに投げ飛ばしてくる。
「シールド!」
オルカンがすかさず防御して、俺達を守る。ちょうどヴァーレンの回復を終えたところだった。
あと少し。あと少し、時間が要る。
投げ飛ばされてきた男たちはオルカンを攻撃し始める。彼女も身体強化を自身に付与して迎撃する。
「くぅ…!」
だが、オルカンは本来後衛。その距離は彼女の最も苦手とする間合いだ。
そして、オルカンがギリギリで二人の攻撃を捌いていると、例の小さい少女がこちら目掛けてすごい速さで突っ込んでくる。
これ以上は無理だ。俺はその金色の瞳が迫ってきたとき、敗北が頭をよぎる。
負ける…?
アスティアとオルカン以外に負けるのか?
そんなこと───。
「許されるかぁ!シールドォ!!!」
俺は全力で目の前にシールドを出現させる。回復をやめて、ぐらつく頭で無理矢理魔方陣を組んだ。体に負荷がかかり、目からは血が流れている。
「まあまあ硬かったよ!」
その拳一つで、俺の全力のシールドはいとも簡単に破壊される。
───ああ、負けた。
そう思った時だった。
「グルルラァァァア!!」
ヴァーレンが一際大きな声を上げると、俺の目の前に固定シールドが出現する。
「…え?ぎゃっ!」
あまりに距離が近かったせいで、少女は固定シールドに激突してしまう。
全員の攻撃が向いていない。
おそらくこれが最後のチャンスだ。
「アイスバインド!」
俺は氷魔法の中でも一番発動速度が速い魔法を発動する。これで三、いや、二秒は稼げる。
「オルカン!」
俺がオルカンの名前を呼ぶと、彼女はすでに準備を済ませていた。
「ああ!監獄結界!!」
オルカンは俺が待っていた魔法を、間違えること無く唱えてくれた。三人の周りに牢獄が出現し、扉が閉ざされて封印が起動する。
「沈めぇ!」
封印が完了し、三人の牢が鎖で固定される。
俺達三人、誰が欠けてもこの勝利はなかった。
「───先生、こっちです。」
俺は扉の方を見ると、大きい方の女がイツキを呼んできていた。
「エルラド!?何してるの!大丈夫なの!?」
俺はそれを見て、戦闘が終了したことを感じ取る。
「はあ、クソ疲れた…」
俺は壁に寄りかかると、そのまま意識を手放した。
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