第47話エマと異世界へ

 収穫も終わった冬至間近の村では、暇な時間が増え、レオンもボーッと過ごすことが増えた。

 勤勉な者なら本でも読むだろうが、本は高価だし、近くに図書館があるわけでもない。だから、本は少ししかない。

 女なら、編み物などで時間を潰せるし、家事という仕事があるため、そこまで暇ではないが、男の場合、結局、散歩するかボーッとしてるか賭博以外にやることがないのだ。


 レオンは賭博はやらないので、自分の部屋でボーッとするばかりである。

 頭を巡るのは、世界喰いの男の言葉だ。


 ーその世界を食うためにどうしたらいいか調べに調べたら、とある女が鍵を握っていることがわかった。ー

 ー僕がとうとうその女に手を出そうとした時、何か別のものが介入してきたー


 鍵を握るとある女というのはエマではないだろうか。

 だが、彼女自身はそういう自覚がないと思う。

 長い輪廻の果てに忘却してしまったのかもしれないし、何か別のものによって記憶が改ざんされたのかもしれない。


 エマを元の世界に連れていけば、何か別のものはエマに対して何かしらのアクションを起こすかもしれない。

 何か別のものは世界喰いを別世界へ追放できた。なら、レオンもそいつに会って世界を移動する方法を聞き出したい。


 そうして、元の世界へ戻るのだ。

 なんとしてでも、自分が暮らしていた世界が、神々がどうなったのか知りたい。

 もしまだ、戦っているのなら、自分は天上神に最初に作られた天使であり、全ての天使の長なのだから、天使の長として、神々を守り、魔族を駆逐する使命がある。


「にしても、今も戦ってんのなら、いつまで戦ってんだろうな」呆れた感情が湧き上がってきた。


 話は戻すが、輪廻転生を繰り返すエマは根本の所では何者なのか全くわからないが、それ以上にわからないのがかのだ。

 様々な世界を渡り歩く。しかも、自分の意志とは無関係に。


 かのものまたなにか別のものの存在が関与し、世界を移動しているのではないか。世界の移動そのものが別のものの存在の意思かもしれないし、力を渡されたのかもしれない。


 かのとエマの正体を知るためにはかのの世界へ行かなければならない。

 ついでに、エマが食べたそうにしていたうどんの材料を調達し、作らせてやりたい。

 なぜ、自分が単なる人間であるエマにそういう感情を抱いているのかは全くわからないが、そうしてやりたいのだ。


 レオンはかつて天使として存在した世界の人間たちを思い出していた。獣と同等の汚らわしい連中だった。


 エマもかのも、村人たちも、神父のジジイも、それ以外の連中も同様なのに。


 考えることも思うことも煩わしくなってきた。


「早く来いよ、かの」

 そう言って、レオンは目を閉じた。


 かのはレオンの思惑とは裏腹に一向にやってこない。まるで、レオンの意図を見透かしているように。


「いるよ?」

 突然のかのの声。

 思わず目を開け、横を見ると、いつものようにのーてんきに笑っているかのがいた。

「おい、お前、自分が暮らす世界に帰りたい時に帰れるようになったか?」

「ううん」

 かのは首を横に振った。


「俺は奥方をお前の世界へ一度、連れていきたい」

「うん」

「でもな、奥方を変な世界に連れて行かれちゃ困るんだよ」

「うん」

「ちゃんとお前の世界に連れていけるか」

「知んない」

「それじゃ、困るんだよ」

 エマと世界喰いが鉢合わせしてしまっては困る。

 そんなレオンの思いを他所に、笑みを崩さないかのは背を向けて、レオンの部屋を出て、トロい速度で走り出した。外で魔物に襲われたら、一撃で倒されそうだが、奇跡的に避けてしまう。


 かのは団らん室で編み物をしていたエマの手を取ると、有無を言わさず、引っ張りさらに走り出した。

エマが驚いて声を上げる。

「あらららら、かのちゃん。どうしたの?」 

「一緒、おでかけ」

 かのは嬉しそうに声を上げる。


「おい、待て」

 レオンが叫ぶ。

 かのの周囲の空間が歪んだ。

 世界移動の合図だ。


 レオンは間一髪でかのとエマを掴んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る