骸の大群
スキルオーブを得て強くなった(誤差)黒狼とレオトールはダンジョンを進む……。
いや、進もうとしていたのだが……。
「無理だ、一旦逃げるぞ!! レオトール!!」
「それこそ愚策だッ!! 背を向ければ殺されるッ!!」
宝箱を発見しホクホク顔で別の場所へ向かおうとした二人に100を超える骸の群れが現れたのだ。
初手で不意打ちこそ受けた二人だが、レオトールの冷静な判断と黒狼の先制的な攻撃によって不意打ちの失態を覆すことはできたのだが……。
「まだまだ出てくるッ!! 逃げなきゃ無理だッ!!」
「バカを言えッ!! それこそ愚策、愚の骨頂だッ!! 溢れ出る敵を相手に背中を向けることなど殺してくれと言っているようなモノだぞ!!」
狭い通路を利用して分断する様にし、大勢の骸を倒していくがなんと言っても数が多い。
最初こそ、100体程度だったがそこから増え続け倒したものの数を含めたら500体にも及ぶだろう。
強さこそ大したものではないため連戦出来ているが未だ増え続けている骸骨相手に勝利を収めるのは困難どころでは無く不可能に等しく思える。
「なんでこんなに現れんだよ!!」
「貴様が箱を開けたからでは無いか?」
冗談めかしつつ、そう言い返すレオトール。
だが実際、その推測は事実である。
仕掛けられていたトラップとは宝箱を開けたら箱の周囲にいる人物に魔物誘引のデバフだ。
安全な状況での狩りならば有用だろうが、この状況下ならば有難迷惑どころかただの害悪となる。
この事実を知れば、黒狼は憤慨しレオトールは呆れるだろう。
「あぁ、またレベルが上がったし!!」
「それは僥倖、敵を早く倒してくれ。」
口を動かすなと周りくどい言い回しで告げ、次々と骸骨を壊す。
倒す方法は決して難しくなく、重要となる骨を抜き取ったり破壊したりすればいいだけだ。
決して難しく無い、ただその数に目を瞑れば。
「ぐげッ!! 痛ッてぇ!!」
どうやら、黒狼が一撃をもらったようだ。
最初の頃に食らっていた一撃に比べダメージの割合は(耐性のレベルが上がったこともあり)かなり減っているがそれでも痛いものは痛い。
こなくそー、と叫びながら槍を突き出しスケルトンを倒す。
ピコン♪
いつもの音声が鳴ると同時に急にスケルトンの動きが鈍くなった。
「キラー系の称号を手に入れたか、説明は後でする。それを手に入れたのなら撤退も容易い、なッ!!」
近づいてきた敵を剣で倒すと先に後退し始める。
「決して敵に背を向けるな、視線を離せば背後から乗り掛かられるぞ!!」
「なんで今更撤退なんだよ!?」
「キラー系の称号を貴様が手に入れてからでなければ撤退の危険度が跳ね上がるのが理由だッ!!」
黒狼の疑問に対し簡潔に回答をしたレオトールは黒狼を庇うように前に出る。
「貴様から撤退しろ!!」
「いや、そう言われてもどこに行けば……!!」
「ここに飛ばされた時にいたところに向かえ!!」
焦りを含ませながら告げるレオトールの指示を大人しく聞き、黒狼は駆け出す。
「さて、私も撤退したいが……。」
眉間に皺を寄せ、汗を流しながら剣を振り抜くレオトール。
その様子にはさっきまで見せていた余裕がない。
いや、元からそんな余裕など無い。
ただ、黒狼を安心させるためだけに余裕ぶっていたのだ。
「全く、嫌になるな。」
フッと、笑いレオトールは巻物を取り出すと
*ーー*
「あ、レオトール!! アイツらはどうしたんだ?」
「一時的に足止めはした。それ以上は……、まぁ期待しないでくれ。」
「それでもスゲェよ、どうやったんだ?」
「よu……、冒険者たるもの奥の手は持っているものだ。それより、その槍。かなり摩耗しているのでは無いか?」
そう言って黒狼の持つ槍を指差す。
それに対し、黒狼は背後に置いていた槍を手に取ると残念そうに語り出した。
「まぁ……、うん。蜘蛛の素材の部分は大丈夫みたいなんだがやっぱり……。ゴブリンの棍棒の持ち手はもうダメだ。あんな連戦をしなきゃまだ持つとは思うけどなぁ……。ただ、品質が劣から劣(劣化)になってるしなんとも言えん。」
「なら使い物にならんな。」
「なんでだよ? 流石に品質が下がっているから長期的には使えないだろうけど、あんなレベルの連戦をもう一度でもしなきゃ問題は無いって。」
「……、良いタイミングだ。このダンジョンのタイプを言っておくか。」
そう、レオトールが区切ると近くの岩に座る。
「まず、貴様はダンジョンに種類があるのを知っているか?」
「いや、知らん。」
「だろうな、と言うわけで覚えておけ。」
そう言いながら、インベントリから本を出す。
タイトルや、中に書かれている文字は黒狼には読めず一瞬戸惑いを覚えたがレオトールはそんな黒狼の様子を無視しページを捲る。
「この本は、高名な冒険者。『グレート・ワン・オールド』が探検した冒険記録を元に記されたダンジョンの考察書だ。で、貴様に見てもらいたいのはココ、コレとコレとこの図が見えるか?」
そう言って指差したのは三つの図だ。
それぞれ長方形、逆三角形、台形といった形をしておりそれらはいくつかの横線で区切られている。
「コレらはダンジョンの基本形と言われるものでそれぞれ、『アクファトロ』『ミッセンティア』『メーゴシス』と言った名称となっている。」
「無駄に神々しい名前だな。」
「それはそうだろう。迷宮の三女神、迷宮の姉妹神とも言われる存在の名前が付けられているのだからな。それぞれ意味は、『長く高く』『細く鋭く』『大きく広く』ということになっている。」
「ダンジョンの形と連携してるのな、こういうのはわかりやすい。」
「まぁ、そういうことだ。で重要なのはこのダンジョンはどの型に当てはまるのかだが……。」
そう言って、指を台形。
つまり『メーゴシス』を指す。
「おそらくコレだ。」
「待て、判断材料を言ってないぞ。」
「質こそ低いがあれだけのスケルトンを内包するダンジョンなぞこの形以外あり得るはずがなかろう。……いや、確かに可能性としては『ミッセンティア』の形もありうる。尤も、この深度で『ミッセンティア』であればこれほど敵が容易く倒せる筈がないな。」
「……長方形、『アクファトロ』の可能性は無いのか?」
「あり得ん。長く高くという名のようにかの迷宮は地上から露出する類の物だ。そして其れは試練の類でしか現れん、部外者が干渉できるなど聞いたこともない。ましてやスケルトンなどと言う不死者、即ち不浄なるモノの代表格を出す? ハッ、笑わせてくれる。」
そう吐き捨てると、理解はしたか? と言うように目線で訴えかけてくる。
頭部が吹き飛ぶ勢いで頭を前後に振ると、黒狼は一つため息を吐く。
「まぁ、論理に基づいた結論としてその答えを出したのは分かったけどさ。なんで、この形のダンジョンを攻略しなきゃ行けないの? 上に逃げられないのか?」
「その手も考えた、が上に逃げたところで貴様は出られんだろう? ならば、下で鍛えた方が良い。」
「お前の食事は? 食わなきゃデスポーンするんじゃ無いのか?」
「ん? ああ、其れに関しても問題は……、まぁ無い。幸いにも1ヶ月分の食事はある。表立っての戦闘こそできはしないが、ここの敵の強さであれば貴様一人でも問題無かろう。」
「……、なんか不気味だな。全部、見えない神かなんかにレールを敷かれてそこを通るように強制されているように思える。」
「違いない、だがその敷かれたレールを進まなければ生き残れない。明確な落とし穴が無いのなら素直に通るのが吉だろう。」
そう言い、インベントリから幾つかのアイテムを出す。
「此処を一旦キャンプ地として行動する。ココは地形的に大勢の敵が襲いかかってくることも無かろう、居を構えるなら絶好の場所だ。」
「オケ。じゃ、俺は一旦アッチに戻るわ。色々頼んどいていいか?」
「構わん、だが1日と開けるなよ?」
「当然だって、時間なら有り余るほどある。1時間……、3時間ぐらいしか開けないって。」
「そうか。」
そう言うと、黒狼はログアウトした。
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