レオトール

「あー、クッソ。暴走スキルってネタで取ったけどガチで暴走してんじゃねぇよ。しかも、リスポーンまで……、えっと、後21万6千秒? ぐらい? ってことは……、1時間!? マジかよ、最悪だぁ……。ハァ。」


 溜息を吐きながら電脳世界から逃げる様にログアウトする。戦績としては上々、ジャイアントキリングを果たしているのを加味すればソレどころではないだろう。

 だが、その戦績はログイン不可能時間。いわゆる死ぬことへのデメリットというものだろう。


「……、アレ? じゃあなんで10秒毎に俺は復活してたんだ……?」


 単純な疑問が頭を駆け巡る。というより、今更な疑問だろう。


「……、もしや種族ボーナス? いや、十分にあり得る。もしかしたら反転系スキルが関わる要因で死んだ場合リスポーン時間が大幅に短縮されるとか? いや、絶対ソレだ!!」


 我、発見せりユウレカとばかりに立ち上がり、そのまま転ける。


「いてて……、クッソ良いことねぇな。……、けどコレは検証しがいがあるな。」


 ニヤリとほくそ笑み、ログインしたらする事を空中に浮かぶモニターに入力する。好奇心は猫をも殺すと言った展開にならなければ良いが……、と思うのは老婆心ながらか、はたまた当人の破天荒ぶりからだろうか? どちらにせよ、目の前に人参をぶら下げられた馬の様に、もしくは思春期真っ盛りの少年が土手川にあるエ◯……、何? 最近の少年はスマホで済ます? いやいや、あくまでコレは一種の例え話だ。

 と、話が逸れたがそれだけ興奮して書き殴れば経つ時もあっという間であり案外気が付かぬ間に1時間は経過していた。


「机上の空論は終わりにして、ちゃっちゃと検証の時間に入りますか。」


 そう呟くと、いつも通りゲームにログインした。


「おー、死亡ログまともに見てなかったけどこんな感じなんだな。」


 若干、面白がりながらそう呟くとそのまま閉じる。別に、黒狼には自分の死因をログから冷静に分析するつもりも面白がるつもりが無いのだから当然だろう。


「ただ、まぁ……。うん、今後はそうも言ってられないんだろうけど。」


 検証と名打つのならば、自己の死因についても冷静な判断を行わなければならないだろう。ソレが、今後共に有益になるのならば尚更だ。故に、一切手を抜く事は出来やしない。尤も、端からそんな腹積りは無いが。


「さて、まずは光耐性(反転)から試すか。」


 そう告げると、ライトボールを作り即死する。


「ここまでは予想通り、ってところだな。」


 そういうふうに告げ、暫く待つとリスポーン可能という表記に。サクッと押してリスポーン作業を行う。

 死ぬことによりデメリットが余りにも低いためいよいよ何にも思わなくなり出した。と言ったらあの黒騎士や助けた男は怒り狂うだろうか?


「あ、助けた報酬貰ってねぇ……。まぁ、徳を積んだと思っておくか。」


 今世紀最大の気まぐれだし、と言葉にせずに告げ光魔法を発動する。リスポーンをした場合時間以外のデメリットは殆ど存在しない事は確認済みだ。というより、経験則故の知識と言ったところか?


*ー*


 といわけでとりあえず、100回ぐらい試行してみたところ光耐性(反転)がようやく1上がり光魔法が3上がった。


「……、えぇ。」


 詳しく記した訳ではないのでアレだが100回ほど死んで1レベル上がるというのは非常に割に合わないのでは無いかという困惑を込めた溜息を出す。

 いや、文句はない。文句は無いのだが……。


「ほかにスケルトン選んだ人はどうしてんだろ?」


 疑問は溢れ出る。

 コレだけの難易度だ、運良く地下にリスポーン位置が固定されてなければ黒狼も今現在平野でキルされ続けながら死んでいたところだっただろう。そういう意味では幸先よかった……、そんな事もないか。


「あー、後さ。ずっと立ってるのは良いけど話しかけてくれないか? いい加減、気づかないフリをするのも疲れた。」

「あ、ああ。コレは失礼した。私の名は……。」

「あ、そういう堅苦しいヤツいいから。楽に話してくれ。」


 そういうと、男とすれ違い洞窟の奥へゆく。


「何処へ、向かうんだ?」

「俺の拠点。っと、一つ聞きたいけど。アンタってNPC現地人? それともプレイヤー異邦人?」


 強気に威圧する様に発する言葉を男は受け止めた上で、男は質問に答えず名乗りを挙げた。


「俺の名前は、レオトールだ。貴様の名は?」


 その言葉には、威圧があった。弱者なら弱腰になり弱兵なら思わず剣を抜くほどの。

 だが、その威圧は黒狼には通じない。


「名乗る名もなき骨だよ、ノワールとでも呼べ。」


 相手を嘲笑い、黒狼は髑髏を揺らす。

 その様子を見ながら、男は、レオトールは手を出した。


「……、は?」

「なに、暫く共に過ごすんだ。握手ぐらいしても構わんだろ?」

「……、はぁ?」


 呆れと共に、存在しない肺から空気を漏らす。呆れを通り越すと言うのはこう言うことを指すのだろうか。


「お前なぁ……、俺がお前を殺すとは思わないのか?」

「逆に聞くが、俺を助けたお前が何故俺を殺すんだ?」


 視線を突き刺す。一触即発と例える他ない空気が漂う。


 先に、折れたのは黒狼だった。


「悪い、わかった。認めるよ、たしかに俺はお前を殺す気はない。」

「そうか、それならやはり俺の目は曇って無かったということか。」

「さぁな? で一つ聞く。お前、なんでここにいる? その様子だと真っ当な人間だろ。」

「ちょっとした諍い事だ。詳細を語るまでもない、な。」

「ふーん、いつか話せよ。」

「時が来たら嫌でも知ることになるさ。」


 そういうと、互いに一瞬無口になりその後黒狼が口を開く。


「ところで、さ。」

「なんだ?」

「錬金術用の本とか、魔術用の本とかって買えない?」


 媚びる様な声で出された当人にとっては切実な問題を聞き、一瞬の理解を得てレオトールは爆笑する。

 

「スクロールで無いのなら金のある限り提供してやるさ。お前が入れぬ街の中からな。」

「金のある限りって不安だな。と言うか、俺一文なしだけど?」

「無用の心配だ、将来金を得た貴様から支払って貰うさ。」

「ヤッタァ、ってやっぱり借金なんかい……。あー、ゲーム開始早々借金生活かよ。」


 などと存外、嫌そうでも無い顔で告げると歩みを進める。数百も歩かぬうちに辿り着くのは黒狼の拠点。開け放たれた扉から男を誘うとこう告げる。


「ようこそ、俺の拠点へ。先人の遺物だが精々有効活用してくれ。」


 そう言って、インベントリに収納していた数多の蔵書を並べる。精一杯の見栄を張る黒狼を見たレオトールは苦笑いしながら黒狼に告げた。


「これから頼むとするか、名乗る名も亡き骨よ。」


 そういうとお互い同時に笑った。

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