初心者ミッション

 黒騎士と出会って、数時間。

 拠点としている隠れ家を中心として地下マップをほぼほぼマッピングし終えた黒狼は、隠れ家の椅子に倒れ込んだ。


「つーかーれーたー。」


 何の気なしに始めた事だが、魔物の種類などの情報や狩りを行う時にどの道を使えばいいかを確認できたのは中々に有用な事だ。


「しっかし、魔物の種類が少なくないか……?」


 呟くように疑問提起し、その理由を考える。

 行けるところはある程度行ったにしてはレベルも低く碌な装備も持ってない自分があっさり倒せる程度の敵しか現れなかったと言うのは幾許か不思議な話だ。


「かと思えば、あの蜘蛛が居るしなぁ……。運営は何を考えてんだか……。」


 はぁ、と息を吐きステータスを開く。

 

「お? 通知がきてる。なになに……、アイツからのメールか。フレンド申請も送られてるし……。とりあえず受諾はしといて……。」


 ささっと受諾のボタンを押し、適当な文字をメールで送る。

 1分も経たないうちに、何かのURLが送られ『ヤベェwww』と言う文言が付け足される。


「なんだコレ……? 公式サイトの動画か?」


 どうやら有名動画サイトに繋がっていたようで、そこから黒狼にとって未見の動画が流れる。


「ほぇー、興味ねぇ。」


 開始5秒ほどで動画のタブを消してささっと返信を送ると、通知欄のタブを消す。

 そして、欠伸をすると立ち上がり……。


「いい加減、初心者ミッション終わらすか。」


 呑気に告げる。

 実は残る二つの内、スキル取得を終わらせる方法に関しては目処がついており(というより実は探索中にスキルを一つ取得したことから行動経験でスキル取得は獲得できると判明している。)本格的な問題となりうるのはレベルを上げることだけになっている。


「スキルの取得かぁ、とりあえず魔法出して遊んだらなんかゲット出来るか?」


 魔力操作とか魔力変化とか……、そう思いながらダークボールを出して手の中で遊び出す。

 しばらくすると、ゴムボールのように弾性を持たせることもまるで質量があるかのように重量を演出することが出来ると気付きさながら子供のように時間を忘れて遊んでいたら……。


 ピコン♪


「お、ゲッチュ。何々……、スキル名は魔力操作Ⅰ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔力操作Ⅰ

 適用スキル

  闇魔法

  光魔法


 効果 魔力消費の微軽減及び魔法効果の簡易操作

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おー、なんか便利そうだな。」


 よく分かっていないが、消費魔力が減るという項目を見て喜びそのままダークボールを壁に投げつける。

 投げつけられたダークボールはあっさり破裂し、そのまま消失した。


「よーし、二つ目完了っと。取得条件が経験取得なのは確定したし次は何すっかなー。」


 うーむと悩みながら筋トレでもしようかと地面に手を着く。


「さて、やるか。イチっ!! ニっ!!」


 そうすること約20分。

 骨の体故に疲労感は無いが精神的な怠さを抱えつつ100と数え切った瞬間に同様にピコン♪ と通知音が流れる。


「筋力強化(幽)Ⅰ? 俺、スケルトンだけど獲得できたのか。」


 筋力? となりそうだが、最後に幽と入っているので通常のものでは無いのだろう。

 そういう風に納得すると、今度は少し外に出て地面に転がっている石を拾う。


「投擲スキルを狙うか。どうせ実装されてるんだろ?」


 誰に聞かれるまでもなく、空に消える問いかけを行い石を壁に投げつける。

 此方もおよそ100回。

 それだけの数を繰り返した途端、先ほど同様通知音が流れ己が投擲スキルを獲得した事を知らせる。


「予想通り、だな。さ、次だ次。」


 あっさりとした反応を残し作業的に残り7つのスキルを獲得しようと画策、時間にして2時間半ほどかけて終わらせた。

 獲得したスキルは以下の通り


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槍術

 アクティブスキル

 ・牙突 Lv.1


 効果 槍を持った時に行動微補正

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調合

 相乗スキル

 錬金術


 アクティブスキル

 ・混合 Lv.1

 ・分離 Lv.1


 効果 薬品系アイテムを扱う場合に微補正

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棍術

 相乗スキル

 棒術

 アクティブスキル

 ・強打 Lv.1


 効果 棍棒系アイテムを持った時行動微補正

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言語(ーーーーー語)

 効果 ーーーーー語を読めるようになる(微補正)

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跳躍力増強Ⅰ

 効果 跳躍行動時、微補正

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腕力増強Ⅰ

 適用スキル

 棒術

 棍術


 効果 腕力に対して微補正

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視覚強化Ⅰ

 適用スキル

 鑑定


 効果 視覚に対して微補正

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「あー、疲れたー。」


 頭を天井に上げつつ、首を左右に揺らす。

 そして、目の前のプレゼントボックスを見据え開けるために手を伸ばした。


「また、スキルオーブかよ……。」


 アイテムを期待していた黒狼的には余り嬉しくは無いものだったが、貰い物に贅沢を言うのもまた違う。

 手に取るといつも通りスキルオーブは溶け消え静かに通知が鳴り響く。


 ピコン♪


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インベントリ(0/100kg)

 効果 アイテムを入れることが出来る。

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「大当たりじゃねぇか!! スキルオーブなんて言ってごめんなさいッ!!」


 大いに興奮して様々なアイテムを適当に放り込む。

 今まで悩みに悩んでいたアイテム問題が一気に解決したのだ。

 興奮しない方がおかしい。


「いやぁ、ラッキー!! こんなの序盤で獲得できるとか神ゲーかよ!!」


 作業によって疲れた心が一気に全回復する。

 

「よっしゃ、祭りじゃ祭りじゃ!! 採掘祭りじゃァァァアアア!!!」


 テンションはマッハで天元突破、やる気は無限に向上中。

 槍を手に取り、探索で見つけた様々な採掘ポイントを巡る旅に黒狼は今出……、


「待て。」


 ドンガラガッシャーンドンデンドーン!!


 無かった。

 部屋を出てダッシュで走った先にいた黒騎士が足を引っ掛けて来たのだ。


「神からの言伝、最低限の任務は果たさねばならぬのでな。この短期間でスキルを10個手に入れたと言うのは……、まぁ認めて良いか。」


 そう言うとクエストクリアとアナウンスが流れる。


「えぇ……。」

「ほれ、受け取るがいい。人の魂を持った魔物よ。」

「は、はぁ……。」


 生返事を返しつつ渡された幾つかの本と道具を受け取る。


「ああ、神からの言伝も受け取っていたな。ほれ、よく読んどけ。」


 そう言うと、また何も言わずに踵を翻す。


「ちょっと待て!! お前、何者なんだよ!!」

「……、さぁな。」


 ガシャンと音を立てて黒騎士が足を止めると、視線も向けず言葉を続ける。


「私の正体が知りたくば、私が守る先に行ってみよ。最も、それは私を倒さねばならんがな異邦の者よ。」

「へぇ、参考までに聞きたいけどレベルって今幾つなの?」

「何の指標にもならん数字を教えたところで意味はない、が絶望を伝える為にあえて言おう。私のレベルは128、おそらく今を生きる人類の中で比類し得ることが難しいほどのレベルを持っている。」


 それだけ言うと、今度こそ歩みを進める。


「12、8……。絶対最初にエンカウントしていいnpcじゃ無いだろ……。」


 若干の絶望感を孕ませ、そう言葉を続ける。

 間違いなく、戦いにならない。

 

「と、そういやアイツ……。神からの手紙とか言って渡したやつがあったな。」


 記憶を反芻し、手紙を開く。

 

 ワールドクエストが発生しました。

 このクエストは秘匿されます。

 ワールドクエスト名『ーーーー』……、開示要請が受理されませんでした。

 クエスト内容が秘匿されました。

 クエスト詳細情報が秘匿されました。

 このクエストを取りやめることは出来ません。

 このクエスト達成時には多大な報酬が贈られます。

 このクエスト失敗時には失敗報酬が送られます。

 このクエストを行うことによるデメリットはありません。



 アナウンスの嵐、計9つのアナウンスはまるでようやく黒狼の物語が始まり出したかのような言い方をしている。


「ワールドクエスト……、だと?」


 慌てて開いた手紙をみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 拝啓、黒狼様へ。

 まず最初に異邦の貴方が種族として闇に属する者であったことを祝福しましょう。

 そして、遅まきながら私の自己紹介を。

 私は、『月より闇と魔を司る純潔の神』の【Ἄρτεμις】です。

 そして、邪神として封じられています。

 貴方にお願いしたいのは私をその幽閉から解き放つこと。

 協力してくれるので有れば黒い鎧を着ている彼に尋ねてください。

 きっと有益なコトを教えてくれるでしょう。


 それとは別に、か弱き貴方がこの世界に生まれた事を祝してささやかなプレゼントを贈ります。

 貴方の異なる人生に祝福あらん事を……。


 神が言ってしまってはダメでしょうけどね……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ナニコレ?」


 なんか重大そうな事を託された当の本人は間抜けな声を上げて首を捻っていた。

 

「さっきのアナウンス的にストーリー的な奴なのか? やる気でねぇ。」


 しかもやる気もないらしい。

 こんなやつに重大なクエストを託して本当に良かったのだろうか?


「しかも、統一語とも旧英語とも違う文字使われてるしなんだよコレ。名前教えるとか言って何も教えてねぇじゃん。」


 文句をタラタラと立てながら図太く渡された道具をインベントリに放り込む。


「やらなくてもいいって書いてたし、気にせず採掘するか!!」


 そう言ってスキップしながら黒狼は採掘ポイントへ向かった。

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