洞窟蜘蛛の槍
洞窟を駆け回る事、約2時間。
黒狼の手には数多の素材……、はなくあるのはいくつかの使い道のよく分からない素材と3本の棍棒があった。
「泥率ゴミか?」
ブツブツと、文句を口遊みつつ得たアイテムを扉の中に放り込む。
とりあえずは、で決めた最初の棍棒が壊れるまでゴブリン等を狩ると言う目標は未だ継続中。
素材は幾らあっても困ることは無いと判断したが故の目標だったが、棍棒の耐久値は4程度。
着実に減ってはいるが、棍棒が壊れるより先にゴブリンを50匹ほど倒す方が早くなりそうだ。
「お、発見。」
扉へ続く本道、そこから逸れた分道の一つ。
その道の半ばにゴブリンが4匹屯しているのを見て、喜色を馳せながら棍棒を握り直す。
最初の目標こそ棍棒集めだったが、途中から目標は棍棒が壊れるほど倒すことになっていた。
何度も戦った戦闘経験から、大きな音を出し注意を惹きつける。
あまり上質なAIを搭載していないのか、その音に引かれて振り向き大声を上げて黒狼を倒すように一斉に前に出る。
だが、ここは洞窟内。
狭い通路に、4匹も同時に進めば自由に動ける隙間など有って無いような物。
必然、連携など取れるはずもなく1匹が転びそのまま流れるように全員転ぶ。
「こっからは実質作業だな。」
もう幾度となく繰り返した頭に棍棒を打ち付ける作業を計4回。
あっさり、ゴブリンはポリゴン片へと変化し布が1枚地面に落ちる。
「お、レアドロじゃん。」
髑髏の顔を歪ませ笑うと、以前に得た布で包みよいしょと背負い直す。
モンスターを倒した時のドロップ品をまとめて持ち歩くのであれば箱鞄より余程こっちの方が使い勝手が良いと考えたが故のちょっとした知恵だ。
戦闘行為を目的としている以上やはり両手は空いていた方がいいという答えは、当然の話だろう。
「これで布も5枚目。棍棒が出なかったのは残念だけど……、実質誤差だな。」
訳の分からない独り言をブツブツと呟くスケルトンは側から見たら唯の不審者以上だが、生憎見る相手はゴブリンかスライムかコウモリぐらいなので気にすることもない。
「採掘ポイントもここには無し……、か。やっぱり最初の場所が特別だったのか?」
壁に目線を向けながそう呟く。
黒狼的にあれば幸運程度に思っていたが、実際探して見ると殆ど存在しない。
あったとしても手が届かなかったり、何も無かったりが多くそちらからの収穫はかなり少ない。
そんな状況を見れば、安易に手が届いた最初が異常と思えてもおかしく無いだろう。
「これで……、30手前ぐらいか。大分狩ったな。」
そう呟きながら、欠伸をする。
眠い訳ではなく、どちらかと言えば期待していたよりも面白味が無いことによる退屈が原因だろう。
元より、ゲームなどより小説などが好きでありゲームとは1年近く疎遠の生活を送ってきた。
別に嫌いなどではなく自身が楽しめないだろうという決めつけが原因であったが、実際それは事実と言えた。
昨今のゲームは広大な世界や圧倒的な自由度などを売りにはしているが実際遊んでみると、どうしても文字でしか世界を見れない小説や手を伸ばすことのできない2次元の方が余程魅力的に見えた。
だからこそ幾つものゲームをこなし、親しい者からゲーム博士とまで言われ一部の有名大会で名を連ねた友人から勧められたこのゲームには期待していたのだが……。
その友人から物凄い熱意で告げられたにしては余りにも詰まらない、それが黒狼の感想だった。
確かに、面白いか面白く無いかで言えば面白い。
だが、黒狼の求めている異常性がない。
二次元や小説に出てくるようなありそうでない世界観ではない。
現実の延長線上、あり得ないを追加した現実。
言うなれば、現実の模倣。
それは、黒狼の『愉しさ』足り得るものでは無かった。
不可能に挑む勇者になりたい訳ではない。
面白おかしく世界をひっくり返したい訳ではない。
ただ、愉しみたいだけでありその愉しさはこの世界に現時点で見出せない。
故に、黒狼は退屈を抱えているのだ。
この瞬間までは。
音がした。
静かな音だ。
本来ならば気づくはずのない音。
だが、より静かな洞窟でその音はより強く響いた。
「……、へぇ。」
背後をゆっくり振り返る。
虚な眼孔に宿る眼力でソレをみる。
…………………………ザッ。
それは蜘蛛だった。
だが普通の蜘蛛ではない。
高さ30cm、横幅70cmにも及ぶであろう巨大蜘蛛だ。
より高く、早く。
退屈は一瞬にして消えた。
思考は一瞬、相手は獲物か
警戒に足りうる脅威かどうかのみ。
武器はオンボロの棍棒が一つ。
口がニヤリと歪む。
それと同時に退屈し無さそうだと、理解した。
確かに、コレは最高のゲームだろう。
何せNPCの癖に立派に、
評価を改めなければならない。
コレは、
ソレを理性が、本能が、叫ぶ。
歪む口元が思考より先に体を動かす。
まずは、小手調べの一撃。
されど必殺の意志を込めた一撃。
重く鋭く速い振り上げるように放たれた打撃は蜘蛛の巨体を退かせ……、無い。
「なッ!?」
全力とまではいかないもののそこそこ本気の打撃。
それ故に一切の反応を返さない蜘蛛は不気味そのものであり恐怖による致命的な隙を晒し、次の瞬間黒狼は弾き飛ばされる。
いや、弾き飛ばされたのでは無い。
弾き飛ばすだけで終わらす気など、蜘蛛には毛頭もない。
飛んだ黒狼に追随する様に素早く動いた蜘蛛は、壁に当たり止まった黒狼を自慢の足で滅多刺しにする。
「ガハッ!!」
呼吸がままならない。
視界が大きくブレる。
まるで実際に刺されているかのように。
満足に動けない、動かない体を無理やり動かす。
耐久値は、残り3と瀕死に等しい。
だが刺突攻撃によるダメージは非常に少ないことを確認した黒狼は、無理矢理立ち上がり……。
そのまま、洞窟の奥へ弾き飛ばされた。
*ーーー*
「クッソぉッ!!」
リスポーンして最初に告げた言葉はソレだった。
「行けると思ったんだがなぁ……、というかゴブリンがあのレベルなのに蜘蛛の強さが異常じゃ無いかよ。」
間違いない。
黒狼が知り得る事ではないがあの蜘蛛……。
いや、ヒューマン族からアサシン・スパイダーと言われているアレの実力は非常に高い。
闇より背後から一撃で首を掻き切ると言われており、そもそも気付けなければ倒すことは不可能と言われているレベルの強さだ。
黒狼が気付き、正面から応じれた時点でかなり幸運とも言える。
「とりあえず、部屋に戻るか。」
よっこらしょ、と立ち上がり洞窟をさっさと駆ける。
何度か往復すれば手早く移動できるようにはなる。
5分もすれば、扉の前に到着した。
「あ、鍵ねぇ……。」
開かない扉を見て、思い出したようにそう告げる。
そして迷ったように唸った後、仕方無しという風に溜息を吐き先程蜘蛛に殺された所へ赴く。
辿り着くとそこにはバラバラになった骨の骸が落ちているだけであり、例の蜘蛛の姿は見つからない。
「あー、壊れちまったかぁー。」
棍棒が壊れてる姿を見て少々残念そうに呟くと一息吐き、さっさと骨と布と鍵を拾い走って扉まで向かう。
こんなところで殺されては溜まったものではない。
大した時間も掛けずに扉の中に入り、いくつかの素材を整理する。
そして作れそうなレシピを再確認するため、タブを再度開く。
「変化無し……、か。」
綴られている内容に変化無し。
現時点の素材では作れるものも変わりない。
「しゃーない、ちゃっちゃと作るか。」
そう告げると、レシピタブを開き錬金術を使いながら棍棒に洞窟蜘蛛の脚をはめていく。
幸いにも、棍棒は余っていたため箱鞄に入っていたナイフで加工し洞窟蜘蛛の脚の中に詰め込んでいく。
そして、レシピ通りに棍棒を差し込み苔を詰め滑り止めと利用する。
「できた……。」
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鑑定結果:洞窟蜘蛛の槍(改) 品質:劣
・洞窟蜘蛛の脚で作られた槍。鋭く、本来の物より丈夫となっている。
ステータス
攻撃力:10
耐久値微補正
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「おぉ……。初めてにしては上出来じゃないか?」
本来の効果に上乗せされた耐久値微補正の文字を見て、思わず呟く。
初めての作品にしてこれだけのことができれば十分と言えるだろう。
そんなふうに喜び、完成した槍を手に取る。
その瞬間、何度も見たタブが目の前に現れた。
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・装備品を装備せよ!! (1/1)
ミッションをクリアしましたのでアイテムを贈呈します。
スキル構成から有用なアイテムが送られます。
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「そういや、そんなのもあったな。」
思い出したかのように口遊み、箱を開ける。
中にはまた、透き通った水晶がある。
「スキルオーブか。内容は……、へぇ。」
鑑定したスキルオーブ、内包されていたスキルは【生活魔法】だった。
「生活魔法……。効果は基礎魔法の適正発露と基本魔法の取得、か。マジで良い物しか出ないなコレ。」
早速触り、取得のファンファーレを聞く。
達成感がないのは先程同様、だが二度目と言うことも有り慣れて仕舞えばそこまで気にもならない。
というより、期待からの詰まらなさというのがガッカリの原因であればそもそも期待していない今回はそのガッカリにたどり着くことがないというのが正解だろう。
そう言うことで大して気分を害することもなく、サクッとスキル詳細のタブを開く。
書かれている内容は使用可能スキルと効果詳細。
とは言っても、効果詳細の割に本格的に詳細な内容が書かれている訳ではなく大体この程度の効果があると言うざっくりした物であったが……。
「四大元素は使いそうだけどそれ以外は……。まぁ、微妙だろうなぁ。」
内包されている属性は六種類、その中に含まれる光と闇に関してはそもそも魔法を取得しているので使う気はない。
そう言う訳で、取得していない四大元素以外を微妙というのも当然の話だろう。
「とりあえず一旦ログアウトするか、腹減って来たし。」
視界の端にさっきから現れていた空腹を示すアラートを見ながら呟くと、ログアウト処理をする。
そうして、彼はこの世界から一旦離れた。
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