第44話_特殊武装部隊ノア・ウィリアムズ

 パラシュートで降下してきた黒ずくめで目出し帽をかぶった男。アニマは騒いでいない。だが、涼介は危険を感じていた。これは、生徒会メンバーの久原と対峙した時と同じ部類のものである。とにかくヤバいヤツ、人間性の危険いう言葉がぴったりである。


 涼介はスッと立ち上がり、馬乗りになっていた桜井敏弥を解放した。

 先ほど通過したヘリは特殊武装部隊と名乗っていた。目の前の男もそのメンバーの1人なのか。十二神将の1人なのだろうか。

 涼介の脳裏に10歳年上の兄、伊藤康介の顔がよぎる。


 康介は頭脳明晰、スポーツ万能。絵にかいたような優等生タイプの人間である。しかもケンカも強いため質が悪い。昔からよく言えば実直でまじめ。悪く言えば頭が固く、潔癖である。10歳も離れているため、一般的な年齢の近い兄弟とは少し違う関係性。康介からは高校生になった今でも子供扱いをされながらも、涼介は康介の背中をついて行くような関係性であった。

 康介は有名大学を卒業し、大手商社に入社し、海外勤務をしていた。

父親は警察官だった。そんな父親が3年前、涼介が13歳、康介が23歳のときに、前触れもなく失踪した。

まもなく康介は商社を退職し、警察官となり、国防省所属の特殊武装部隊への道へ進んだ。特殊武装部隊は国家機密事項ばかりの部隊であり、康介がどのような仕事をしているかも知らされていなかった。

約1か月前、国防省より封書が届いた。康介が特殊武装部隊の選抜12人、通称十二神将に選ばれたことを知った。その後、テレビに映っていた康介を見て母が大声をあげて喜んでいた。



 そう……兄貴は特殊武装部隊所属、十二神将の1人なのだ。

 ……バレたら、ヤバい。殺される。


 潔癖な康介には、小さい頃から何度も叱られた。いたずらをしたり、友達とケンカしたりした時にも叱られた。しかも、同じく久原道場での武道経験あり。当時、久原道場館長と互角の組手をみせるような猛者。こんな康介に参加していることがバレたらヤバい。

 生憎、目の前の黒ずくめのシルエットは、康介のものとは違う。今のところはバレていないと信じよう。



 涼介の肚が急に疼いた。アニマが目覚めた。

 涼介は振り返る。桜井敏弥は涼介の背後で、いつの間にかセミの抜け殻のようなものを背負っていた。アニマを顕現し、左腕を伸ばして構えていた。桜井敏弥の左腕は発射台のような形状に変形し、右手でゴムのような引き金を引いていた。

 涼介には、止める間もなかった。

 桜井敏弥は、躊躇なく右手を離した。その弾道は黒ずくめの男の方に向いていた。だが、黒ずくめの男はその弾道を軽々とかわした。

 さらに、桜井敏弥は2発、3発と移動しながら撃った。だが、その弾自体が黒ずくめを避けているかの如く、黒ずくめには当たらなかった。


 黒ずくめの男は、桜井敏弥の方へゆっくりと歩いて近づいていく。まるで古い友人と会った時のように、穏やかな歩調であった。


 黒ずくめの男は、桜井敏弥の近くまで進んだ。目の前で立ちどまり「サア、サア……私に身をゆだねなサイ。ムダな戦いはやめまショウ」と優しい口調で言いつつ、自らの拳を引いた。

 涼介は桜井敏弥と黒ずくめの間に入るよう身を滑らせ、砂の壁を顕現させた。

 黒ずくめは引いた拳を桜井敏弥に向けてまっすぐ伸ばした。だが、涼介の砂の壁がその拳の勢いを受け止めた。砂の壁が飛散した。ただのパンチの威力ではない。

「やりますねぇ」と目指し帽の奥の青い目と涼介の目が合った。

 涼介は黒ずくめの顔を狙い、右の拳を振るう。だが、黒ずくめは体をのけぞらせ、それをかわす。涼介は攻撃態勢そのままで、今度は左回し蹴りで今度は腹部を狙う。が、密着するほど距離を縮められ、回し蹴りの勢いを殺された。

「若いデスネ……」

 涼介の腹部に黒ずくめの拳が刺さった。たまらず、その場に崩れ落ちた。



 その一連の拳のやり取りは、桜井敏弥にとって、次の攻撃の準備に十分な時間をもたらした。桜井敏弥は4発目を撃った。

 黒ずくめの男は、バックステップをしながら体をひねり、その弾道をかわした。が、その弾道は黒ずくめを通り過ぎた後、大きく弧を描き、再び黒ずくめに向かって飛んでいった。黒ずくめはその弾道に気付くのが遅れ、かわし切れず後方から左肩を貫いた。

「痛イ……」と黒ずくめが左肩を押さえた。だが、貫かれたにも関わらず、言葉とは裏腹に痛そうにもしていない。

「痛いデス。でも、知ってマス。日本人トモダチから聞いた、ツバつけタラ、治るッテ」と言いながら、目指し帽を脱ぎ、人差し指をペロッと舐めて、左肩の傷口に塗っていた。


 その間に涼介は立ち上がり、視線は黒ずくめに向けたまま、桜井敏弥の隣に立った。

「大丈夫か?」

「アンタよりはな」

「そっか、そうだな。じゃあ、俺が好きを作る。お前は逃げろ」

「はぁ?なんで?」

「なんでって……特殊武装部隊だぜ。軍人みたいなもんだ。レベルが違い過ぎる」

「アンタにとってはそうかもしれないが、オレにとってはそうではない。それに北上さんからは、逃げるなんては教わっていない」

 そう言いながら、桜井敏弥は1歩前進し、左腕を伸ばす。5発目を撃った。だが、今度は黒ずくめに軽々とかわされた。


「アナタたちは私の言うことを聞かナイのですネ。しかたがありまセン……」

 黒ずくめの男が言葉を続ける。

「特殊武装スーツ『アンティラ』を起動します。もう、手加減シマセン。デキマセーン」

 黒ずくめの男は腕時計を操作する。身体全体に覆っている得体のしれない全身タイツのようなものが起動する。背負っているバックパックから10本の蜘蛛の足のような先のとがった義手が伸びる。それと同時に、特殊武装スーツが起動した瞬間、全身にまんべんなく小さな穴が開いた。その穴にはレンズが付けられていた。



「私はノア・ウィリアムズ。特殊武装部隊十二神将の1人、呼称はアンティラ。私は苦しむ者を救うもの。だから、皆さんラクになればいいと思っていマス」



 目の前で10本の義手が不規則に動いている。気味の悪い動きをしている。

 涼介のアニマは騒いではいなかった。だが、押しつぶされそうなほどの威圧感を感じていた。

 やはりヤバい人だ。

 涼介は桜井敏弥の方を見る。逃げようとする素振りは全くない。ならば、どこまでできるかわからないが……


「桜井敏弥。やるぞ」


 涼介は腹をくくった。

 桜井敏弥を無事に帰すために。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生


・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。

・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生。同級生

・池下美咲:高校1年生。同級生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音(モグラ):高校3年生。生徒会総務

・美馬龍之介(千里眼):生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査

・古賀星太(ベルゼブブ):高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・斎藤真一:スカウトマン・テタルトス。崎山高校生徒会顧問

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス



■コロッセオ参加者

・田中一成(オクトパス):予備校生

・火神直樹(ヘファイストス):赤髪

・藤田一郎(ゼウス):黒髪パーマメガネ

・桜井敏弥:桜井千沙の弟。中学生



■国防省

・K:国防省、特殊武装部隊関係者



■特殊武装部隊(十二神将)

・日高司:特殊武装部隊隊長

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・花村美咲:特殊武装部隊隊員

・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄

・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員

・ノア・ウィリアムズ(アンディラ):特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、元軍人

・鈴木翔:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア

・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア



■不明

・水野七海:日本刀を持つ女

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