第13話_アニマ

 「そっか、伊藤君の砂のわんちゃん、食べられちゃたのか……」

 生徒会長の木下は軽い口調で「そのわんちゃん出せる?」と言葉を続けた


 ……わんちゃん。

 あの時の勇ましい砂の犬をわんちゃん呼ばわりされた。まあ、見たことないからそう思われても仕方がない。


 涼介はあの時の大型犬を想像しながら「やってみます」とだけ言い、左手を伸ばした。が、何も起きなかった。


 木下は頷きながら「アニマの使役の仕方もわからないのね」と言った。

 「アニマ?」

 涼介の言葉に木下は「ほんと、スカウトマンから何も教えてもらってないんだね」と苦笑いをする。

 「アニマは……えっとね。簡単に言うと、自分の能力を具現化したもの。卵をふ化させて出てきたでしょ?あれよ、あれ。伊藤君だけじゃなくて、私も、星太君もみんな、アニマを体の中で飼っているのよ」


 涼介は体の中で飼っているという言葉に、気味の悪さを感じる。そういえば、あの時……と思い、そのまま口に出した。


 「そういえば、ラスボスと戦っていたとき、頭の中で声が聞こえてきて……自分が抑えられなかったことが。あれも体の中に、アニマだっけ?……が、いるからですか?」

 木下は頷く。

 「伊藤君は、そういう経験はしているのね。まあ、ラスボスと戦ったんだから当たり前よね」

 木下は軽く咳をする。

「伊藤君のそれは、アニマに乗っ取られていた状態なの。乗っ取られれば、自分の感情を抑えられなくなってしまう。だから、アニマを使役する必要があるってわけなのよ」

 「じゃあ、そのアニマを出したら、俺、暴れるかもしれませんよ。オレ扱えないし」


 背後の席に座っている久原が「涼介、オレより強いって思ってる?」と低い声で言ってきた。



 この人を忘れていた。

 涼介は、気づかれないようにため息をついた


 この人には殴られたくない。めっちゃ痛いもん。



 涼介はそっと振り返る。久原の目が光っている。違う意味で、アニマを出したくなくなった。

 「まあ、出せるようになったら相手してやるよ」と久原は鼻で笑った。


 木下がその様子を察して「まあまあ、久原君。後輩をいじめないで。あと、伊藤君、大丈夫よ。これだけメンバーがそろっているから、何かあってもちゃんと取り押さえられるわよ」と笑った。



 やっぱり暴力かよ。

 取り押さえるという言葉を聞いて、涼介は肩を落とした。



 木下が軽く手を叩く。

 「はい。じゃあ、伊藤君、もう一回挑戦しよっか。そうね。力を込めるのではなくて、イメージが大事。わんちゃんの形をしていたのよね。その時の姿や様子を思い出して」


 涼介は嫌々左手を突き出した。

 アニマを出したら、殴られて押さえつけられる。

 出せなかったら、出せるまで木下に催促される。

 この逃げられない状況で、自分にとっての被害最小限を考える。が、思いつかなかった。


 だが、1つ鮮明に思い出したことがある。

 ラスボスの前に立っていたあの時。逃げ場がないと覚悟を決め、その後ことを。


 涼介は目をつむり、犬が生えてくる過程を思い浮かべた。

 さらさらという音が聞こえてきた。左腕が崩れていっているのも分かる。

 木下が「伊藤君、その調子」と、応援するかのように声を上げる。

 砂が足元に広がっていき、その砂がもぞもぞと動き始める。



 そこから、犬が生えてきた。が、小さい。

 子犬だ。

 短い尻尾をぶんぶん振っている。



 生徒会室に笑いが起きる。特に、上田と美馬が爆笑していた。

 生徒会室の奥の方、一番クールそうな鋭い眼光メガネ女子の和久井も、他のメンバーにバレないよう肩を揺らしていた。



 最悪だ……

 涼介は頭を抱え、顔を真っ赤にした。


 そんな伊藤の様子を気にすることもなく木下は、砂の子犬の近くにしゃがみ「かわいい」とその頭を撫でた。

 砂の子犬は嬉しそうに尻尾を振り、木下にじゃれつこうとしている。

 木下は、その砂の子犬に触れながら「大丈夫よ。私のアニマを分けてあげるからね」と優しく言った。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介:高校1年生。久原道場の元門下生

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生

・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。


・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞:高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス


■不明

・水野:日本刀を持つ女

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