第11話_生徒会長の思惑

 マズいことを言ったのかもしれない。

 涼介は、ものすごく後悔していた。

 ラスボスと会ったと言っただけなのに……


 「ラスボスってどんなやつ?どんな顔?」

 「強いの?」

 「あいつのアニマはなんだ?」


 このざまだ。

 涼介は返事をする前に次の質問が飛んできた。

 なんだよ、アニマって。

 うんざりだ。



 そんな様子を見て、生徒会長の木下が「まあまあ、みんなちょっとおちついて」とゆっくりとした口調で言葉をはさんだ。


 助け船のような木下の言葉。

 だが、津波のような荒波をたてた張本人なので、うれしいとも何とも思わない。

 涼介は身構えるように木下の次の言葉を待った。


 「みなさん、ちょっと落ち着きましょうね。いきなり質問されても、伊藤君がこまっちゃうよね。新しく生徒会に入ってもらう伊藤君に、まずは自己紹介しましょう……ね?」


 子供か?

 完全に木下のペースに流されているこの荒波に抵抗すべく涼介は「いや、俺は……」と断ろうとしたが、木下は軽く咳払いをして勝手に進行する。

 「今さらですが、3年生徒会長の木下舞です。では、次」

 勝手に進行していく。


 鋭い眼光メガネの男。

 「生徒会副会長の世良数馬だ」


 次の人は嫌というほど知っている。生徒会の武闘派。

 「議長の久原貴斗」


 さっき生徒会の奥で笑っていた女。

 「3年の総務担当。上田琴音だよ。よろしくね」


 こちらに全く興味を持っていない小太りの男。

 「2年……会計の美馬……です」


 こちらにも鋭い眼光メガネの女。ポニーテールが印象的。

 「2年監査。和久井乃亜」


 最後に、星太が口を開く

 「1年書記、古賀星太です」



 涼介は心の中、誰にも気づかれないように鼻で笑う。

 ……いきなりこんな人数の顔と名前、覚えられるわけがねぇ。

 涼介は覚えるのをあきらめた。



 木下がこちらをさして「はい、どうぞ」と言った。

 「え?え?あ、伊藤涼介です」

 「伊藤君、よろしくね」と木下が拍手をした。他の生徒会メンバーもお付き合いとばかりのまばらな拍手が起きる。


 ……よろしくされたくないんですけど。

 涼介は苦笑いをした。助けを求めるように星太を見たが、星太は嬉しそうに拍手をしていた。


 「伊藤君には、詳しいことは後ほど説明するとして……」と木下が話し始めた。

 「先にみんなに聞いて欲しいことがあるの。同じ高校の仲間にコロッセオ参加者が出てきたのを見過ごすわけにはいかないから、生徒会に入れたいっていうこともあるんだけど、実は、伊藤君を誘うのはもっと重要な意味があるの。これは、世良君にも同意をもらっているから……ね」

 星太の顔が横に向いた。

 涼介は、星太の目線を追って相手を特定する。



 ああ……鋭い眼光メガネの副会長か。


 口に出していないはずなのに悪口に気付かれたのか、涼介は世良ににらまれた気がした。

 涼介は首をすくめた。

 その様子に気付いたかどうかはわからないが、世良は何も言わず木下の方に視線を向けて軽く首を縦に振った。

 木下はにこりと笑う。


 「伊藤君には『ラスボスを退けた唯一の男』として生徒会に

参加して頂きましょう」


 生徒会室の温度が1度くらい下がったような気がした。それほど、空気が張り詰めた。

 「生徒会には、ラスボスと対等に戦える人がいると知れ渡れば、生徒会にちょっかいを出してくる人もいないでしょう」

 生徒会室の緊張とは裏腹に、木下のゆるい笑顔は消えなかった。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介:高校1年生。久原道場の元門下生

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生

・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。


・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞:高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス


■不明

・水野:日本刀を持つ女

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