誰がために喰らう

のらすけ

第1話_予告

 スポットライトが壇上の端を照らす。スタンドマイクの前に黒のタキシードを着た男が姿を現した。

 「皆さま、本日はお忙しいところお時間を頂き、誠にありがとうございます。第10回コロッセオ開催に先立ちまして、株式会社神楽カンパニー代表取締役会長の神楽重吉よりご説明をさせて頂きます」


 スポットライトが消え、男の姿が闇に消えた。

 快適な空調管理。澄んだ空気。声が届く心地よい静寂。そして、この暗い空間。

 意図的に壇上に立つ者の言葉に集中できる空間が整えられている。


 その壇上の中央にスポットライトが照らされ、今度は黒のタキシードの老人が姿を現した。髪は白髪で、しわも深い。背も少し丸く杖をついている。

 その老人が現れるなり、会場は割れんばかりの拍手が起こった。

 老人はその拍手が少し落ち着くのを待ち、軽く手を挙げた。それに応じるように拍手がやみ、再び、静寂が訪れた。


 「株式会社神楽カンパニー、神楽重吉でございます。本日は、わが社が主催するコロッセオにご参加いただき、誠にありがとうございます。弊社社員一同、心よりお礼を申し上げます。さて、皆様のおかげで、コロッセオは第10回目を開催できることとなりました。これは、皆様の多大なる支援のおかげでございます」

 神楽重吉は、頭を下げた。

 再び、拍手が訪れた。が、今度は自然と拍手が止んだ。聴衆は次の言葉を焦がれている。

 「試行錯誤の繰り返しでした。コロッセオの運用やルール、人選など、改善に改善を重ねました。そして、10回目。アニバーサリーでございます。弊社としても、特別なものにしたいと考えております」

 神楽重吉の後方の壁面に、地図が映し出された。

 「第10回は、バトルロイヤル方式。会場はここ、石神市で行います」

 会場がどよめく。各々が何かを言い合っているが、聞き取ることはできないほど、混沌としていた。

 神楽重吉は、軽く手を上げる。三度、会場が静寂に包まれる。

 「第10回コロッセオの開会と詳細情報の開示は、3か月後の7月13日。それまで、もうしばらくお待ちください」

 神楽重吉は深く頭を下げた。


 会場から割れんばかりの拍手と歓声が起こった。止むことのないそれを一身に受け、神楽重吉は頭をあげた。神楽重吉は笑顔だった。




<登場人物>


■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

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