第51話 私の姪っ子 希海 

「よし、0k!後は、仕事か。」

 「佳織さん、了解してくれたんですか。」

 「ああ、今日は職員室で、雑用業務やから、生徒もおらんし、昼までやったら、いいって…小学校に向かう前に、家に寄ってくれるらしいわ。」

 また又、視線を時計に向けると、午前七時十五分を過ぎていた。手に持っていたスマホでも、時間を確認する。

 「この時間、専務来ているやろ。」

 手に持つスマホで会社に電話する。眠たそうな、声のトーンの低い声が、スピーカーから流れる。上司に対する言葉使いで、今朝起きた状況を説明して、十五分ほど遅刻する事と、今日、半休を貰えないか、スマホを耳に当てて、頭を何度も下げている。希海の耳に届く京一の言葉の数々。まだ、中学生の女の子を、家に一人で置いておくにはいかないので…昼間では、預かってくれる人が見つかったんですけど…すいません、急に…姪っ子を会社に連れていくにはいかないでしょ…ほんと、すいません。急に…耳に届く京一の言葉を、どう受け取っているのか。

 朝食を食べ終え、洗い物を台所まで運ぶ徹。スマホの画面をストロークする京一に向かって、こんな声を掛けた。

 「ほなぁ、俺、先に出るんで…」

 徹は、寝坊をしない限り、午前三十分前には、出勤することにしている。ラジオ体操をして、朝の掃除を終えてすぐに、仕事に取り掛かれるように、仕事前の下準備をする為に、本当は、四十五分までに、出勤すればいいのだが、十五分、出来れば、二十分前に出勤して、その下準備をする。

 「じゃあ、行ってきます。希海ちゃんも、今日の夕方な。少しはおじさんに、感謝しぃや。」 

 そんな言葉を残して、出掛けて行った。もちろん、徹が口にした、おじさんとは、京一の事である。朝のドタバタしてする時間、連絡を入れずに、やってきたことに対しての、揶揄のつもりであったのだろう。とにかく、徹が出かけて、叔父と姪の二人きりになった。叔父の京一は、とりあえず、落着くために、台所でやかんに水を入れ、お湯を沸かす。コーヒーを飲むためである。考えて見れば、朝、家でコーヒーを飲む回数が減っている事に気付く。朝食を白ご飯と決めているから、どうしても、熱い緑茶になってしまう。若い頃は、朝は、コーヒーだけという時期もあったが、四十を前にすると、どうしても、和の方に傾いているみたいである。姪の希海は、チビチビと食事を勧めていた。コーヒーをいれたマグカップを手に、希海が座る席の斜め前に座ってしまう。牛乳だけが入ったコーヒーを一口、喉に流した時、視線を希海に向けた。考えてみれば、目の前の姪っ子と、まともに会話をしていない事に気付く。そして、今日まで、姪っ子と会ったことがあるのかと聞かれれば、写真で見ただけで、会った事がないのだ。もちろん、自分には、姪っ子の希海がいる事は認識していた。定期的に届く姉からの手紙にも、希海の写真が送られてきていた。どんな会話をすればいいのか、全く、思いつかない。まずは、家出の理由を聞くべきなのであろうが、これは、真っ先に除外される。学校での事、無難に、何歳になったんや。そんな言葉から始めた方がいいのか。色んな言葉が、頭を駆け巡り消えていく。

 あの~、色んな言葉を、頭の中に駆け巡っている間、意外にも、希海の方から言葉をかけてきた。

 「本当にすいません。突然に、訪ねてきてしまって…」

 京一は、声色が気になった。何か、懐かしい。なんで、そんな事を感じるのかと、希海の顔をまじまじと見つめてしまう。

 「お前、姉さんに、そっくりやな。」

 思わず、口にしてしまった言葉であった。声色が気になったのも、懐かしく感じたのも、記憶に残る姉、和香に、容姿も声色も似ていたからであったことに気付く。

 えっ!想像もしない、京一の言葉に、視線を京一に向けていた。二人は、見つめ合った。お互いに、目の合った状態になってのは、この時が初めてあった。

 「いや~、ほんま、そっくりや。姉さんに、ほんま、びっくりしてもうた。」

 ひょとんとした表情を浮かべ、返す言葉が見つかない希海を無視するように、京一は言葉を続けた。

 「変なこと言ったか。ごめんな。まぁ、ここからは、真剣な話をな。」

 背筋をピンと張り、身体を希海に向ける。不思議と、自然になれた。希海に、姉の面影を重ね合わせたら、肩の力が抜けていた。

 「まずは、お前は、私にとって、姉からの大事な預かりモノになる。だから、まぁ、今は、一人にしておく事は出来へん。やから、今から、女性が来る。その女性に、昼まで預かってもらおうと思う。その女性は、おじさんの友達で、とても信用が出来る人や。お前も聞いていたと思うけど、仕事も半休を貰ったし、話は、今日の昼の後にしよう。わかったか。」

 頷く希海の姿を見て、京一も頷く。

 「よし、とりあえず、朝飯をすましなさい。」

 叔父モードに入ったのか、命令口調になっているのは、気づいていない。それから、佳織が来るまでの間、二人は、会話を交わさないでいた。


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