第3話 みどりのやつ

 俺は新たなアカウントを作るための魅力的な魔物を探していた。魅力的な魔物にはなかなか出会うことはなく、エンカウントした倒せそうな魔物の悉くを狩って森の奥に進んでいた。とはいっても、スライムスライムスライムでっかい芋虫スライムスライム、くらいのほとんどスライムだったんだけども。でも、おかげでレベルも風魔法のコントロール力も高まった。有意義な時間だった。


 俊敏と経験値取得率上昇により、狩りの効率ならびにレベルアップ速度が格段に上がった。


 そんなこんなでスライムを倒しながら森の奥へ進んでいった俺の目の前に、新しいアカウントにふさわしい魅力的な魔物がいる。緑のG、ゴブリンだ。しかも1匹。ゴブリンを見つけたら30匹いると思え、とはウェブ小説の格言だが、俺の場合1匹食べればゴブリンになれる。

 

 5分近くゴブリンを観察しているが、仲間も来ないし、ギャギャとかほざいているだけだ。よし殺そう。そうと決まれば、

 

 「ほい、ウィンドカッター」


 ザシュッ

 背後からの魔法でゴブリンの首は吹き飛び、あっけなく戦闘は終了した。

 

 スライム戦で使い古したウィンドカッターは百発百中、この世に切れぬものなしだ。えっへん。最近、誰も話してくれる人がいないからおかしくなっているな、なんて考えていると倒したゴブリンの捕食が終了した。別のことを考えながら食べないとやってられない。スライム特有の酸で溶かしながら食べるため、味はしないが見た目は気味が悪い。


 《対象種族のサンプルを摂取し、因子を抽出しています・・・》

 頭の中にアナウンスが流れてきた。サンプルを摂取してから、”アカウント作成”ができるようになるまで、時間を必要とするらしい。殺したゴブリンの仲間が来ないか、周囲を警戒しながら身を隠して、その時を待つ。


 《鬼人族・小鬼の因子の抽出に成功しました。”アカウント作成”が可能となります。新たなアカウントが作成可能となったため、”アカウント作成”の権能が覚醒します》

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スキル説明 

 『アカウント作成』・・・【権能】アカウント作成、アカウント共有、???、???

 アカウント作成:新たな生命を作り、それに応じたステータスを取得することができるスキル。アカウントとは、サンプルを摂取することで、因子を抽出し新たなステータスを獲得を取得できる。


 『アカウント共有』New:別のアカウントの持つユニークスキル、スキルとスキルポイントを共有できる。共有できるユニークスキル、スキルはアカウント1つにつき1つ。ユニークスキルを1つ共有した場合、スキルは共有できない。逆に、スキルを1つ共有した場合、ユニークスキルは共有できない。

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 権能の一つの覚醒に成功した。意外と早くに覚醒したな。もしかすると、???になっているのは明らかになっていても使えないから、伏せられているのかもしれない。しかし、とてつもなく便利な権能だ。単純に、スキルポイントを節約できるし、将来的なことを考えると、ユニークスキルは種族固有などの先天的なものが多いため、ユニークスキル狙いで”アカウント作成”する可能性も出てきて、より戦略の幅が広がる。

 

 二つ以上のアカウントがないと使えない権能であったため、???になっていたんだと思う。権能を知っていると知っていないとでは、これからの立ち回りが変わってくるため、この調子で出来るだけ早く権能を揃えたい。


 「初めて使うので少し緊張するな。”アカウント作成”鬼人族・小鬼。」

 気を取り直して、”アカウント作成”を実行してみる。


 転生する前に、種族やステータスなどを決めた時のようなステータス画面が出てくる。やはり、スキル選びは最高に興奮する。因子を抽出する間待ちきれず、周囲を警戒しつつ、新しいアカウントのビルドを大方決めてしまった。


 「あった、これだ。」

 スキル:無属性魔法を取得する。 このスキルも、スキル図鑑で見つけた中々レアなスキルだ。本来、魔力に属性は帯びておらず、無属性であるのだが、経験値を得てレベルアップすることで不純物と混ざり合ってしまう。そのため、この無属性魔法はレベル1にしか取得できない。それが無属性魔法の取得条件だ。


 本来俺が転生するときのようなレベル1の生まれた状態でスキルポイントを所持することはできない。しかし、新たな権能”アカウント共有”によって、スライムアカウントとのスキルポイント共有が可能となった。つまり、そんなことが可能なのかは知らないが、先天的に無属性魔法を取得していなければ、無属性魔法を取得することはできない。実質、ユニークスキルのようなものなのだ。


 こんな簡単に無属性魔法を取得できるのは、もちろん”アカウント作成”のおかげではあるのだが、”スキル図鑑”のおかげで知れたのだ。本当にこの二つのユニークスキルをとったのは、この人生最大の成功だ。まあ、まだ始まって1か月も経っていないのだけど。


 貴重なスキルも取得できて、早速”アカウント作成”を実行する。

 「アカウント変更、鬼人族・小鬼」


 この世界に生まれ落ちて、はや1ヶ月。ついに念願の四肢のある体を手に入れた。 これほどまでに便利とは。武器も持てるし、歩けるし走れる。最高だ。

 

 ゴブリンの体は、人間の7歳くらいの体で小学校低学年くらいだ。背筋もしっかり伸びているし、生前の漫画やアニメで見ていたほど肌も荒れていない。何より普通に黒髪が生えている。だが、7歳くらいの人間と最も異なるのが筋肉量だ。身軽な体で自由に動き回れる。木々の間を猿のようにぴょんぴょん飛び回れるし、武器も振り回せそうだ。

 

 一通りゴブリンの体を堪能したところで、やるべきことを思い出した。


「ステータスオープン」

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ステータス

名前 :ーーー

年齢 :0歳

種族 :鬼人族・小鬼

レベル:1

HP :4/4

MP :4/4

筋力 :4

耐久 :2

俊敏 :5

知力 :1


装備 :なし


ユニークスキル:ーーー

    スキル:無属性魔法(D)

  共有スキル:経験値取得率上昇(B)

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 実体がなくてもパーティーに設定できるのか。スライムアカウントをパーティー設定する。先ほど覚醒した”アカウント作成”の権能の一つ”アカウント共有”により、共有スキルを経験値取得率上昇(B)に設定した。これにより、スライムアカウントにも経験値が入るようになり、レベル上げもスキルポイント集めも相当捗る。

 

 アカウントごとに別のスキルを獲得し、様々な戦闘スタイルで戦ってみたい。それが”アカウント作成”を見つけたときからの願望だ。やりたいことは全部やってやるんだ。


 魔物を探したいところだが、この周辺にはあまりいないため、俺がサンプルとして摂取したゴブリンが歩いてきた道を引き返す。この道を引き返せば、ゴブリンなんて腐るほどいるだろ。そいつら全員狩りまくってやる。


 この時、ステータス画面の種族欄にと書かれているのを見過ごしていた。しかし、この選択が八神圭の第二の人生を大きく変えることとなる。

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