第46話 ハッピーエンド?
「私、絶対ハッピーエンドじゃないと嫌なの。なんで不条理ばっかりの世の中でフィクションでも嫌な思いをしないといけないの?」
映画やドラマに関して彼女はそういう。
まあ、それはいいです。
仕事がハードな彼女とのデートはほぼお家デートで、外ではきりっとした彼女がだるっとした服装で一緒に映画をみるだけです。
まあ、それもいいです。
映画を用意するのは僕で、ハッピーエンドか調べておかなくてはいけないから、僕だけ内容を知っていたり、二回目の視聴だったりするのです。
まあ、それもいいです。
映画を見る時の彼女はノーメイクで、映画のお供は煙草とウイスキーだったりします。昼でも。ハッピーエンドの映画を見るというより、ゴットファーザーが似合う体裁なのです。
まあ、それもいいです。
納得いかないのは、ハッピーエンドしか許せないことです。彼女はハッピーエンドの映画でも主人公に降りかかる問題に関して不快な顔をするのです。
「本当に嫌だ。なんでこんな嫌なことばかりなの」
と、まるで自分事のように。隣にいるのは一応彼氏ですが。僕との一時は君にとってのハッピーの一因には一切ならないのでしょうか。少々不服です。なので、今日見る映画は『花束みたいな恋をした』にしました。彼女はタイトルを見て、「え、これ、本当にハッピーエンド?」と何度も聞いてきました。過去形ですからね。ええ、ええ、ちょっとビターな終わり方です。最後、結末がわかりかけたあたりから、彼女はいつもの不服そうな顔です。予想通りです。さて、どうします?この映画のようにこの恋にも結末がついてしまったら。「こんなバッドエンド嫌よ」と言ってくれたらちょっと満足です。
エンディングロールが流れ出すと彼女は僕を見て、にっこりと笑いました。
「最高のハッピーエンドね?」
「嘘!?」
彼女はコロコロと笑って楽しそうにウィスキーにまた口を付けました。僕は大変不服ですが、そんな様子の彼女もかわいいと思うほど彼女の手の上で転がされている自覚はあるのです。
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