11日目

 朝。これからのことについていくら考えても答えなんて出てくれない。でも、色々な事情を抜きにしても3人にはちゃんと朝ご飯を作ってあげたいから起きないと。


 …もしかしたらまた朱里ちゃんが作ってくれてるのかも。そんな考えも浮かんでくるけどそれに甘えるわけにはいかない。


 「…誰もいない、か」


 もしかしたら朱里ちゃんか、昨日みたいに日向ちゃんがいるかと思ったけど、やっぱり2人も気まずいのかな?なら、せめて俺はいつも通りに接した方がいいのか、それとも女の子として適切な距離を取った方がいいのか。今までは家族としての感覚が強くて、俺の憧れる家族の距離感で接してたから…。


 「お兄ちゃん、おはよう」

 「おはよう。今日は結衣ちゃんが一番だね?」

 「…お姉ちゃんたちに起こされた。ふぁ。…ユイ、まだ眠い」


 …俺が不甲斐ないせいで結衣ちゃんにまで迷惑をかけちゃってたんだ。でも、俺が下手に介入すると余計にややこしくなるだろうし…。


 「…ごめんね。厄介なことに巻き込んじゃって。…俺にはどうすることもできないから、2人のことを任せてもいい?」

 「うん。…でも、何でお姉ちゃんたちは恥ずかしがってるの?ユイだってお兄ちゃんは大好きだよ?」


 …結衣ちゃんの純粋な質問に俺はどう答えればいいんだろう?好きの種類が違う?likeとloveの違い?…俺もそんなによく分かってないのに、どう説明するのが正解なんだろう?


 「…何て言えばいいのかな?…自分の気持ちとかを相手に知られるって恥ずかしいことだと思うよ。それが大きな気持ちならなおさら」

 「…そう、なのかな?」

 「うん」


 …どうにか納得してもらえたのかな?もしかしたらもっと上手い伝え方があったのかもしれないけど、俺にできるのはこのくらいが限界だ。


 「…っと、完成。それじゃあ俺はもう出るようにするから、その後にでも2人を呼んで食べちゃってね」

 「…お兄ちゃん。その、えっと。…行ってらっしゃい」

 「うん、行ってきます。結衣ちゃんも学校頑張ってね。それと、出るときは戸締りをすること」

 「分かった!お姉ちゃんたちにも伝えておくね!」


 俺は後のことを結衣ちゃんに任せて家を出た。…これって、2人から逃げてるってことだよな。結局咲にも告白の返事をしてない状態だし、これからどうすればいいのか…。


 「おはよ、舜!今日は早いね」

 「あ、ああ。おはよう咲」


 そんな考え事をしながら教室に着くと、既に来ていた咲から挨拶された。直前までずっと考え込んでたこともあって俺は生返事しかできなかった。


 「…その、今日、舜の家に行ってもいい?妹さんたちにもちゃんと挨拶したいし、何より私が舜ともっと一緒にいたい!」

 「えっ!家に…?さすがに急じゃない?」


 …それに、妹たちからも告白されたなんて伝わったら…。こういうのを修羅場っていうんだよな?


 「…確かに急かも。それはごめん。…でも、舜は妹さんたちを優先したいからすぐに帰りたいでしょ?でも、私は舜と一緒にいたい。なら、舜の家に行くしかないでしょ?…もちろん舜の迷惑になるなら断ってくれていいけど…」


 …そっか。咲は俺のこともちゃんと考えてくれてるんだ。それなのに俺は咲に隠し事して…。そんなの、人としてどうかって話になるよね?


 「…迷惑、ではないけど、ちょっと気まずくて。実は昨日、3人のうち2人から告白されて…」

 「…えっ?」

 「咲に不義理なのは分かってる。でも…」

 「ちょっと待って!」


 俺がせっかく来たいって言ってくれたのに断る形になることを謝ろうとすると、それより先に咲から待ったがかかった。


 「…それって、その2人のどっちかと付き合ったから私とは付き合えない、ってこと?」

 「いや、付き合ってはない。…でも、そんな中家に来てもらうのはやっぱりちょっと、ってこと」

 「…そう。なら、なおさら行かなくちゃ。そんな身近にライバルがいるなら、私だって同じようにする権利くらいあるよね?」


 咲は諦めるどころか、より一層俺の家に来る決意を固めたみたいだった。…そこまで言われたら、告白を保留にしちゃってる俺は何も言い返せないよな。


 そうして迎えた放課後。俺は咲を連れて家に帰ってきていた。


 「…ただいま」

 「お帰りなさい!今朝はごめん、な…さ、い」

 「…お、お邪魔します」


 俺が家に入ると待っていてくれた日向ちゃんが謝ってきた。だけど隣の咲に気がついたのか一気に勢いがなくなっていった。


 「…お兄は咲さんを選んだんだ。うん、当然だよね。ぽっと出のうちらなんかよりもよっぽどお似合いだと思うよ。…でも、その。できればうちらも追い出したりしないでほしいなって。2人の邪魔はしないし、出てほしいときはどこかに行ってるから、もう野宿はヤダ…」

 「お、落ち着いて日向ちゃん。そんなことするわけないでしょ!」


 …そんな風に勘違いさせちゃダメだろ!例え何があっても3人にはちゃんと幸せになってほしいって決意してただろ!


 「そうだよ。それに今日は私が来たいってお願いして連れてきてもらったの。…だって、君たちが羨ましかったから。好きな人と一つ屋根の下って」

 「!?…ご、ごめんなさい!咲さんはお兄のことが好きなんだって気づいてたのに好きになっちゃって」

 「ううん、謝らないで。…誰かを好きになるってことがどういうことなのか、ちゃんと分かってるつもりだから。こういうのは理屈じゃないの。…でも、だからって私は舜を譲るつもりなんて全くないからね!」

 「…咲さん。ありがとう。うちも負けない」


 そう笑い合う咲と日向ちゃん。これで一先ずは一件落着って思っていいのかな?


 「…お帰りなさい、舜さん。それに咲さんもいらっしゃい」

 「ただいま、朱里ちゃん」

 「お邪魔します」


 リビングに着くと朱里ちゃんがご飯の用意をしてくれていた。咲に驚いてないってことは、玄関でのやり取りを聞いてたのかな?


 「さっ、もうすぐでご飯もできますし、せっかくなら咲さんも食べていってください。…その、今朝お見送りできなかった分の謝罪も込めていたら作りすぎちゃって」

 「…そこまで言ってくれるならご馳走になろうかな?」

 「はい。…あっ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は笹瀬 朱里です。舜さんのことが好きです」

 「私は倉敷 咲。私だって舜のことが好きだから。この気持ちは誰にも負けないって自負してる」

 「…うちは笹瀬 日向。うちだってお兄のことが好き」


 そう自己紹介が進んでまだ結衣ちゃんが来ていないことに気がついた。


 「結衣ちゃんは?」

 「結衣は部屋で待っててもらってます。…その、今朝のことを舜さんにちゃんと謝ってって」

 「…そっか。なら、俺が呼んでくるよ」

 「はい、お願いします」


 結衣ちゃんにはずっと気を遣わせちゃったのかな?甘えたい子なのにそれを我慢して。…いや、今思えば結衣ちゃんがいたからここまで3人と仲良くなれたんだよな。案外結衣ちゃんが一番大人だったのかも。


 そうして結衣ちゃんを呼んで咲と自己紹介した、ところまではよかった。その後に特大の爆弾が落とされた。


 「お兄ちゃん!今日は結衣と一緒に寝てくれるんでしょ?」


 …なんて。それを聞いた咲に流石にそれはダメだと注意されて今日からは別々に寝ることになった。結衣ちゃんはもっと反対するかと思ったけど、意外と素直に聞き入れてくれた。…これって咲だからか?俺には気兼ねなくわがまま言えるけど、咲にはそんなことないからだってポジティブに捉えてもいいのか?


 それから少しして3人とも仲良くなった咲は帰っていった。できれば直接咲とやり取りできるようにしてあげたいけど。…みんなにはいつスマホを持たせよう?俺はみんなくらいのときには必要だから持ってたけど、それはクラスでは異端っぽかったよな。他は早くても中学生のころみたいだったし。もしもクラスで浮くようなことがあれば大変だよな。…よし!咲に相談しよう。

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