戦えない最弱ネコは“最強運”で神に下剋上する(不定期更新)
神美
神からの宣告、冗談じゃにゃい!
第1話 ネコ、神様に噛みつく
車が往来する道路。雨が降り、湿気のあるムッとした空気……いつもの、なんでもない日常に過ぎない。
でも親友が目の前で死にかけていて、オレはそいつを助けに走っていた。
迫る巨大なダンプカー。親友をはじき出し、代わりに道路に倒れた、オレは――。
「やぁぁぁっと、捕まえることができた! 長かったよぉ、キミがこの世に生まれてからの十二年間とちょっと! 来る日も来る日もキミを捕まえようと罠を張ったのに、キミは素早く身軽に逃げ出しちゃうっ! まさにネコちゃんだったからね!」
突然目の前に、短髪の赤毛に赤い和装の、初対面で「派手だな」という印象を受ける子供? ……いや男がいた。和装の上に白い羽織があり、その背中にはかわいらしい白い翼が生えているけど……それはホンモノなのか?
ちなみに今いる場所もよくわからない。見たことがないが和室? 大河ドラマとかで見るような殿様がいる一室のような畳の部屋に調度品とやらが揃った場所だ。ということは、この子供みたいな男はエライやつ、なのか。
「あれれ、もしかして状況わかってない? まぁ、そうだよね、キミはボクを知らないもんね。僕は
エライやつと思ったら、とんでもなくエライやつが現れたようだ。
「……? あれ、自分のこともわからなくなったかな? キミは“ネコ”ちゃんでしょ? この世界のイレギュラー存在。まともな人間でもない、十二支にも属さない、はぐれた存在。十二年に一度生じる数秒間……この時間はどんな赤子を産み落とすことを許さない魔の時間。そこに生まれてしまったのがキミという“ネコ”ちゃん…、思い出した?」
ネコはハッとし、己の黒髪に埋まる“耳”をなでた。生まれた時から自分には“人間の耳”も顔の横にあるけれど、頭の上に白毛混じる黒毛のネコ耳があり、黒毛の尻尾も生えている。身体は動かしやすいように黒いノースリーブのパーカー、下はぴっちりとした黒いスボンで黒ブーツで『黒ネコっぽくてカッコいい』と友達に言われる。
そして自分には両親がいない。気づいたら小さい頃から一人だった。同年代は“学校”とやらに行ったりしているが身寄りもない自分は行けないし、名前すらなかった。
だから『ネコって呼ぶよ』と自分に名前を付けてくれたのは友達の一人だ。動物の呼び方だし、単純な名前。けどキライじゃない、自分っぽいなと思ったから。
「……アンタ、さっき罠張ったとか言ってたけど、なんだよ。オレを殺そうとしてたわけ?」
アマテミは状況を楽しむようにニコニコしている。合わせて背中の白い翼もピョコピョコしている。
「まぁねー、だって神としてはイレギュラー存在を放っておけないもんね。秩序乱れちゃう」
「オレがいつ乱したってんだよっ、勝手なこと――んにゃあっ⁉」
ネコは悲鳴を上げた。なぜならいつの間に目の前から後ろへ移動したアマテミが、自分の尻尾を捕まえていたからだ。尻尾や耳は弱くて、つい声が出てしまう。
「あはは、ごめん。尻尾、ホンモノなんだね! やだー、ホント、ネコちゃんみたいでかわいい!」
「にゃあっ! だから引っ張んなっ!」
腕を振り払うとアマテミはスッと姿を消し、また離れた位置へと移動した。さすが神、瞬間移動ができるのか。
「なるほどねー、これはかなりおもしろい。ねぇ、ネコちゃん、ボクのペットにならない? そうしたら殺さないであげるよ」
とんでもないことを言う神だ。ペットなんて、自分はちゃんと人間なのだ。
「フザケんなっ! 死んでもなんでも、んなもんになるかよっ!」
叫ぶと黒毛の尻尾も逆立ってしまった。これは怒ったり驚くとなる不可抗力、仕方ない。
「っていうか、なんなんだよ! 神だからって人の命を簡単に決められんのかよっ!」
「そうだよ、だって命の神だからね」
そう言われるとなんて理不尽な世界なんだ。人生は全て神に操られているものなのか。
アマテミは口に手を当てて「ただね」と含みを持たせる。
「さっきも言ったけど、ボクは命の神なんだよ。人間を死なせることはできないの。ただキミのことは同じ神である死の神、
アマテミはまた素早く移動するとネコのあごをつかみ、上を向かせる。神だけど手はあたたかく、力強さを感じる。
「ボクはキミが気に入った。その弱いくせに歯向かうところ、怒ると尻尾が太くなるところ……ホントのネコちゃんみたいで実に愛らしい。ペットにするのは今はともかく。まぁ、それもいずれは、のこと――」
それだけはごめんだ、と自分の尻尾が太くなる。
アマテミは「だ、か、ら」と、衣服と同じ赤い瞳が妖しく光らせた。
「そうなるためのワンクッションだ。ボクはキミにチャンスをあげる。キミが十二支から認められたら、キミのことは殺さないであげる。どう、やってみる?」
あごをグイッとつかまれたまま、ネコはアマテミを睨む。
「……んだよ、十二支って。それに認められたとしてもアンタ、ペットにする気なんだろ。んなの、ぜってぇ認めねぇ」
「認める認めないにしても、そうしなきゃキミは生きられないんだけどねぇ」
どちらにしてもこのままではアマテミの良いようにされるだけ。ならその十二支とやらに認めさせ、アマテミの言うことなど破棄してしまえばいい……なんとかなんだろ、そのうち。
「決まりみたいだね。キミのその綺麗な緑色の瞳がそう言っているよ」
アマテミはニッと笑うとあごから手を離し、今度は頭と耳をなでた。思わず声を上げそうになったが、これ以上ネコ扱いされるのは癪に障るので我慢だ。
「じゃあキミを地上に戻してあげる。でもこのまま解放してもまた逃げられちゃうから、キミの身体に鎖を埋め込ませてもらうよ――じゃあね、ネコちゃん、また近いうちにね」
ふふ、と楽しげな笑い声を聞き、深い眠りに落ちるように意識が一瞬にして消えていた。
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