第7話:波乱の歓迎会
「は〜い、みんなグラス持った?じゃあみのりちゃんを歓迎して〜!かんぱ〜い!!」
カチン、とグラス同士が当たる音。
葉月さんの言葉によって私の歓迎会は始まった。
私がシェアハウスに来て数日。いきなりそれは開催されることになった。
みんながこうして歓迎会を開いてくれる気持ちがとても嬉しい。
グラスに入った透明の液体を眺める。お酒を飲むのは久しぶりな気がする。
「あれ、アンタは何飲んでるの?」
ひょこっとうさくんが横から現れる。
「レモンサワーだよ。うさくんは?」
「俺はカシオレ〜。お酒苦いから甘いのしか飲めないし。」
うさくんはお酒も甘いものしか受け付けないらしい。うん、解釈一致。
「うさちゃんは相変わらず子供舌だねえ。」
陽気に笑いながら葉月さんがうさくんを揶揄う。
うさくんはむっとした表情で葉月さんを静かに睨んでいる。
「…蓮さんは飲み会多いみたいだし、よくお酒飲んでるんでしょ?女の人と。」
「え〜?確かに飲み会多いけど、それは仕事柄仕方ないんだって!遊んでるばっかりみたいに言わないでよ〜。」
違うからね?となぜか私に視線を移す葉月さん。
大手の商社で働いているって言ってたし、女の人も華やかな人が多そうだ。
「そういえばあれだけBLにされる〜って騒いでたじゃん。BLにされる覚悟できたの?」
うさくんは思い出した、というように葉月さんに問いかける。
どうやら彼は言われっぱなしでは気が済まない性格らしい。
ゴホッゴホッ!と飲んでいたビールに少し咽せた葉月さんは、口元を抑えている。
「…BLにされる覚悟はできてないけど…。少しはみのりちゃんに協力したいっていう気持ちはあるし…。これでも俺なりに歩み寄ろうとしてるんだよ…。」
あんなに嫌がっていたのに…すごい進歩だ。
「ありがとうございます。心境の変化でもあったんですか?」
「…うさちゃんと急に親しげだから…なんか嫌だなって…。」
「え?」
葉月さんはごにょごにょと何か話しているようだったが、声が小さくてあまり聞こえなかった。
「それより!みのりちゃん、お酒結構飲めるタイプ?」
「ん〜、普段はあんまり飲まないんですけど、意外と最後までケロッとしてるかもしれないですね。」
「え〜!意外にお酒強いんだね!ザルだ!誰かさんと大違い。」
「?」
この中にお酒飲めない人でもいるのだろうか。朝比奈さんかな?
そんな会話をしているうちに、氷室さんや朝比奈さんも輪に加わり、みんなでカードゲームをすることになったのだが。これが波乱の歓迎会の始まりだった。
◇◇◇
「は〜い、また蓮くんの負け〜!飲め飲め〜!!」
「はあ〜?!また俺え?!まじかよおおおお。」
そう言って葉月さんは自分のグラスのお酒を一気に飲み干す。
“大富豪”で負けた人はお酒を一気飲みするという罰ゲームで、葉月さんは順調に3回目の記録を更新したところだった。
「蓮は頭を使うゲームは弱いみたいだな。」
「この中で一番頭弱そうだもんね。」
「でも蓮くんばっかり罰ゲームでつまんないな〜!」
ひえええ。みなさん煽りスキルが完凸していらっしゃる…!!
葉月さんは好き放題言われてとても悔しそうだ。
お酒も入って口数も多く、みんな陽気で楽しそう。お酒の力、偉大すぎる。
「次は絶っ対俺以外に飲ませる。」
少しムキになっている葉月さんは、何だか顔が赤い気がする。
結構飲んでるからな、お酒まわってきてるのかも。
少し心配になりながらも、もう何回目かわからないゲームは再開された。
◇◇◇
「よっしゃああああああ!!!!」
「………。」
私の目の前には対照的な二人が並んでいた。
拳を高く上げ、とても嬉しそうにガッツポーズをする葉月さん、と。
富豪の座から転落し、大貧民となった氷室さん。
今までうさくんと1位、2位で勝ち越していた氷室さんが負けてしまったのだ。
「ほら恭弥くん、飲んでね♪」
「……お前、嬉しそうだな、蓮。」
氷室さんは、「はあ〜。」とため息を吐き、グラスを手に取る。
「あっ!恭弥くんはこっち!」
朝比奈さんは氷室さんが持ったグラスを見て、焦ったように別のグラスを手に声をかける。
まさか。私も少し嫌な予感がした。
しかし朝比奈さんの必死な呼びかけは虚しく、氷室さんはすでにグラスのお酒を空にしてしまっていた。
カラン、と氷室さんの手からグラスが離れる。氷室さんの顔は俯いていて、表情は読み取れない。
「あちゃ〜〜〜〜〜。遅かったか…。」
朝比奈さんは手で額を抑えている。
うさくんはなぜかバッと氷室さんから距離を取るようにこちらにやってきた。
「…なんで蓮さんのお酒飲んじゃうかなあ。仕方ない、蓮さんを生贄に捧げよう。」
どうやら氷室さんは、隣に座っていた葉月さんのグラスのお酒を間違えて飲んでしまったようだ。
「生贄って…?」
私は恐る恐る尋ねる。これから何が始まるというのだ。
うさくんと朝比奈さんは顔を見合わせる。
「まあ、アンタにはいい資料になるんじゃない?」
氷室さんに視線を戻すと、とんでもない光景が目の前に広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます