第43話 霧中模索
「何なんですか、あれ!?」
「知るか! とにかく逃げるぞ!」
棺から現れた霧に襲われたアイラとサイラスは森の中を駆けていた。道もまた霧が立ち込めており、視界はまともに利かない。木の根や雑草に足を取られながらも必死に走る。
「でも、森の中を走っても結局村に戻されちゃうんじゃ……」
「ああ、だからひとまずこうする!」
道の先に現れた石像にサイラスが火霊石を投げつける。爆音が轟き、石像の上半身が砕け散った。
「この石像が魔法陣か何かを構成している可能性は高いだろ。だから片っ端からぶっ壊す!」
「ち、力技……」
アイラは思わずツッコんでしまうが、ひとまず出来そうなことと言えばそれしかないのは否定できない。魔術の心得がない二人では、対抗魔術などの
「ああ、これはひどい。
老人の囁きが聞こえた。離れているのに耳元で囁かれているかのようだ。そして霧の中から満面の笑みを浮かべた老人の顔が現れる。
「くそっ、もう追いつかれたか」
「力技がありなら、こういうのもありですよね!」
アイラが飛び出し、老人の頭に三節棍の一撃を叩き込む。正体は不明だが老人が骸の王にゆかりのある魔のものであることは間違いない。例え人間の姿をしていようとも、そうとわかれば手加減をするアイラではなかった。
三節棍は老人の側頭部に命中し、そのまま撃ち抜く。手応えが妙に軽い。老人の頭が首からちぎれ、地面に落ちて重い音を立てる。
「えっ、ちぎれた!?」
頭蓋骨を砕くつもりの容赦ない一撃だったが、いくらなんでも首からちぎれ飛ぶような威力はない。予想もしなかった結果にアイラの動きが一瞬固まる。
「馬鹿野郎! ぼうっとするな!」
サイラスに突き飛ばされ、アイラの身体が地面に転がる。先程まで立っていた場所は老人の首から吐き出された紫色の霧によって覆われていた。
「おそらく霧が本体だ。肉体を傷つけても意味はねえ」
「ほほほ、ご明察でございます。我らは
老人の生首が地面に転がったまま声を発する。その表情は相変わらず満面の笑みのまま。首無しの身体が生首を拾い上げ、元の位置にはめ込んだ。
「しかし、人の身体というのはいかんせん保ちが悪い。この身体もかれこれ30年は使っておりまして、このように脆くて叶わないのです。困ったものですのう」
「一生困ってな!
サイラスが腰から小剣を抜き、掲げる。刀身からまばゆい光が発せられ、辺りを真っ白に染めた。強烈な陽光を一瞬だけ顕現させる<聖光>の奇跡だ。
「一旦退くぞ!」
「はいっ!」
サイラスはアイラの手を引き、老人に背を向けて駆け出した。<聖光>での目くらましは効果があったようで、追手の気配はない。しばらく走ってから茂みに身を隠し、荒い息を整える。
「不死者……なんでしょうか?」
「十中八九な」
「体を霧に変えるといえば上位吸血鬼ですが……」
「霧への変身は一時的なものだし、死体を乗っ取る吸血鬼なんて聞いたことがないな」
「ですよね……」
性質はレイスやゴーストといった霊体系の不死者と近いようには思う。だが、あの道化師にせよ戦車にせよ前例にない不死者だった。安易な断定は避けるべきだろう。
「これからどうしましょう。石像の破壊も意味がなさそうですし……」
「同感だな。霧にも変化がねえし、やつも堪えた様子はなかった。まあ、そっちはブラフかもしれんが」
「<聖鎧>で一気にバラバラにしちゃうとかどうでしょう?」
「霧には効かないだろうな」
「ですよね……」
アイラは腕組みをして考える。肉弾戦は得意だが考え事は苦手だ。神学校でも武術教練では首席だったが、座学は並以下の成績だった。小動物のような見た目であるが、中身は脳筋なのである。
「だが、特攻ってのはありかもな」
「ですね。特攻もあり……って、特攻?」
「このまま逃げ隠れするだけじゃ埒が明かないからな。よし、一度村に戻るぞ」
「えっ、村にですか!?」
おもむろに歩き出したサイラスの背中を、アイラは慌てて追いかけた。
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