↓第35話 魔法からの目覚め

「おっ――……おえあぁぁあぁぁァァ……っ」


 目を覚ましたカミールは、すぐさまトイレに駆け込んだ。

 胃の中が空になっても、まだ頭がクラクラする。とてつもない情報の渦が、濁流となって脳内に流れ込んだせいだ。

 額の脂汗を拭い、鏡を見る。身体のまわりを、蒼白い燐光がまとっていた。

一瞬、寝ぼけているのかと思い目を擦る。もう一度鏡をみると、げっそりした自分の顔が映っているだけだった。


「…………」


 気のせいかと思い、ふらふらしながらベッドに戻ってくる。

 と、そこに迷子が寝ていた。

 口をあんぐり開けたままのまぬけな顔で、大の字になってスヤスヤ眠っている。

 おそらくカミールを気遣って添い寝したのだろう。まったく気がつかなかった。

 カミールは小さく息を吐く。あの肖像画を見てから体調がおかしくなったが、変な夢を見たのもそれが影響しているのだろうか?

 あのメリーダという人物や、それを取り巻く環境。悲しい出来事は、まるでフィクションには思えない。すべて事実なのだろうか? 過去に起こった出来事なのだろうか?

 もし本当なら、400年後に訪れる災厄とはいったい――


「…………」


 思わず深く考えてしまった。いまだ頭の整理がつかないカミールだが、しかし迷子のまぬけな寝顔を見ていると、少し気持ちが落ち着いた。

 そして徐々に冷静になってくる。今、自分がしなければいけないことはなにか。

 ビリーの一件では、みんなに心配をかけた。確かなことは、自分は誰も殺していないということだ。

 犯人がいるのなら、そいつを捕まえないといけない。吸血鬼事件を解明し、再び安寧を取り戻したい。


「…………」


 落ち込んでいる場合ではない。しっかり休んで、明日に備えないと。

 カミールはかぶりを振って、頬を叩く。そして横になり毛布にくるまった。

いよいよ3日目の夜がくる。そのまえに、ぜったい犯人を捕まえてみせる。

 そんな決意を懐きながら、彼女は静かに瞳を閉じたのだが、


「う~ん……らむぅ……」


 迷子が寝言を言いながら、カミールの耳たぶをカプっとかじる。

 相変わらず寝相が悪い……。鬱陶しいと思いながら手で払うカミール。

 でも、寝返りを打って嘆息するその表情は、いつもの不遜な中二病少女に戻っていた――

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