Sid.105 やっと進路を決めることができた
夏休みが終わり退屈極まりない学校生活が始まった。
相も変わらずクラス内でのコミュニケーションは無い。昼に心愛と食堂で話をする程度だし。
今月は文化祭があるとかで、教室内でも多少の盛り上がりはあるのか。俺はと言えば蚊帳の外だけどな。各々作業分担を決め放課後に活動するようだが、じゃあ俺は何をするのかと言えば空気だったからな。知らぬ間に割り振りが決まっていて、居ないものとして扱われたようだ。
選民意識の塊みたいな奴らだから、本気で空気扱いってことで授業が終わると、家に直帰するだけ。これもいじめ、ではあるが当事者は気にしてない。要らねえ、こんなクソみたいな奴ら。一切関わりたくねえ。
週に三回小テストがある。
増えたか?
タブレットに解答を入力するが、時間切れで入力できないってのが無かった。とりあえず全解答欄に入力できた、と言うことは分かる部分が増えた、ってことか。
ドジっ娘先生や絢佳さんはA判定も可能、なんて言っていたが、これならB判定程度には至るかもしれん。
一流大なんて行かないけどな。選民意識の強化をしに行くようなもので、人間性は一切磨かれることはない。
クズの量産をするだけで。
三者面談がある。
今回が最後になるらしい。すでに多くの生徒は進路が決まっていて、現在の成績を鑑みたアドバイスになるそうだが。受験対策に何が必要かってことだな。
さすがにこの時期になって尚も進路が決まらない、そんな生徒は居ないようだし。
俺くらいか。
で、絢佳さんと相談だ。教員に相談なんてするだけ無駄。相手にされないからな。難関大のどこかを決めてから相談しろと言われる。つまり落ち零れにするアドバイスは無いってことで。
家に帰ってダイニングテーブルを挟み、向き合うように腰掛け切り出す。
「決まってないの?」
「俺の頭で無理なく行ける大学ってなると」
「どこでも問題無いと思うけど」
なぜ過剰評価をされているのか。以前は無理はせずって話だった気がする。
「これと言って行きたい大学が無いんです」
「夏休み中に何か見つかれば良かったんだけど」
目標がない。目的すらない。
自分の進路なのだから自分で決めるべきだが、やりたいと思うこともない。学びたいことが分からないし、興味を引くものもなかった。
「五稜郭での翔真君、楽しそうだったけど」
「歴史は好きじゃないです」
「でも私は飽きてたけど、真剣に見てたでしょ」
あれは幕末の激動の時代だからドラマがあった。当時の人々が未来に向けて全力で行動していたからこそ、そこに感銘を受けた部分はある。
政府軍と旧幕府軍による国の未来を賭けた戦争。胸が熱くなるだろ。
だからと言って平安時代や室町時代に、思いを馳せるかと言えばそうじゃない。そっちはどうでもいい。
もちろん、天下泰平の江戸時代も関心はない。家康が天下を手中に収めても、だから何だって話だし。
まあ平和な時代が長く続いたってことくらいか。
「他の時代はどうでもいいんですけど」
「私も歴史は得意じゃないけど、でも一部でも関心があるなら」
他の時代も興味を抱けるのではと言う。
つまり知ろうとしないから興味を抱かない。知ろうとする意欲を持てば、同じように興味を抱ける可能性はあると思うそうだ。
「史学科の評価が高い大学はどうかな」
歴史なんて、と思っていたが。先生にも疑問を抱いて意味あんのか、なんて。
会社勤めをする上では何ら役立たない知識。むしろ経済や経営を学んだ方が、多少でも就職した際に役立つかもしれない。役立たないかもしれないけど。
「どっちにしても願書の都合もあるから」
もう決めないと間に合わないと。
今から資料を取り寄せても締め切っている場合も。まあ締め切ってるのは一般選抜じゃないけどな。俺には関係のない話だ。
「ちょっと急いだほうがいいかな」
本音を言えば学校は腹一杯だ。中学高校共に選民意識だけのクズに囲まれ、すっかり嫌気が差してる。
この上、大学まで行って似たような連中を見てもと思うし。
自分と同レベルの大学なら、そこまで偉ぶったバカは居ないと思いたいが。
逆に落ち零れた奴らの巣窟ってのも嫌だしなあ。大学四年間を遊びに費やすだけ。高い学費を払って何しに行ってるんだっての。学士の資格が数百万? バカバカしい。
「史学科、ですか」
「うん。社会に出て直接何かあるわけじゃないけど」
楽しんでできるものがあれば、打ち込むこともできていいのではと、思うそうだ。
「じゃあ、その線で」
「すぐ行動しないとね」
あ、そうだ。と思ったがまあいいか。今まで三者面談なんて一者面談になってたし。今さら絢佳さんを学校に呼んでもな。あの学校の教員がまともなアドバイスをするわけがない。落ち零れにするアドバイスはないってことだから。
それに絢佳さんの、ばるんばるんに見惚れるだけで、俺に向ける意識は皆無になるからな。
これまで通りってことで俺ひとりで面談を受ければいい。
「言っておくこと、他にあるんじゃないの?」
「えっと、無いです」
「三者面談って」
「それは、あれです。今まで居なかったんで」
うちは片親で親父は学校なんぞに来れない、と一年の時に言っておいた。当初は親に来てもらわないとなんて、普通の対応だったが、バカが露呈した段階でどうでもいいとなってる。
今じゃ声も掛からん。と言うと憤慨して文句を言う、とか言っていたが。
「無い立場がさらに無くなるので」
教員からも存在が消えるからやめて、と言っておいた。
学校の対応に呆れ返る絢佳さんだったけど、それが進学校って奴で、落ち零れに容赦がないってことだ。
それが嫌なら成績向上を目指せってことだし。
進路は決まった、と言うか史学科のある大学。歴史学科って奴か。
まあ呼称はどうでもいいが、その中でも多少はマシな大学ってことで、学校の資料室を漁ることに。
進路指導室の一角。資料室があり隣に心愛が居る。
放課後一緒に帰りたい、ってことで待っていたらしいが。
「今から大学の資料です?」
「そうだよ」
「決まったんですか?」
「これから決める」
遅すぎないか、と言われるが決まれば早いんだよ。俺の場合。
パラパラと資料を流し見して、スマホで偏差値をチェック。ついでに口コミ評価も参考にしておく。口コミで評価五を付けてる奴はスルー。五の持つ意味を考えろっての。最高評価を安易に出すような奴らは、基本、自分が学生生活を謳歌してる、と思ってるバカだ。良い面、悪い面をきっちり評価してこそだろうに。良い面しかないなんてあり得ない。
「ここでいいか」
「適当ですぅ」
「いいんだよ。本当なら大学なんて行きたくねえ」
「でも出てないとぉ」
そう。就職先が限定されてしまう。大卒と高卒では生涯賃金にも差が出る。
日本は学歴偏重だからな。その割にはGDPが四位に落ちて、挙句後進国に抜かされそうな状態だ。
企業には優秀な人材が揃ってるんじゃないのかよ。なのに落ちる一方の経済力。
一流大卒ってのは本当に優秀な人材なのか? 一度徹底的に検証した方がいいぞ。経営者含めてな。
さて、決めたら願書を提出するだけだ。
「学部はなんです?」
「人文」
「学科は?」
「史学科」
役に立つのかと問われるが、一般社会に於いては意味がない。
将来考古学者やら歴史研究家を目指すなら、と言うと。
「目指すんです?」
「いや。好奇心を満たすだけかもしれん」
「意味無いですぅ」
「いいんだよ」
経済なんて学んで企業の歯車になる気は無い。経営を学んでもセンスが無ければ、経営だって覚束ない。
ならば少しでも興味を抱いたことを学んだ方がいい。
研究意欲も出るかもしれないからな。
資料をバッグに仕舞い込み学校をあとにした。
待っていた心愛は、しっかり腕を絡め張り付いているし。
「翔真先輩、卒業するんですよね」
卒業するなってか?
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