Sid.90 有珠山観光でも道中はナビをする

 健康を意識する年齢なのだろうか。昨夜は酒を飲まず素直に就寝したし。

 朝になると俺より早く起きて身支度していたようだ。


「おはよう」

「早いですね」

「お酒飲まなかったから」


 酒を飲むと起きる時間が少し遅くなるのか。酒を飲んで寝ると睡眠の質が下がる、とか言ってたよな。飲まないで寝た方が質は高いのか。だから早く起きられるってのもあるようだ。

 飲み過ぎた時の二日酔いとか、俺には分からんが辛そうだもんなあ。そこまで飲まなきゃいいのに、って思うんだが。


 ベッドから出てそのまま洗面所に。

 顔を洗い歯磨きを済ませベッドルームで服を着て、リビングに行くと絢佳さんはすでに朝食の支度をしている。


「少し待っててね」


 今日の朝食は焼き魚のようだ。

 テーブルには箸と醤油瓶が置いてある。椅子に腰掛けると「有珠山だけど道案内」とか言ってる。車載ナビは使う気無いんだ。

 食事が用意されると「食べようか」となり朝食を食べる。


「変な道は案内しないでね」

「ストビューで確認しておきます」


 走れる道なのか、広いか狭いかも分かるからな。

 絢佳さんは狭い道だと怖がるし。毎日乗っていれば慣れるんだろうけど、旅行はたまにしかしないし普段は運転しないし。だから感覚が鈍るんだろう。

 食事が済むと身支度を整え車に乗り込み出発する。


「左、だよね」

「そうです」


 少し走ると見慣れた感じの道路。道の駅に出ると今度は右と指示して道なりに進む。

 そう言えば親父と連絡取らなくていいのか?


「親父に連絡は」

「必要なら向こうからしてくるから」


 娘と楽しんでるだろうし時差の関係で今は夜中。こっちの夕方以降くらいに、必要に応じて連絡してくるだろうって。

 今、どの辺に居るかも分からないそうだ。SNSとかだったら時間関係無いと思うが。まあ急用以外では連絡しないのだろう。親父はいつもそうだし。帰宅するのかしないのか、二人で暮らしてる時も一切連絡が無かった。


「あ、そうだ。山見終わったら買い物しようか」

「必要なものあります?」

「牛乳が思ったより減ってるから」


 ビールでも買うのかと思ったが、ケースで買ってたから間に合うよな。


「あとね、翔真君が激し過ぎて、すぐに無くなっちゃうの」


 あれか。

 そんなに使ったか? そもそも入ってる数が少なかったか。


「今夜もですね」

「もう。一日に何回もだから」


 俺が旺盛すぎて絢佳さんの方が先に参ってしまうそうだ。やり過ぎってことだよな。酒同様、それも控えた方がいいか。絢佳さんの負担になってもまずいし。

 俺は幾らでも、と思っても絢佳さんも三十過ぎてるからなあ。

 十代と三十代じゃやっぱ違うか。


「使わずに済むならって思うけど」

「リスクが」

「そうなの。だから使わざるを得ないし」


 子どもができちゃった、なんて事態は絶対避けなきゃいけないからだ。

 親父とは遠慮なくできてもな。夫婦だし絢佳さんも子どもは欲しがってるし。だが、肝心の親父は役立たず。他所で使い過ぎだっての。若くも無いのに他所で励めば、いざって時に役立つわけもない。仮にやっても薄すぎて妊娠に至らないだろう。

 歳を考えろっての。


「あ、絢佳さん。道路上の青い看板を左です」

「えっと」

「正面上」

「あ、あれね」


 無事左折し再び道なりに進む。


「ねえ、合ってる?」

「合ってますよ」

「車が居ないの」

「大丈夫です。確認済みなんで」


 ちょっと不安そうだけど道はちゃんと二車線。問題無し。


「止まれの看板を左です」


 一時停止して左右確認の上、左折して走ると国道に出たことで安堵したようだ。

国道を暫し走ると信号を右と指示して、さらに進む。


「速度制限の標識で右です」

「えと、あれかな」


 周囲は山林になっていて、これと言って目印が無いからな。


「そこを曲がればすぐですよ」

「良かった」

「絢佳さん、運転は下手じゃないと思うんですけど」


 方向音痴すぎて迷うんだろうなあ。


「これでも一発で合格したんだからね」

「方向音痴さえなんとかすれば、ですよね」

「もう。これは仕方ないの」


 ちょっとむくれる絢佳さんって可愛らしいな。

 少し進むと広い駐車場があり、空きスペースに車を駐める。


「着いたね」

「絢佳さん任せだったら」

「いいの。そのための翔真君だから」

「ですね」


 笑っていると「今夜は別の部屋で寝てもらうからね」と言われ、即座にご免なさいと謝っておく。

 本気で怒ってるわけじゃないし、別室で寝ろなんて言わないだろうけど。

 下車してロープウェイ乗り場に向かうが、ここにもそこそこ人が居るようだ。

 洞爺湖程ではないのが救いかも。


「店、いろいろありますね」

「お土産物かな」


 複数あっても利用する予定はない。持ち帰るのも面倒だし。ただ、帰るまでに記念になりそうなものくらいは、と思う。

 ロープウェイ乗り場に向かい運賃を見て、少し驚く絢佳さんが居る。


「千八百円もするのね」

「普通じゃないんですか」

「翔真君の年齢でそれだと、金銭感覚が心配になるかな」


 それもそうか。高校生程度だと千八百円は高いよな。金は親父が用意するせいで、金銭感覚は壊れ気味かもしれん。

 バイトもしてない高校生の財布に、三万も入ってるってのがな。しかも昼飯代だ、それは。他に必要なものは都度言えば出すし。


 四方がガラス張りのロープウェイに乗る。

 見晴らしの良さはあるが、少々怖いと思う。見え過ぎってのがな。ゴンドラ内のベンチに絢佳さんと腰を下ろし、乗客が定員に達すると動き出す。


「眺めがいいね」

「そう、ですね」

「翔真君、怖いの?」

「ちょっと高所恐怖症」


 笑ってるし。せっかく三百六十度のパノラマなのに、とか言ってるし。

 下を見ると怖いんだって。麓の駅が小さく見えるが、斜め前方には有珠山山頂が見える。

 下さえ見なければ問題無い。

 景色を楽しむ絢佳さんと、少々恐怖で身が竦む俺。対照的だ。

 山頂駅に着き降りてひと息。


「展望台があるから見てみようか」

「まずはそこで」


 展望台から見る景色は、なかなかのものだ。洞爺湖が見えて眼下に昭和新山がある。視界を遮るものがないから、めっちゃ広く感じるな。遠くに見える山々だが、オロフレスキー場のある場所だろう。山の名前は知らんけど。

 暫し絶景を楽しむと移動することに。


「じゃあ遊歩道の散歩でもしようか」

「そうですね」


 少々人が多いのが気になるのと日差しの強さはある。それでも遊歩道辺りは標高五百メートル以上あるから、暑すぎる感じはないな。下とは三度くらいは違うと思う。

 絢佳さんも山の風に吹かれて気持ち良さそうだし。


「どこまで行く?」

「もう一つ展望台があるみたいなんで、そこまで行きましょう」

「戻って来たらお昼どこかで食べようか」

「あ、いいですね」


 北海道に来てるのに北海道グルメをひと口も無し、ってのはさすがに勿体無い。

 火口原展望台に向かうが、少し上る感じになるんだな。ただ、展望台までの距離はそれ程ない。せっせと歩くと辿り着き、より山頂が近くに見える状態だ。


「眺めはいいけど、少し風が強いかな」

「寒くないですか?」

「寒くはないけど風がね」


 髪が暴れて困ってる感じだな。普段、家事をしている時は髪を束ねているけど、今は束ねてないから暴れるようだ。俺は短く刈り込んでるから問題無い。

 髪を気にしながらも景色を楽しむと「じゃあ下りようか」となり、ロープウェイの駅に向かう。


「麓の店で食べる? それとも探す?」

「探しましょう」


 観光客が勝手に集まる飲食店より、どこかにある店の方が地元感があると思う。

 ロープウェイに乗り麓まで行き、車に乗るが先に探すとして、スマホで飲食店情報を見ることに。


「伊達紋別駅の近くに評判のいいラーメン屋がありますね」

「じゃあそこにする?」

「北海道グルメとは言い難いですが」


 写真見たら腹がラーメンになった。


「そこでいい?」

「見たらラーメン食いたくなったんで」

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