Sid.88 元の母親を思い出すも抗えず

 俺にアドバイスをしてくれる絢佳さんだけど、母親の顔になって言っているのかと思ったが、今になって気付けた気がする。

 母親じゃなくて大人としてだな。

 もし生みの親であった母さんが、俺に同じことを言うとしても、もっと説教臭くなったかもしれん。教え諭す感じで言葉を紡いでくるんだよ。

 何年も会ってないし、どこで何をしているかも知らない。親父に聞けば分かるかもしれないけど、一度くらいはと思うんだよな。ひとりで寂しく生きてるのか、それとも相手ができて、それなりに幸せになっているのか。


「どうしたの?」

「あ、いや」


 少し怪訝そうな顔を見せる絢佳さんだな。

 元の親のこと。絢佳さんに言っても仕方ないんだけど。


「ちょっと母親のことを思い出して」


 少し悲しげな表情を見せてる。

 まだ自分が母親になれていない、ってのは自覚してるだろうけど。女として意識されていれば、完全な母親にはなれないだろうし。


「別れて何年だっけ」

「六年以上ですね」

「やっぱりお母さんのこと、気になる?」

「離婚して一度も会ってないんで」


 親父が会うことを拒絶してる。親権は親父にあるからか、一切の関与を認めなかったのか。でも、会うくらいは自由だと思うんだけどなあ。親は親だし。

 俺も探そうと思わなかったってのが、今更ながら失敗したかも。


「面会交流も無かったの?」

「無いですね」

「制限してた?」

「俺からは言い出せなかったですね」


 親父らしいと。

 頑固が服着て歩いてるようなもので、簡単に人のことを認めない。ましてや離婚した相手と息子の仲がいい、など許せなかったのかもと言ってる。


「私から言っておこうか?」

「いえ、それは俺が自分で」

「言える?」

「そのくらいは言わないと」


 血の繋がった親だし。話に聞く限りでは親父と同じくらい、俺を大切に想っていたようだし。

 まるっきり音信不通ってのも、どうかと思うからな。

 絢佳さんが来て浮かれてたせいで、母さんのことも希薄になってた。


「大祐さんが譲らなかったら私に言ってね」

「その時は頼るかもしれないです」

「頼っていいから」


 そう言ってまた抱き締めてくれるし。ばるんばるんの圧力がな、凄くて埋まりたくなる。


「面会交流はね、子どもに認められた権利だから」


 子どもにとって母親は極めて大切な存在。交流も持たせないのは問題があり過ぎるそうだ。

 絢佳さんの元夫は交流を求めて来ないし、会うかどうか聞いても半端な物言いで、あまり娘にも愛情が無さそうだったらしい。絢佳さん曰く、自分が一番可愛いタイプの人だったとか。ガキじゃん。


「お母さんだけど翔真君のことは」

「たぶんだけど愛されてたと思います」

「両親の愛情はあったのね」


 親父の愛情は知らん。示し方を知らなかっただけ、とも言えるのか。その点では不器用なのが親父なのか。

 絢佳さんみたいに素直に表現してくれると、子どもとしても分かりやすいのに。

 これはあれか、父親と母親の違いとか。分からんな。自分が結婚して子どもを儲けた時に分かることかも。


 ばるんばるんが離れてしまった。

 夜にはお愉しみがあるだろうから、と思ったが、今夜は花火を見るんだっけ。そのあとに真のお愉しみが待ってるわけだ。

 絢佳さんを見ると微笑んでる。


「大祐さんって仕事はできるのに凄く不器用」


 やっぱりそうなんだ。


「愛情表現が下手なの」


 女性を落とす時は饒舌で優しさ全開、気遣いも半端無いのに、子ども相手だと途端に下手くそになるそうだ。


「大祐さんも大人になり切れてないのかな」


 ナンパ師がそのまま大人になった。だから子育てに失敗してると思うらしい。

 失敗か。確かに俺に分不相応な学校に通わせ、結果、ぼっち人生を強制させられてる。あんな連中に馴染めるわけ無いし。見下してシカトして居ないものとしてる。

 まあいつか見返せればと思いはするけど。

 俺だぜ。基本バカだし。無理と思っちゃうだろ。


「お母さんと話ができるといいね」

「受験が終わってからです」

「すぐでもいいと思うけど」

「いえ。今はいろいろ抱えない方が」


 目の前のことに全力で取り組む、と言えば聞こえはいいか。実際には絢佳さんと愉しむ、なんて邪すぎる考えで脳みそが占拠されてるけどな。

 だって、抗うのなんて無理だっての。凄まじいばるんばるんが俺を常に誘惑してるんだから。

 目が合うと「翔真君。夜まで待ってね」だそうだ。

 見透かされてるし。


 だらだら行かず一線引くのは大人だからか。

 俺ってガキだなあ。やっぱバカだからだよな。


 コーヒー淹れるね、と言って席を立ちキッチンで作業する絢佳さんだ。

 まあコーヒーと言っても濃縮タイプだし、氷を入れて原液と牛乳を注げば出来上がり。

 すぐに持ってきて「気分転換ばっかりだけど、ちょっと頭休めようか」と言って、隣に腰掛けると、テーブル上にばるんばるんを乗せてる。

 触りてえ。


「もう。翔真君の目、怖いよ」


 これもバレてる。俺ってどんな表情で絢佳さんを見てるんだ?


「仕方ないなあ」


 そう言いながらシャツを脱いで、ブラも外すと「よいしょ」なんて言って、ばるんばるんをテーブルに乗せてるし。


「どうぞ」

「あ、はい」


 許可されると微妙に躊躇してしまうが、しかし目の前の物体に抗えるわけもなく。

 しっかり手を当て感触を愉しんでしまう。愉しんでいると速攻で反応するし。そっと手が宛がわれ撫でてるし。


「夜に取っておきたいけど」

「問題無いです。二発や三発」

「確かにそうかもしれないけど」

「大丈夫です。夜は別腹です」


 親父とは違う。溢れるリビドーは留まることを知らないのだ。まさにエテ公の如しだけどな。いいんだよ、若さゆえに迸る性欲は尽きることが無い。

 無限に湧き上がると言えそうな程だし。

 結局、昼間から盛ってしまう俺と絢佳さんだ。絢佳さんも旺盛なんだよな。


 事が済むと「汗掻いちゃったしシャワー浴びようか」ってことで、バスルームで汗を流し、ここでも我慢できず繋がってしまった。


「もう。一回だけのつもりだったのに」

「問題無いです。夜は別腹と言いました」

「えっとね、私は別腹じゃないから」

「え、駄目なんですか?」


 駄目とは言わないそうだが、節度は持とうよと言われてしまった。

 だが、俺は問題無いと睨んでる。絢佳さんが酒を飲んだらチャンス到来だ。とことんエロくなるからな。求めてくると予想しているわけで。


「翔真君。表情がなんかいやらしいの」

「あれ」

「顔に出やすいのね」


 考えてることが顔に出やすい。


「今夜はお酒飲まないから」

「そう言って飲むんですよね」

「飲まないの」

「いえいえ。期待してます。エロい絢佳さんを」


 もう、なんて頬を膨らませて言ってるけど「期待に応えちゃいそう」とか言ってるし。満更でもないみたいだな。エロい絢佳さん、最高。

 バスルームから出て服を着ると「翔真君。勉強するからね」と、強制的に椅子に腰掛けさせられ「休憩し過ぎたから、少しスパルタ」って、口を尖らせてて可愛い。


 勉強を始めるとスパルタって、何だろう、と思うくらい緩い雰囲気だった。

 家庭教師でも英語の先生とかめっちゃスパルタ。あれと比較したらゆるゆる。絢佳さんらしいと言えばらしいのか。


「翔真君。また別のこと考えてる」

「スパルタって何だろうって思いまして」

「じゃあもう少し厳しく行こうかな」

「手加減してください」


 笑顔が眩しいなあ。やっぱり絢佳さんって素敵な女性だ。

 こんな関係を永遠に続けられたら、なんて思ったりもするけど、いつか終わるんだろうな。

 それまでに腹を括っておかないと駄目なんだろう。

 今は無理だけど。


 凡そ一時間半程度勉強すると「夜ご飯の用意するから、翔真君は自習」と言って席を立った。


「夜ご飯まで時間あるけど何か飲む?」

「絢佳さん」

「翔真君」


 真面目に、と言われてしまった。

 至って真面目なのだがコーヒーと言っておく。

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