Sid.72 余韻のあとはデートの約束をする

 痛いと言いながらも嬉しそうな表情を見せる心愛が居る。

 腕を背中に回し密着した状態で「プレゼントできました」なんて言ってるし。


「まだ痛いのか?」

「ジンジンします」


 どんな痛みか俺には分からんが、少し逃げる感じで体を動かしていたし、それなりに痛かったのだろう。

 俺もなんか余韻が残ってるんだよな。感動した、なんて思う程ではないが。

 そう言えば、初体験のあとの女子は、がに股歩きになるとかならないとか。

 とりあえず。


「シャワーでも浴びるか」

「もう少し、こうしていたいです」

「痛いから?」

「違うんですぅ」


 分からん。

 あ、そうだ。

 もぞもぞと動くと「何してるんです?」と聞かれ、痕跡がないかどうか確認したいと言うと、体を起こしベッドの上を確認して「無いです」って言ってる。

 ただ、熊は血塗れだった。いや、血塗れって言う程、大袈裟ではないが。

 まあ、ベッドに痕跡が無ければ、シーツを外してしみ抜きをする必要もないか。


 互いに体を横たえると、またも腕を絡めて抱き着くし。

 密着したがるなあ。暑苦しいから俺としては、さっさとシャワーを浴びて、さっぱりしたいんだが。

 心愛を見るとキスしてくるし。

 こうしていると愛しくなった、なんて勘違いしそうだ。


 やっちゃったんだよなあ。

 絶対しない、なんて思っていたのに。これはあれだ、絢佳さんの言葉が大きいな。時々現実を突き付けてくる。親子だって。だが血の繋がりは無い。あくまで法律上、書類上の親子関係なんだが。

 ただ、絢佳さんと養子縁組していると婚姻はできない。養子縁組を解消したとしても、できないんだよな。変な法律だ。血の繋がりもないし他人になるのに。

 ただ、ションベンガキとは結婚できる。まあ、元々他人だし。する気は一切ないけどな。相手にされないし俺も断固拒否するし。


「翔真先輩。どうしたんです?」


 考えごとをしていたら気付かれたか。


「これで良かったのかって」

「いいに決まってます」


 まあ、今はそう思うよな。念願叶って結ばれた記念すべき日。と認識してるだろうからな。

 でもな、別れたら、あの時なんで体を許したんだろう、なんて思ったりするかもしれん。

 別れ方にもよるだろうけどな。喧嘩別れとかだと最悪だろう。自然消滅が互いに傷付かずに済むのか。

 なんとなく疎遠になって気持ちも無くなる。思い返すことすらないのがベストかも。


 このあと、シャワーを浴びて寝ることに。

 歩く際に少し痛そうにしていたな。女子は大変そうだ。


 朝になると抱き着いて寝てるし。

 道理でクソ暑いと思った。

 ベッドから起き上がると腕が解け、掛け布団も捲れて心愛の、無い胸が露になるわけで。

 何度見ても無い。でも触れば柔さは感じ取れる。一応、無いなりにあるのだろう。

 意味分からんけど。


 寝顔、あどけないなあ。

 醜い寝顔じゃなくて何よりだ。

 つい頬を撫でて、無いはずの胸を触ると目覚めたようで「おはようございますぅ」とか言ってるし。


「まだ痛むか?」


 少し体を動かし確認したのか「痛くないです」だそうだ。


「やります?」

「朝から盛る気はない」

「夜は?」

「まさか二泊する気か?」


 聞いてみないと分からない、とか言ってる。聞くまでもなく連泊の許可は出さないだろ。

 常識が無いにも程があるぞ。一泊だって高校生同士って時点で、非常識極まりないってのに。心愛の親は言っちゃなんだが、倫理道徳を学び直した方がいい。

 特に未成年者の扱いに関して、もっと考えた方がいいと思う。無責任と言われても反論できまい。


 互いに服を着て洗面所に行き、歯磨きやら顔を洗ったり。

 朝食を済ませるためにダイニングに行くと親父が居る。


「帰ってたのかよ」


 俺と心愛を見て、にやけた顔を見せると「二股か。生意気な」じゃねえよ。

 このクソオヤジ。自分だって何股掛けてるんだって話だ。絢佳さんが親父に「立派に大祐さんの息子してる」って、この親父と同じってのは納得行かない。

 親父が俺を一瞥し「こんな軟弱じゃないからな」って、まあそうかもしれんけど。


「大祐さんがきちんと見ないからでしょ」

「まあ、そう言われると」

「父親風吹かせる前に、きちんと見てあげないと」


 結局、絢佳さんに窘められる親父だ。

 心愛はしっかり挨拶してるようだ。印象を良くしておこうってか。


「おはようございます。いつもお世話になってます」


 少し鼻の下が伸びる感じの親父だ。まさか十代女子にまで食指を伸ばさないだろうな。犯罪だぞ。

 親父は「翔真をよろしく頼むぞ。しっかり繋ぎ止めてくれ」とか言ってるし。さすがに未成年者にまで手は出さないか。

 それを聞いた心愛は「絶対手放しません」って、そんな宣言は要らん。どうせ来年辺りに関係も解消されるだろう。いつまでも続くとは思わん。


 食事をするのだが親父を挟んで、左側にションベンガキ、右側に絢佳さんが腰掛ける。

 向かい合って俺と心愛だ。椅子は普段四脚だが、予備の奴を用意したのだろう。予備の椅子に絢佳さんが腰掛けてる。

 食事中は殆ど会話が無い親父。ションベンガキも、親父か絢佳さんが話し掛けないと、ほぼ無言で飯を食う状態だ。


 俺の隣に居る心愛は何かと話し掛けてくる。


「ネズミの国でデートしたいです」

「人が多すぎてウザい」

「行きましょうよぉ」

「並ぶ時間が無駄だ」


 プレミアムアクセスがあるとか言ってるが、有料で順番を早めるだけだろ。誰がその金を負担するのか、って話だ。

 しかも高額。高校生程度じゃ利用できるはずもない。俺は別だけどな。

 そもそも夏休み中は激混みだろうし。クソ暑い炎天下で、あんな場所をうろうろしたくないぞ。


「海はどうです?」

「イモ洗いは嫌だと言ったぞ」

「どこならいいんです?」

「家の中が快適でいいな」


 つまらないとか言ってるし。

 快適性を損ねてまで人の集まる場所に行きたくねえ。どこもかしこも人で溢れ返ってる。


「じゃあじゃあイマーシブ・テーマパークはどうです?」

「没入型って奴か」

「楽しそうです」

「夏休み中は人の集まる場所は行きたくない」


 一緒に楽しみたい、と喚く心愛が居る。


「翔真君。たまには行くのもいいと思うけど」


 絢佳さんとなら、どこにでも行くんだがなあ。

 しかし、親父もまた「彼女を満足させるのも男の役割だ」なんて、このクソオヤジ。次々節操無く手を出して悲しませてるんじゃないのか? どの口がそれを言うんだっての。

 絢佳さんひとり、満足させられてないだろ。


 しかしだ、抵抗虚しく没入型テーマパークに行くことが決まった。

 掛かる経費は小遣いとは別途で出す、とまで言われたからな。たっぷり楽しませてやれと。

 満面の笑みを見せる心愛と、憎らしい笑みを浮かべる親父。微笑む絢佳さんが居る。


「デートして思い出をたくさん作るといいから」


 絢佳さんとの思い出をたくさん作りたい。

 心愛とは。

 見ると「楽しみですぅ」と喜んでる。まあいいか。なんか可愛らしく見えてきたし。以前の俺なら拒絶したけど抱いちゃったし。

 少しは付き合ってやらないと駄目だよなあ。


「旅行から戻ったら行くか」

「今日じゃないんです?」

「今日は行かない。事前に準備しておきたいからな」

「じゃあいつです?」


 八月二十三日か二十六日、としておいた。

 土日を避ければ少なくとも社会人の多くは、遊び歩いてはいないだろう。盆明けってのもあるし。

 体を寄せ笑顔を見せながら期待して待つそうだ。

 べたべたするの好きだよなあ。スキンシップって奴か。


 食事が済むと親父は出掛ける。来週にはションベンガキと旅行の予定だしな。北欧だっけか。まあ、楽しんで来ればいい。俺は絢佳さんと愉しむ。ばるんばるんをな。


 部屋に戻りベッドを直し部屋の掃除をする。


「家庭教師が来るからな」

「勉強です?」

「当然だ。心愛もだ」

「やりたくないです」


 留年してもいいなら、しなくてもいいと言うと「やる」だそうだ。

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