Sid.59 気持ちの無い行為はやっぱり無理

 用意周到と言うか、やる気満々じゃねえか。避妊具まで用意しているとは。

 やりたい、そんな欲求は勿論ある。性欲を持て余す年頃だし。

 だが、心愛のことを好きになったわけではない。好きでもない相手と性欲に任せするのは、ただの自慰と何が違うのかって話だ。相手が居る居ないの問題ではない。

 やっぱり気持ちが伴ってこそだよな。


 一日掛けて説得するしか無いか。

 そろそろ家庭教師も来るし一旦引き締めよう。


「そろそろ英語の先生が来る」

「夜を愉しみに勉強に励むんです」

「違う。夜になったら帰るんだよ」

「泊まるって言ってあります」


 思うのも失礼かもしれんが、心愛の親もバカなのか? 年頃の娘の外泊を簡単に許可するなっての。しかも男の家だぞ。何をするかなんて分かり切ってるだろうに。

 親公認でなんて緩いとかそういう問題じゃない。これが大人であれば勝手にしろ、だろうけど。まだお互い高校生で親の庇護下に置かれてる。

 俺も人のことは言えないけどな。絢佳さんと繋がろうとしてるわけで。まあ、それでも絢佳さんは大人だ。責任は自らで取る意思があるのだろう。責任を負えるし。


「あとで親に連絡する」

「必要ないです」

「必要なんだよ」

「堅いです、翔真先輩」


 俺が心愛を好きだったら間違いなく誘いに乗る。

 分かって欲しいんだがな。気持ちの無い相手に手を出せないと。


 少しして英語の先生が来て授業になる。

 厳しく指導してくるけど外国人の先生よりましだが、心愛はあっさり音を上げてる。


「ここは日本なんですぅ。外国の人が合わせればいいんですぅ」


 俺もそれには同意する。何も外国人に合わせて英語を話す必要は無い。外国人が日本語を覚えればいいだけの話だ。なんで日本に来る奴に合わせる必要がある。

 何でも海外に迎合するだけで、日本のアイデンティティなんて、どこにも無いじゃないか。

 公用語は英語、なんて反論もありそうだが、日本から出なけりゃ必要無いっての。

 農家に英語が必須なのか? 漁師が英語堪能なのか?

 バカバカしい。


 だが、そんなことを言うと先生の説教が始まる。

 四の五の言わず受験や大学でも必須だから、やるしかないのだと。

 海外の人と円滑なコミュニケーションが取れれば、自身の視野も広がり様々な考え方に触れるのもまた勉強になる。

 自分の成長のためにやるのだと。


「大学に行く気も無く、高校も卒業しなくていいのであれば、英語を学ぶ必要は無いけど」


 だそうだ。

 その後の人生で最底辺を歩むことになる、とまで言ってる。

 落ち零れには容赦が無いのだから、学べる環境が用意されているうちに、しっかり学べ、だそうで。


 就職もままならず非正規雇用で満足するなら、お好きなように、と幾らか匙を投げる感じの先生だった。

 そうなんだよな。就職する上でもできないより、できる奴を優先するからな。

 学ぶ意欲のある奴は使えると判断する。学ぶ意欲を持たない奴が使えるか、と言えば否だ。就職の際や就職後の勤務態度にも表れるのだろう。


 やるしかないのか。


 二時間、説教込みで勉強が終わると三十分の休憩時間になる。


「英語の先生嫌いです」

「ガイジンよりましだと思うぞ」

「でもすぐ怒ります」

「余計なことを言うからだな」


 並みの家庭教師レベルなら、どうぞご勝手に、となるのだろう。

 だが親父が依頼した家庭教師だ。成績向上を至上命題としているから、途中で投げ出すわけにも行かない。説教してでも向き合わせる必要がある、と思う。

 俺もだけど難儀な生徒を受け持たされて、家庭教師もいい迷惑だろう。

 金のためとは言えな。


 三十分の休憩が終わるとドジっ娘先生が来る。


「五日間の旅行は楽しめましたか?」


 来て早々に「こんな時期に遊べるとは、いいご身分です」とか、少々嫌味を込めて言われたが、一応勉強もしてたんが。

 それを言うと。


「遊んでいたわけではないのですね」


 ほぼ遊びだった。如何わしいことに費やされてたし。煩悩全開、欲望全開だったからなあ。


「ちょっとは、遊んでましたけど」

「私も遊びたいものです」

「遊ばないんですか?」

「お金がありません」


 家庭教師代って安いのか?

 親父がけちるとは思わないけど。金を積むだけ積んで絶対合格に導け、って言ってそうだけどな。

 一応、話は通っていると思うが。


「あ、えっとですね。お盆の頃にも一週間ほど」


 下がる眼鏡越しに睨まれた。


「そうですか。他の生徒と差が付きますよ」

「あ、母が教えてくれますから」


 くいっと眼鏡を上げ「私も羽を伸ばしたいですね」だそうだ。


「家族旅行ですか?」

「愛の逃避行です」

「おい、何言ってやがる」

「なんですか? 愛の逃避行とは」


 心愛の奴、自分が一緒に行けないからって、アホなこと言ってんじゃねえ。


継母ママさんのおっぱいに甘えるんです」

「ああ、そうなのですね。大きいですからね、さぞや甘え甲斐もあるでしょう」

「違うんですが」

「翔真先輩、嘘はいけないです」


 くっそ。こいつ、抱いてもらえないと思って、いろいろ暴露する気か?


「翔真先輩は継母さんといっ」


 慌てて口を塞ぐ羽目に。


「どうしたのですか?」

「いや、このバカが」

「むがー!」

「笠岡さん。知らないわけじゃないのですが」


 え。


「後妻なのですよね」

「なんで?」

「見れば分かります」


 初めて見た際にすぐ気付いたそうだ。

 ただ、そんな関係性であったとまでは思わなかったと。


「顔が似てませんよ」


 親子であれば、どこかしら似て来るものだが、どう見ても赤の他人。

 気付かない方がおかしいと。


「そうですか。旅行と称して性交三昧」

「いや、あの違うんですが」

「私の股間なんて見ても意味が無いですね」

「い、いやいや、見たいです」


 つい欲望が漏れてしまった。でもさ、ドジっ娘先生の尻には魅力があるし、その奥だって気になるだろ。なんたって未使用だからな、興味はある。

 だが、そうなると心愛が黙って無いわけで。


「あたしの見ればいいじゃないですか!」


 見せると言ってるし、やっていいのに妙な屁理屈で拒絶してる、とか喚きだす始末だ。

 ちっとも勉強が始まらん。

 心愛の成績が悪い理由が理解できる。意識してか無意識なのか、余計なことを言い出し授業を妨げるからだ。雑念が多過ぎるのもあるのだろう。俺も人のことは言えないけどな。

 常に煩悩全開だし。

 反省しよう。


 三十分程度遅れて授業が始まったが、不機嫌そうな心愛が居るんだよな。

 先生のは見たがるのに自分のはどうでもいいのか、と、散々文句を垂れていたし。

 見るだけで済むなら見たい。でも、その先まであるとなるとな。せめて気持ちが多少でも無いと手は出せない。

 気が無くともやれりゃいい、なんて、そこまでクソ野郎じゃないぞ。


 授業が終わると帰り支度をするドジっ娘先生だが、心愛がよそ見をした瞬間、こっそり耳打ちしてきた。


「私のなんか見ても仕方ないのでは?」

「なんでです」

「可愛らしい子が居て、とんでもない爆乳とするのですよね?」


 自分なんて地味でつまらない人の何がいい、とか言ってる。

 いやいや、尻の魅力は絢佳さんに負けてない。それに先生も悪くないと思ってる。何気に地味専かもしれないし。躓いたりするところに可愛い、なんて思える面もあるし。

 と言うと「そうですか。では、当面にんじんはぶら下げておきます」だそうで。

 安堵する反面、俺って、気が多いのかと思ってしまった。

 ただのエロ野郎なのは確かだが、心愛相手だと躊躇するけどな。


 部屋を出る際に毎回思うのだが、自分の進行方向に椅子を置くのはなぜだ?

 しっかりコケてエロいパンツ丸出し。


「いたっ」


 側に行き手を差し伸べ立ち上がらせると「そんなこともできるのですね」と言われる。


「翔真先輩。カッコつけてます」

「違う」

「下心があるにしても、行動に出せるだけましですね」


 ほんの少しだけ印象が良くなったそうだ。

 プラス評価もあるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る