俺が異世界に転生しても、どうやら世界は廻り続ける様です。〜チートなんかいりません。だって主人公じゃありませんから〜

蜂乃巣

第1話 異世界転生

平凡とは何か。

空気人間とは何か。

それは=平穏な人生に結び付けられる。

結果、俺の人生は平穏だった。

平凡に普通に。

何も特出したものはなかったが、それで良かった。

あの時までは...。


あれは、学校からの帰り道。

その日は何故か朝から色々と様子がおかしかった。

絶対に落ちてこない軌道を描いて落ちてくる花瓶。

学校に着けば靴を履き違えていた事に気づき、急いで家に帰ると鍵を無くしていたり。


何かとツイていない。

そんな1日を変えようと、いつもとは違う道を帰ったのが悪かった。


学校が終わりいつもとは違う光景に、少しながらの好奇心と、不穏な事が起きすぎて取れない恐怖心といった、相反する2つの感情を持ったまま道を進んだ。


数十分歩いて、何もなかった事に対する安心感からか、俺の中の恐怖心は好奇心に上塗りされる。


「やべぇ、こんなとこにゲーセンあったのか。」


今思えば、このゲーセンに入った時点で俺の人生は決まっていたのだろう...。


適当に遊んでゲーセンを後にした俺の足は近くのコンビニへと向かう。

ジュースとお菓子を買い、家に帰ってから、至福の刻を過ごすための準備は整っていた。


そんな浮かれた状態で、俺がコンビニから外へ出ると、右側に人影が3つほど見えた。


男2人と女の子1人。

最初は、痴話喧嘩か何かかと思ったが何か様子がおかしい。


視線を合わせないようにしながら、様子を伺ってみると、男2人が強引に女の子の腕を掴んで車に乗せようとしているようだった。


無視しようか、助けようか、という究極の2択が脳内に浮かぶ。


普段なら、こんな時は店員を呼ぶか警察を呼ぶか、といったような無難な選択ができただろう。

だが、この時の俺は...何故かそれをしなかった。


「おい、やめろよ...。」


俺は言った瞬間、即座に心臓が脈を打つのが分かった。

視線を男2人に移すと、どちらも筋肉質な体型に強面な顔つきをしたヤク〇の様な雰囲気を醸し出していた。

中背中肉の俺が喧嘩で敵うはずがない。


「アァン?」


男1人が俺を殺気付いた目で威嚇してくる。

別に怖くはない。


ただ心臓が通常の3倍程加速しているだけだ。


逃げるか、戦うか。

この2択をミスると死ぬ。


男がこっちに向かって来ているのは分かるが、世界の動きがスローモーションになったように遅い。


チート能力にでも目覚めたのだろうか?


...いや、それはないな。

どうする。どうする?!


脳が打開策を見つけようと必死に回転する。


男がちょうど目の前に来た時、俺の脳が答えを導き出した。

唯一の打開策、それは...


「アァン?てめぇ、誰に喧嘩うってる...グェェェ!」


一瞬思考が止まる。

何だ?

殴られたのか?


右の脇腹に今まで感じたことのないような痛みが走る。


「ハハッ。何だって?聞こえなかったな?」


クソッ。

どうやらコイツに言葉は通じないようだ。

だが、俺に残された勝路はこの口を動かす事でしか見出せない。


「オゥェは、ヤクジャの息子だ...ぞ。」


「...?!」


男が一瞬怯んだ。

どうやら、俺の「親がヤクザ」作戦は効いているようだ。


「親父にイイッ!!」


次は左の脇腹に激痛が走る。

意味がわからない。

ただただ痛い。


「俺らと同じだな?」


「ヴェ?!」


終わった。

なんてツイてないんだ、今日の俺は。


「んー、どうしよっか...お前。」


ヤバい。

それしか考えられなかった。


「攫っちゃうか?なぁ?兄弟。」


「アァ?いらねぇよ、そんなガキ。」


「まぁ、使い道、ねーしなぁ。」


男達が話に夢中になってる間に、俺は女の子に視線を向ける。


視界が歪んでよく見えなかったが、女の子は風格だけでも美人だということがわかった。


女の子に逃げろ、と視線で訴えかけるが、女の子は首を振る。

それが罪悪感からなのか、何か他の理由があるのか分からない。


でも、俺はあの子を助けたい。

助けたいのだ。


助けて、その恩でワンチャン付き合ってくれないかな。

という打算なんて一つもない、事はない。


俺は、呼吸が戻るのと同時に、膝をついている方の足で思いっきり地面を踏み込み、俺を殴った男の方へとタックルを繰り出す。


「ッ!てめっ!」


へなちょこタックルには変わりないが、時間は稼げる。


「なかッ!にぃっ!!」


俺の声を聞いた少女は、意図を汲み切ってくれたのかコンビニの中へ走り出す。


それを聞いた男が、彼女を追いかけようとするが、もう一人の男がそれを止める。


このまま、彼女が逃げてもこの男達の運動神経ならすぐに追いついてしまうだろう。


それなら、コンビニの店員に助けを乞えばいい。


ヤクザといっても監視カメラのある店内での暴力は行わないはずだ。


「アァッ!」


さっきとは比べものにならない。

下から激痛が走る。

何だ、何処をやられた?


考えているうちにも痛みは倍増してくる。


「ヤベッ...やりすぎちまった。」


「おい、マジでそこは死ぬぞ!!女も中に入ったし、サツが来るかもしんねぇ...逃げるぞ!」


「お、おぅ。」


そんな会話を横耳に俺の意識は朦朧としていく。

この時、俺は悟った。

死とはこの感覚をいうのだと。


目の前が真っ暗になる、ほんの手前、こっちに店員を連れて走ってくる彼女の顔は...とてつもなく綺麗だった。


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


「ウンギャァァ!」


何だ?

何の声だ。

何か、変な夢を見たような気がしたからか、幻聴まで聞こえてきた。


「ギャッ。」

身体が上手く動かない。


「ナマヒヌ...アリカナタ!」


「ギィ?!」


いきなり目の前に出て来た美少女に俺はかつてないほどに驚く。

彼女は視界の外から突然出て来たのだ。

それに視界も目の前が天井で、起きあがろうとしても身体は思い通りには動いてくれない。


とりあえず、一番力の入る腕を全活力を使って上に上げる。


「ンァ?」


何じゃこりゃ...。

何でこんなに手が小さい...?


あぁ...これはあれか。


「ナヌハト、ラスン」


転生ってやつだな。

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