Ⅲ. 赤ずきんちゃんと善良な魔王さま

BlueRoseCafé ――ブルーローズカフェ――

 この日、まりんは憂鬱な気持ちになっていた。大好きな生け花やフラワーアレンジメントの授業を受けても調子が出ず、当たり前のように出来ていたことが出来なくなっていた。

「まりんちゃん、大丈夫?」

 四時限目の授業が終わった、昼休み中の教室にて。生け花の授業中に、ケアレスミスを連発したまりんを心配して、クラスメイトの黄瀬きせりりかがさりげなく具合を訊く。

「大丈夫……って、いいたいところだけど……午前中の授業からして大丈夫じゃないみたいね」

 机をくっつけあい、りりかちゃんと一緒に持参した弁当を食べながら、まりんは溜息を吐く。

「なんか、心配事でもあるの?」

「うん、ちょっとね……」

 にわかに顔を曇らせたりりかちゃんに、憂鬱な表情で返事をしたまりんは言葉を濁す。

 気がつけば、あれから一ヶ月が経っていた。秋も深まり、半袖から長袖のブラウスを着るようになった今でもまりんは、細谷くんとシロヤマのふたりに返事を出来ずにいた。

 クラスメイトの細谷くんと、結社に属する、死神のシロヤマから告白されて、三角関係になったなんて……りりかちゃんには言えないよね。

 りりかちゃんは幽霊ゴーストでもなければ、なんの特殊能力を持たない、ごく普通のクラスメイトだ。これがごく普通の恋愛ならばりりかちゃんに悩みを打ち明けてもいいくらいだが、死神のシロヤマも関係しているので話しづらい。

「そっか……あっ、そーだ! ねぇ、今日の放課後、空いてる? まりんちゃんと一緒に行きたい店があるんだけど」

「今日はバイトもないから空いてるよ。放課後が楽しみだね!」

 そう、笑顔で返事をしたまりんは、朗らかなりりかちゃんの誘いに応じたのだった。


 放課後になるとまりんは、りりかちゃんと一緒に校舎を後にし、電車に乗って自宅がある美舘山駅で下車。改札を通り抜けて駅の構外へ出る。商店街を抜けたところにひっそりとその店はあった。

「カフェ……?」

「うん、そう! ついこの間、見つけたの。その時に食べたフルーツパフェがとっても美味しかったから、まりんちゃんと一緒にここに来てみたかったのよ!」

 あっけらかんとしているまりんに、るんるん気分でりりかちゃんはそう告げると、英語で『BlueRoseCaféブルーローズカフェ』と書かれた看板が掛かるオシャレなお店の戸を開けて来店。

「いらっしゃいませ」

 来客に贈る挨拶とともに店内にいた店員が笑顔で出迎える。シャギーカットが施された黄土色のショートヘアに、エメラルドグリーンの目をした店員さんが、

「奥のテーブルへどうぞ」

 そう、営業スマイルを浮かべて言うと店内奥へと案内する。四人がけの窓際の席に、向かい合うようにして着席したまりんとりりかちゃんは、揃ってフルーツパフェをオーダーした。

「この店のマスターがね……思わず見惚みとれるくらい、超絶イケメンなの!」

「ふーん……そーなんだ」

 オーダーしたフルーツパフェが来るまでの間、りりかちゃんと会話をしていたまりんは興味なさげにそう返事をした。

 美少年だったら食いつくんだけどなぁ……

 まりんはそう、興味なさげに心の中でぼやいた。

「お待たせしました。ご注文のお品物でございます」

 ひとつ結わきにした濃紺の髪に青紫色の目をした容姿端麗の店員がテーブルの前にやって来て、銀のトレーに乗ったフルーツパフェを、着席するまりんとりりかちゃんの前に並べる。

「ごゆっくりどうぞ」

 品物をテーブルに並べ終えた店員は、にっこりしながらそう告げると、カウンター奥の厨房へと戻って行った。

「もしかして……今の人が、超絶イケメンのマスター?」

「その通り! ねっ、めちゃくちゃかっこいいでしょう?」

「まぁ、確かにイケメンではあるけど……」

 イケメンって言うより、黙っていれば、それはそれは美しいお姉さん……よね。

 と、まりんは密かに思ったのだった。

「う~ん! 苺が甘くておいしい~!」

 甘さ控えめの生クリームと一緒にスプーンですくった苺を食べ、おいしいと声に出すりりかちゃんが絶品パフェを堪能。まりんも、スプーンですくった葡萄ぶどうを食べて、あまりのおいしさに言葉を失った。

 シロヤマがまりんに愛の告白をしてから一ヶ月が経過したが、その間、シロヤマとは会っていない。細谷くんとシロヤマからの告白の返事、まりんは未だにその答えを見出せずにいた。

 気持ちのうえでは、細谷くんと両想いになりたい。けれど……嘘偽りのない、真剣なシロヤマの気持ちを考えると、無視出来ない。あの時、あの場所で、シロヤマが真剣に愛の告白をしなければ、まりんはきっと、細谷くんと両想いになっただろう。それが今や二択になってしまい、頭を悩ませる種となっている。

 本命はたったひとりだけ……今すぐ返事をすれば、その人と両想いになれる。それなのに……もしもどちらかひとりを振ってしまったならもう二度と、ふたりとは良好な関係でいられなくなってしまうかもしれない。

 どちらかひとりを振っても振らなくても、私は嬉しくないし幸せにならない。そんな予感しかしない。怖い。その人が、私の目の前から去ってしまうのが……良き理解者であり、好きな人でもあり、友人でもあるふたりとの、今のこの関係が壊れるのは嫌だ。

 悩み事や、もやもやする気持ちを抱えている時は、こうして甘い物を食べるに限る。

「ありがとう、りりかちゃん。素敵なお店を紹介してくれて。フルーツパフェがとっても美味しいお店……パフェ以外にも、美味しいスイーツや料理がきっと、このお店にはあると思う。店内も素敵だし、いろんな人に紹介出来そう」

「そだね! 私も初めてこのお店に来た時に、まりんちゃんと同じ事を思ったよ。だからさ、ランチタイムにまたここに来ようよ! 平日は学校だから週末に駅で待ち合わせてさ!」

「それ、いいね!」

 控えめに微笑んでやんわりと礼を告げたまりんと、それに応えたりりかちゃんとの会話が弾む。気付けば、悩み事も、もやもやする気持ちも吹き飛んでいた。

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