交戦中
半年にも及ぶ鍛練の結果、頭でイメージしたものを具現化、地球上のあらゆるものを動かす念動力を兼ね備えた特殊能力として、まりんは堕天の力を使いこなせるようになっていた。
堕天の力で以て、具現にした銀の
「ただ闇雲に剣を振りまわすだけでは到底、勝ち目はないぞ」
そう、冷やかな視線を投げかけて言い放ったカシンは、まりんが思っている以上に手強かった。
「そんなこと……言われなくても分かってるわよ!」
ひらりひらりと攻撃をかわされ続けること数分。くっと唇を噛んだまりんは憤慨した。
むかつくけど、今のは正論だわ。けれど、今まで一度も剣術を習ったことがないんだもの。仕方ないじゃない!
カシンの指摘を認めつつも、まりんの反抗する気持ちが、納まりそうにない。
結界と言う名の檻の中で細谷くんが見守るなか、まりんとカシンが対峙する。実際はそんなに経っていないだろうが、冷や汗の浮かぶ凛々しい表情でカシンを睨め付けるまりんには、その時が十分以上長く感じられた。
「そろそろ、観念する気になったか?」
背丈を越す、プラチナの大鎌を右手に持ち、涼しい顔をしながらも威圧的態度でカシンが迫る。フンッと、冷笑を浮かべたまりんは強気に応じた。
「この私が、観念するわけないじゃない」
「強気でいられるのも、今のうちだ」
そう、じわりじわりとまりんとの距離を縮めながら、カシンが冷やかに呟く。背後を覆う結界に阻まれてあとずさりしきれなくなったまりんが完全に逃げ場を失う。と、その時。
突如として結界に亀裂が生じ、それが瞬く間に広がって、硝子が砕けるような音を立てて結界が粉砕した。この予期せぬ事態に、まりんとカシンのふたりがいちじ呆然とする。
「間に合ったな」
良く通る澄んだ青年の声がした方向にまりんが顔を向けると……
耳に掛かるくらいの焦げ茶色の髪に切れ長の、栗色の目をした容姿端麗の青年が
「立場上、死した人間の魂を回収するのが死神の役目であることは重々承知の上だ。しかし……」
厳格な表情に雰囲気を漂わせながら闊歩するその人は、呆然とするまりんの前で立ち止まると、毅然たる口調でこう断言した。
「彼女に関しては別件につき、今すぐ魂を回収されては困る。お前に、赤園まりんはやらん。どうしても死神としての使命を全うしたければ、精霊王の私を
せ、精霊王……?
美青年自ら精霊王と名乗ったことで、この物語上における情報量がまた多くなったと当惑しがらもまりんは、死神総裁カシンに向けて断言したその言葉を受けて、ぽっと頬を赤らめた。その一方で、精霊王が登場する、この時を待っていた細谷くんがほっと安堵したのだった。
魔力。多くは、魔法使いが魔法を発動するのに用いる力のことを示すが、その言葉の意味は諸説あるとされている。
実際に魔法陣を描いたり、魔法が発動するのと同時に光り輝くそれが出現することこそないが、頭でイメージしたものを具現化し、地球上のありとあらゆるものを動かす念動力を兼ね備えた特殊能力も、魔力と呼ばれている。そんな魔力の使い手である細谷くんは、悠然とまりんの前に立つと、武器となる槍を右手に携え、態勢を整える。
「細谷くん……?」
「精霊王が、カシンの足止めをしてくれる。けど……これから、ここにやって来るあいつの足止めは俺がするよ。だから……赤園は、シロヤマの相手を頼む」
背を向けたまま、精悍さを感じさせる口調で細谷くんがそう言ってまりんを促した。その直後だった。セバスチャンとシロヤマが、不意に姿を現したのは。細谷くんは不敵な笑みを浮かべるセバスチャンと、まりんは真顔のシロヤマと対峙した。
死神としてのシロヤマと初対面したのは、細谷くんがあまりにもシリアスな口調で、まりんに危険を知らせた直後のことだった。
その時はまだ、シロヤマを本当の死神と認識していなかった。分刻みで時が過ぎて行くうちに、シロヤマが本物の死神であることに気付くわけだが……
こうして、息詰まるようなアスファルトの路上で対面するまりんが畏縮するほど、今のシロヤマには死神としての迫力があった。
「シロヤマ……どうして……」
「使命を全うするためだよ。君には酷だけど……その命、死神の名において、この俺が回収させてもらう」
どすの利いたシロヤマの声で青ざめたまりんの背筋が凍りつく。
「本気で……言っているの?」
「そうじゃなきゃ、面と向かって言わないよ」
対立する男女ふたりの間に、殺伐とした空気が流れ込む。
「そう……あなたが、その気なら……」
腹を決めたまりんの右隣に、四神のひとつである
「私も本気で、あなたのその使命を阻止するわ」
面前にいるシロヤマを凜然と見据えながら、まりんはそう断言した。
「そうこなくちゃ……」
巨大な不死鳥の形をした紅蓮の炎が、にやりとしたシロヤマの左隣に浮かび上がり、威勢を放つ。
「行くぜ!」
シロヤマが発した掛け声がゴングとなり、命懸けの熱き攻防戦が幕を開けた。
己の魔力で以て、強力な特殊能力者を七人具現化し、対戦相手を威圧させる。そこまでは、細谷くんの思惑通りだった。
しかし、いくら仲間を創てもそれは、対戦相手のセバスチャンよりも攻撃力が弱い細谷くん自身の分身に過ぎない。つまり、まったくの見せかけなのだ。
細谷くんと対戦するセバスチャンは、交戦開始後すぐ、それを見抜いた。と言うのも、武器となるサーベルを駆使して、次々と攻め込んで来る能力者と応戦するうちに、彼らの攻撃力が細谷くんとまったく同じであることに、セバスチャンは気付いたからだ。
それからが早かった。細谷くんの戦術を見破ったセバスチャンが機敏な身のこなしで能力者達を薙ぎ倒して行き、王手をかける。
「あなたの分身も、大したことないですね。結社の中でも強力なこの私に、呆気なくやられてしまうとは」
さりげなく、したり顔で自己アピールしたセバスチャンがそう言って、細谷くんを嘲った。
「今のはほんの、小手調べだ。俺の本気はこんなもんじゃない」
「その辺にしておきなさい。どんなに凄んでも、現状は変わらないのだから。この勝負、私の勝ちです」
真顔で制した後、余裕のある含み笑いを浮かべて、セバスチャンは勝利宣言。勝利を確信したセバスチャンがサーベルを前に突き出し、細谷くんめがけ突進する。
……これまでか。
セバスチャンにはったりを見破られ、万事休すの細谷くんが諦めかけた、その時。
「……っ!!」
金色に光り輝く結界が発動。細谷くんを包み込む、半円形状の結界にセバスチャンが突き出したサーベルが直撃。高音を轟かせて金色の波文が出来る。
この結界……細谷くんが張ったにしては、随分頑丈ですね。
直感で警戒したセバスチャンが、すばやい身のこなしで後方へと下がる。
絶体絶命のピンチに、颯爽と現れた助っ人の登場、それをまったく予期していなかった細谷くんは目を丸くした。
両肩に、金色の飾り房がついた留ね金つきの銀白色のコートを羽織り、背中くらいまである白髪を、灰色の紐で束ねたその人の後ろ姿。不穏なこの場所に、一筋の希望の光が差し込むような神々しい雰囲気を漂わせて、筋骨隆々の老剣士が細谷くんの面前に姿を現したのだ。
「今の俺は、お前にとって師匠的存在だ。それ故、大事な弟子を助け、守ってやるのも師匠の役目……健吾。俺は、お前がそう簡単に諦めるような男とは思っていない。自分を信じろ。そんで、最後まで戦え。お前には、地球上最強の剣士がついている」
「はい、師匠」
最も信頼を寄せる老剣士の激励を受け、俄然、闘志を漲らせた細谷くんは力強く返事をしたのだった。
紅蓮の炎でかたどられた朱雀と不死鳥が、威嚇の鳴き声をあげて激突、壮大に火花を散らす。
攻防するふたつの力を挟み、依然として対峙するまりんとシロヤマに動きはない。ふたりとも、面前のものを動かすのに集中しているからだ。
「いい加減、諦めたらどうだい?」
「イヤよ!」
フンッと意地悪な笑みを浮かべて降参を勧めるシロヤマに、まりんは憤然と拒否。
「そっちこそ、諦めたら?」
「そんなのお断りだね」
素っ気なく勧めたまりんに、シロヤマはポーカーフェースで断った。こうして読むと余裕のある会話だが、もっか対戦中の朱雀と不死鳥の、紅蓮の炎の暑さと気力の消耗とで、まりんとシロヤマのふたりには余裕などない。
なんとか……シロヤマをとめる方法はないの?
まりんは内心、そう思うと考えを巡らせようとした。けれど、頭がちっとも働かない。それもその筈だ。辛うじて残る気力と集中力とで、自身の分身となり、対戦する紅蓮の炎を支え、操ることで精一杯。そんな状況で、虫のいいことが起きることもなければ、そんな方法など見つかる筈もない。
そろそろ……限界のようね。
己の限界を悟ったまりん、最後の力を振り絞り、操っていた朱雀を凍らせた。爪先から頭のてっぺんにかけて分厚い氷の中に閉じ込めた紅蓮の炎の朱雀にヒビが入り、硝子が砕けるような音を立てて破砕。
タイミングを見計らい、紅蓮の炎に向かってシロヤマが
だらりとした、まりんの右手に握られた銀の剣が音もなく消え失せる。
再び静寂したその場所で、全ての力が尽きたまりんの体がぐらりと傾く。それを見逃さなかったシロヤマが大鎌を手に突進。ついに目と鼻の先まで迫ったシロヤマが、大鎌を振り上げた。次の瞬間。
傾いたまりんの肩越しに飛来した一本の矢がシロヤマに命中。左胸に白羽の矢が刺さり、振り上げた大鎌が手から滑り落ちる音が響き渡る。ガクッと、膝から崩れ落ちたシロヤマは、そのまま横向けに倒れて動かなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます