第6話 ハゲたとしても
「……シルルさん、さっきの魔法、何発当てればブラッドウルフを倒せる?」
ハツカは覚悟を決め、ブラッドウルフからシルルを庇うように前に出る。
「え、いやだから、そんなことより逃げ……」
「僕がブラッドウルフを抑える。その隙に全力で魔法を撃ち込んで」
「そんな! どうやって!?」
答えている暇は無かった。
グルルァ!!!
ブラッドウルフは体制を整え、再びこちらに駆けて来ている。
同時にハツカも前に出る。
「戦闘スキルがなくたって、抑えるくらいは! [髪の毛操作]!」
ハツカの髪の毛が大きく広がり、いくつかの束になり、それぞれがブラッドウルフの四肢を捕まえる。
グルァ!!!
動きを阻害され、ブラッドウルフが唸りながら身体をよじる。
しかし、振り解かれないようハツカは、髪の毛を更に絡ませるよう操る。
「ぐっ……! なんて力だよ!」
[髪の毛操作]で操れる髪の毛のパワーは、せいぜい一般成人男性くらいのものだ。
対して相手はDランク相当の魔物、力負けするのは目に見えている。
今は絡みつく髪の毛に慣れずに、もがいているブラッドウルフだが、そう長くは抑えられない。
「シルルさん! 早く魔法を!」
「けど、今当てるとハツカさんの髪の毛が」
「まとめて燃やして構わない! 早く!」
「……! プチファイア!」
ハツカの覚悟を読み取ったのか、シルルがハツカの髪の毛ごとブラッドウルフに魔法を当てていく。
「プチファイア! プチファイア!」
グルルァ!!!
連続で放出される魔法の火の玉に体を焼かれ、ブラッドウルフが悲鳴を上げている。
しかし、一方で火はハツカの髪に燃え移り、徐々に頭皮にまで達しようとしていた。
「ぐっ……!」
頭が焼け、痛みが走るが、今ここで髪の毛を離すわけにはいかない。
離せば再度ブラッドウルフを抑える術はないのだ。
「プチファイア! プチファイア!」
続けて火の玉がブラッドウルフに向けて撃ち続けられる。
十発ばかり、火の玉が撃ち込まれた頃、ブラッドウルフが小さく鳴き、ガクンと頭を落とす。
同時にハツカの髪の毛も焼け落ち、ブラッドウルフの体がドサッと地に落ちる。
「や、やったんでしょうか……?」
限界の体で魔法を連発したからだろう、シルルが息を切らしながら確認する。
ブラッドウルフは完全に息絶えていた。
ハツカも安心して、その場に腰を下ろす。
「なんとか……なるもんだね」
「はい! ハツカさんのおかげで……えっ!?」
そんなハツカを振り返り、シルルがギョッとする。
「ハツカさん! 頭! 火! まだ燃えてますー!」
「え! 火!? まだ消えてな……熱っいいい!!!!!!」
「プチウォーター!」
火を消すなら水だと思ったのだろう。
シルルが水属性の初級魔法スキル[プチウォーター]でハツカに向かって水弾を撃ち出す。
もちろん、[プチウォーター]は攻撃魔法で、それなりの威力の水弾を撃ち出す魔法だ。
「うべぐふぅ!!!!」
水弾は見事命中し、満身創痍のハツカの頭を撃ち抜いた。
「ハツカさーんっ!!!」
「……だ、大丈夫。火も消えたし」
実際火は消えたが、髪の毛は毛根まで全て焼けて頭皮は大火傷。
そこに魔法の水弾を喰らったので、正直全然大丈夫ではないのだが、ここは男として痩せ我慢だ。
先ほどブラッドウルフに噛まれたシルルの方が重傷に決まっているのだから。
「大丈夫なんかじゃありません! なんでそんな無茶をするんですか!」
「え、でもああしないと二人ともやられるかなーって……」
「ばかっ! ハツカさんのばかばかばかばか!」
シルルが泣きながら、ポカポカと叩いてくる。
無茶してたのはお互い様な気はするが、年下の女の子泣かれてしまうと、こちらとしては弱い。
確かに無茶な作戦だった。
頭皮の焼け具合から見て、おそらくハツカの髪の毛が生えてくることは二度とないだろう。
ハゲには【髪の毛使い】のスキルは使えない。
スキルが使えないから、冒険者としてももう引退するしかないだろう。
それでも、ハゲたとしても冒険者として最後にシルルを守れたのだから、良かったと思う。
せめて安心させようと、シルルに手を伸ばした瞬間ーー
『アレ、人間ガ、イルヨ』
『本当ダ、人間ガ、イルネ』
『ニ、人間? 食べ、食ベテ、イイ?』
周囲の黒い霧が一層濃くなり、その中からぞろぞろと、人型の魔物が溢れてきた。
それはCランクの魔物、グールの群れだった。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
● 絶エズ研鑽ヲ重ネシモノ
● 研鑽ノ全テヲ失イシモノ
◯ ソレデモ誰ガタメニ抗イシモノ
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます