第1話(1)最寄田静香の悩み

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 わたしの名前は最寄田静香もよりたしずか。16歳。この春から高校二年生だ。


 突然だが、わたしには思い悩んでいることがある。通っている高校の名前が『新宿オルタナティブ学園』というなんともアバンギャルドな名前だということではない。まあ、人に言ったら、高確率で笑われるのだが。そういうことではないのだ。


 ……今ひとつツイていないのだ。そう、不幸なのである。神社でおみくじを引いたら、『大凶』だ。むしろラッキーかとも思ったが、三回連続である、しかもそれぞれ別々の神社で。または、朝出かけようとしたら、上から鳥のフンを落とされた。“ウン”が付くという見方も出来るが、一年間で三度である。そんなに運はいらない。ベンチに腰かけたら、「ペンキ塗り立て」だったことも何度かあった。ふたが開いていたマンホールに危うく落ちそうになったこともある。……まあ、ベンチとそれなどは単にわたしの不注意だと言ってしまえばそれまでなのかもしれない。


 それでも生まれつきこんな感じだったのならば、まだ諦めがついた。だが、この不幸体質、高校に入ってからなのである。中学まではこんなことはとくに無かった。どうしてだろうか? 家族や友人など、周囲にも相談してみた。皆、口を揃えて、「転校したら?」と言う。だが、それは出来ない。この新宿オルタナティブ学園は、新宿駅前にあるという超絶好立地なのである。アクセスしやすいのは大変助かる。一年、半年、いや、一ヶ月でも、通ったら、他の高校に通学する気はなかなか起きない。


 しかし、こうまで見事にアンラッキーな事態が続くと、さすがに少し考えてしまう。なにより勉強に集中出来ない。言うまでもなく、学生の本分は勉強だ。このままでは、大学進学もままならない。受験を失敗したら大変だ。就職活動か? その場合、高卒は別に良いとしても、最終学歴が新宿オルタナティブ学園というのはなんとなく恥ずかしい。それだけでお断りされてしまうような気がしてならない。


 ……まあ、そうやって暗いことばかりを考えていてもしょうがない。さっきも言ったように、この春から高校二年生だ。進級したことによって、運気の流れというものも変わってくるだろう。いや、そうでなければ絶対に困る。……うん?


「……」


 何やら校舎前がざわついているな……。ああ、クラス替えの発表を掲示板でもしているのかな? わたしは何組だろうか……。平和に過ごせれば何よりだ。……む?


「ああ、おはようございます。お待ちしておりましたよ」


 神主さんのような恰好をした、白髪の男性がわたしに向かって挨拶をしてきた。


「ど、どなたさまでしょうか……?」


 わたしは困惑気味に応える。新年度、いきなり予想外の幕開けだ。

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