第6話(1)決勝トーナメント準決勝第一試合

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「やった! 竜子、一回戦突破だ!」

 太郎が歓声を上げる。

「太郎、ちょっと静かに……」

「いや、ママ! これは静かにしていられないって!」

「気持ちはよく分かるけれど……ね?」

 ママがにっこりと微笑む。

「あ、う、うん……」

 太郎が静かになる。

「し、しかし、ここまで来るとはな……」

 パパが腕を組んで感心する。

「よく分からなかったけれど……あのお嬢様、強かったみたいね?」

「ああ、予選ブロックで戦った子たちももちろん強かったけれど……それを上回る強さだったよ……正直何度も負けたかと思った……」

「竜子の粘り勝ち?」

 太郎がパパに尋ねる。

「う~ん、そう言えるかもしれないし、違うかもしれない……」

「え?」

「どういうこと?」

 太郎とママが首を傾げる。

「いや、何と言えば良いのかな……」

 パパが鼻の頭を人差し指でポリポリと搔く。

「まぐれってこと?」

 太郎が問う。

「いやいや、そういうわけでもないよ」

 パパが右手を左右に振る。

「じゃあどうなの?」

 ママが重ねて問う。

「う~ん……ある程度は狙った展開に持ち込んだのかな……」

「そ、そんなことが出来るの?」

 ママが驚く。

「出来ちゃった……みたいだね。いや、大したものだ……」

 パパが再度感心する。

「ふう……」

「お疲れ様でございました、お嬢様」

 左京に対し、山田が声をかける。

「ええ……」

「大変残念ではございましたが、勝負というものは時の運でございます……」

「いや、敗因ははっきりとしていますわ」

「え?」

「わたくしの油断……それと……」

「それと?」

「あの将野竜子さんが思った以上の実力者ということです」

「お嬢様にそこまで言わしめるとは……」

「セバスティアン、これは負けた悔しさからではありませんわよ、わたくしは本心から言っているのです」

「山田です……ええ、それはもちろん分かっています」

「それならば結構です……」

 左京が頷く。視線の先にゴスロリの女の子が入る。

「……」

「あら? そのゴスロリ衣装……田中真理さんではなくて?」

 田中に対し、左京が話しかける。

「人をゴスロリ衣装で判断しているのか……」

「いやですわ。冗談ですわよ」

「ふん……」

「貴女のことですから、敗退が決まったら帰るものかと……」

「今日は余暇がたっぷりとある……」

「要はヒマなのですわね……」

「あの横尾……どうしてなかなか気になる存在だ……」

「横尾? ああ、サイドテール……将野竜子さんのことですわね?」

「ああ……」

「自分を負かした相手がどこまで行けるか見てみたいと……」

「そなたはどうなのだ?」

「ええ、気になりますわ……次の将野さんのお相手も含めてね」

「次の……ああ、あやつか……確かにな」

 トーナメント表に目をやった田中は納得したように頷く。

「はあ……」

 お手洗いの化粧台で手を洗っていた竜子は鏡を見てため息をつく。

「すごいじゃん!」

「うわっ⁉」

 いきなり声をかけられ、竜子はビクッとなる。

「ああ、めんご、めんご……」

 竜子が視線を向けた先には、明るい髪色のロングヘアで短いスカートとダボっとしたソックスを穿いた、スタイルの良い女の子が立っていた。

「お主……」

「うん?」

「ギャルというやつか?」

「え、ま、まあ、そうかな?」

 ギャルの女の子がやや戸惑う。

「すごいとは何がだ?」

「ええ?」

「ギャルが将棋に興味を持つとは到底思えんのじゃが……」

「いやいや、それってすっごい偏見だから!」

 ギャルが竜子のことをビシっと指差す。

「違うのか?」

「全然違うよ、さっきの対局、すごかったじゃん!」

「分かるのか?」

「うん! あのお嬢様を負かすなんて予想外だったよ!」

「あのお嬢様……左京はやはり有名なのか?」

「有名も有名、超有名だよ!」

「ほう……」

「今大会の優勝候補だったんだから!」

「優勝候補……」

「その子を負かしたんだから、君が優勝候補だね!」

「まあ……」

「まあ?」

 ギャルが首を傾げる。

「それほどでも……ある!」

「あるんかい!」

「ふふっ、お主、なかなか見る目があるのう……」

「うん! すっかり君のファンになっちゃったよ!」

「悪いが……」

「ううん?」

「サインならば後にしてくれ」

「あ、ああ……」

 ギャルが戸惑う。

「この後すぐに準決勝じゃからな……」

「大変だね~」

「勝者というものは常に忙しいものじゃ……」

「お、おう……」

「それでは失礼する……」

 竜子はお手洗いを出て、会場に戻る。

「では、決勝トーナメント準決勝を始めます。まずは第一試合……」

 係員がアナウンスする。

「第一試合?」

「準決勝からは一試合ずつやるみたいだね……」

 太郎に対し、パパが答える。

「ふ~ん……」

「これは注目が集まるわね……緊張しないと良いけれど……」

 ママが心配そうに竜子を見つめる。

「ふん……!」

「大丈夫みたいだよ、ママ」

「いつも通りだ、頼もしいね」

「ふふっ、緊張とはまるで無縁みたいね……」

 座席にドカッと座る竜子を見て、ママは笑みを浮かべる。

「さて……」

「やっほ~♪」

 竜子の目の前の席にギャルが座る。

「んん?」

「よろしくね~♪」

「お、お主が相手か⁉」

 竜子が面食らう。

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