CASE02 姫野市立高等学園幽霊騒ぎ事件

第1話 心霊写真(プロローグ)

「──という経緯でさあ、りゅうちゃんもほんと変わらないよな」


 俺をちゃん付けで呼ぶ、このフレンドリーでイケメンな男は櫻井尚樹さくらいなおき

 ウルフカットの金髪にしていて、耳にはピアスと今どきのチャラ男である。

 白いYシャツを着崩し、灰色のブランド物のダメージジーンズを履き、露出した白い首元には銀の月のネックレスが付いていて、いかにも女の子を誘惑しそうなスタイルでもあった。


「おい、こんな席にアルコールじゃなく、卒アルなんて持ってくるなよ」

「何でだよ、念願の探偵業に就いたんだろ。だったら少しばかり昔を振り返ってもいいじゃないか」

「私も見てみたいな。龍之助りゅうのすけの幼少時代」

愛理あいり、お前も否定してくれよ……」


 黒のカーデワンピースに赤いニットキャミソールというよそ行きの服装で、いつもより女の子らしさがある与謝野愛理よさのあいり

 この女とは小学低学年からの腐れ縁であり、同じ屋根の下で暮らす義妹でもあるが、ただ胸だけがデカイだけのじゃじゃ馬娘だ。


 大学生とは思えないロリ顔でもあり、興味があればすぐに突っかかるミーハーな性格でもある。

 本人が言うからに、大学のサークルでは本人のファンクラブがあり、可愛すぎて困っちゃうー♪ とか言ってきたりもするが、みんなコイツの容姿に騙されすぎだぜ。


 ファンクラブはいいが、可愛いからとあまりのめり込むなよ。

 幼馴染みとして言っておくが、コイツは猫かぶりなだけで内面は腹黒いんだぞ。


 ……と心の中で大声を上げていた。

 怒ったら何をしでかすか分からないからな。


「へー、これが龍之助? お人形さんみたいで可愛いね」

「ああ、今と違って龍ちゃんは外見だけじゃなく性格もおっとりしててさ。女の子みたいだったんだ」


 尚樹が黒いなめし革の鞄から幼稚園の卒業アルバムを出し、愛理と肩を並べて、ゆっくりとページをめくる。


 おい、尚樹、さっき澄ました顔でよなと口に出さなかったか。

 あれは何かの冗談のつもりかよ?


「へえー、それでどうしてこんな朴念仁に育ったのやら」

「何で俺の方を見て言うんだよ?」

「さあ。自分の胸に聞いてみたら」


 愛理が怪訝そうな視線で俺をじっと見る。

 睨むというより、俺自体を観察してるような目でだ。


「それでこんな遠方な場所に連れてきて、何の依頼だよ。探偵は出張訪問の飲み屋の付き人じゃないんだぜ」


 ──ここは地元の内岡うちおか県、博田はかだから東海とうかい方面に離れた近木きんき地方、兵光ひょうこう県。

 まだ夜風が冷たい春先、兵光近隣にある姫野ひめの市立高等学園にて、お困りな事件が起こり、その依頼を尚樹から受けて、新幹線で直行した……。


 ……とここまでは筋書き通りで良かったのだが、尚樹が会うなり『久しぶり〜♪』とフレンドリーに握手を交わしてきて、何ごとだと不思議そうに棒立ちしていたら、幼稚園の時に博田にいた尚樹だよと。

 そんな小さい頃の記憶なんてないが、こうやって再会記念に、駅の近所にあったこのチェーン店の田舎旅館な風貌の居酒屋、

『蔵之太郎』で歓迎会をすることになって……。


「となると、龍之助はレンタル彼氏というもんかな。きゃはははっw」

「あー、飲んべえはちょっと黙ってろ」


 俺は酔いが回ってへべれけな愛理の肴な席(枝豆とタコわさのコンビ)に少し前に注文した大ジョッキに入ったグレープフルーツジュースをドンと置く。

 ここまで飲んでしまった以上、解決策は悪酔いをさけること。

 愛理は俺の助手であり、探偵業のマスコットキャラクターでもある。

 明日の仕事に支障が出ても困るしな。


「むっ、龍之助ちゃーん。私にはどんどんべえじゃなくて愛理ちゃんという可愛い名前があるんですがー?」

「ああ、絡み酒、面倒くせー」

「そうそう、絡んでほどけて結ばってー♪」


 愛理が小学生が考えそうな童謡の替え歌を歌いながら余韻に浸っている。

 本人は酔っ払って気持ちいい気分かもだが、周りのお客からの痛い目が刺さる俺の身にもなってくれ。


「尚樹、頼むから愛理に酒は飲ませないでくれよ。コイツ、見ての通り酒癖が悪いんだよ」

「ごめんよ。だって二十歳になったからお酒飲み放題ですー♪ って彼女が高らかに宣言してたからさ」

「そういうヤツほど飲んだらヤバかったりするんだよ」

「きゃははっ、脱いだらヤバいんですってーw」


 あー、鬱陶しいな。

 同居人じゃなかったら即行で帰したいのだが、こんな酔い潰れた状態でも俺のパートナーであり、義妹でもあるからな。

 妹を見捨てるなんて兄失格だし……。


「……で尚樹、依頼というのは?」

「ああ、これを見てくれないか」


 俺はグレープフルーツジュースを拒否る愛理にグラスについだ水を飲ませてから尚樹に視線を戻して、本来の仕事に戻る。

 すると、尚樹が鞄から一枚の写真を出してきた。


 写真からしてインスタントカメラ(ポラロイド)からか。

 この令和の時代に珍しい。


「ふむ、ただの友達通しの写真という代物じゃないようだな」

「とあるカメラで問題の学園を撮ったものなんだけどさ、左側の女の子の頭上に赤い玉みたいのが写ってるよね」


 尚樹がその赤い玉にひとさし指を付けて、写真に意識を持っていく。

 俺は余計なツッコミはせずに尚樹に話を続けさせる。

 どんな神秘的で馬鹿げた内容でも、受けた依頼の話は茶々を入れず、最後まで通して聴く……それが探偵業としての仕事の基本だからだ。


「……というのは何か?」

「うん。俗に言う心霊写真というもんだよ」

「なるほど。この玉は幽霊の仕業なのか」

「そうさ、姫野市立高等学園には幽霊が出るという噂で持ち切りなんだ」


 姫野市立高等学園による幽霊騒ぎ。

 これが後に俺たちの前に立ちはだかる新たな怪事件とも知らずに──。

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