⑫紗雪の決意-1-







 異世界の人間を拉致する術があるのだから、還す術もあると思っていた。


 いや、もしかしたら、それは自分の心を守る為に無意識にそう思い込んでいたのかも知れない。


 日本神話のイザナミ然り、ギリシア神話のペルセポネ然り、黄泉の国の食べ物を口にした者は、その国の住人になってしまうという掟があったではないか。


 しかも紗雪にとってフリューリングは、自分が住んでいる世界とは異なる世界だ。


 フリューリングが死者の住む世界とは言わないが、それでもそれに近い感覚で行動をするべきだった。


「紗雪殿・・・?」


「・・・・・・一人で考えたい事があるの」


(・・・・・・・・・・・・)


 キルシュブリューテ王国とロードクロイツ家の人達に罪はない。


 だが、このままここに居ては己の迂闊さを棚に上げて彼等に当たってしまいそうな気がした紗雪は、頭を冷やす為にロードクロイツ家の者が居並んでいるリビングダイニングを出て行くのだった。









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