第6話(3)木生火
「ふ~ん、土転びね~」
「何度か耳にしたことはありますわね。見たことはありませんけれど」
古い寺の軒下に座りながら、焔と金が話す。
「そういうのが相手だったら、わざわざ三人組で行動しなくても大丈夫じゃない? 晴明ちゃんからもお墨付きをもらったじゃないのさ」
「……焔さん、まったくもって甘いですわね」
「え?」
「油断大敵ですわ!」
金が焔をビシっと指差す。
「ええ?」
焔が面食らう。
「念には念を入れよと言うではありませんか」
「そういうものかな」
「そういうものです」
「ふ~ん……」
「一瞬たりとも気を抜いてはならないということです……」
「……いや、思いっ切り気を抜いてんじゃねえか!」
栞が声を上げて指を差す。指を差した先には焔と金が小石をいくつも並べている。
「え?」
「どうかした? 栞ちゃん?」
焔が首を傾げる。
「そりゃあこっちの言葉だ! 何を遊んでいるんだよ⁉」
「『石合わせ』ですわ。幸いここには小石に事欠かないもので……」
「合わせるのは絵とか貝だろう⁉ 小石なんて比べてもどれだって一緒だろうが!」
「はあ~分かっていないね~栞ちゃん」
焔が両手を広げる。
「はあ?」
「たかが小石、されど小石……なかなかどうして奥が深いものなのですわ……」
金がつまんだ石を眺めながらうっとりとした顔で呟く。
「同じようにしか見えねえけどな」
「観察眼が足りませんわね」
金が呆れ気味の視線を栞に向ける。
「くっ……大体だな、金、こんな時に遊んでいて良いのかよ? 焔はともかくとして、お前さんまでがよ」
「緊張状態にはほどよい緩和というものが大事です」
「緩和ね……って⁉」
寺の天井から大きなねずみが落下してくる。人よりも大きいねずみである。
「シャア……!」
「ほ、ほら! おいでなすったぞ!」
「そう慌てるものでは……ありませんわ!」
「あっ⁉」
金が持っていた石を指で弾き、ねずみに当てようとする。
「状況の変化には即座に対応出来るようにしておくものです……!」
「な、なるほど!」
「食らいなさい!」
金が石を弾く。
「! ……シャア?」
ねずみが石を口にして、むしゃむしゃと噛み砕く。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
三人と一匹の間に沈黙が流れる。金が口を開く。
「ふむ……対応力はそちらもなかなかですわね……」
「感心している場合かよ!」
栞が声を上げる。
「こういう時は取り乱した方が負けですわ」
「シャア!」
「キャア⁉」
ねずみに威嚇され、金が尻餅をつく。
「早速取り乱してんじゃねえか!」
栞が呆れ気味に怒鳴る。
「まあまあ……」
金が立ち上がり、尻をさっと両手で払う。
「あ、無かったことにしようとしてる~」
焔が笑いながら指摘する。
「焔さん、黙らっしゃい」
「酷っ⁉」
「『金剣』!」
金が印を結び、剣を発生させて、ねずみに斬りかかる。
「シャアア!」
ねずみが飛んでかわす。金が驚く。
「むっ⁉ 巨体に似合わず素早い動き!」
「アタシが燃やすよ!」
「お待ちなさい、焔さん! お寺が燃えてしまいます! 『金の矢』!」
金が金の弓矢を発生させて、矢を何本か放つ。ねずみにそれもかわされてしまうが、ねずみが寺の建物から外に出る。栞が膝を打つ。
「上手い! 外に誘導したのか!」
「本命はこちら!」
金がすかさず矢を放つ。狙いすました一撃はねずみの眉間を正確に撃ち抜いたかと思われたが、ねずみの額が矢をポキッと折ってしまう。
「シャアア‼」
「『金の盾』!」
噛みついてこようとしたねずみを金が盾を発生させて、なんとか防ぐ。
「金!」
「わたくしに構わず! こやつは恐らく……『鉄鼠』ですわ!」
「! 聞いたことはあるが、そんなに硬い奴だったか? 単なるねずみの物の怪だろう?」
「名は体を表すというか……金の属性を持ったものが突然変異的に出てきたのでしょう!」
「そ、そんな馬鹿な……」
「細かい検証は後ですわ! 焔さん! 今の内に!」
「う、うん! 『火炎放射』!」
「!」
「! も、燃えない⁉ 『火克金』のはずじゃ……」
焔が戸惑う。栞が声をかける。
「焔、もう一回だ! オレが援護する!」
「わ、分かった!」
「『木生』!」
栞が大量の木を生やし、焔の放射する火炎にどんどんとくべる。火の勢いはみるみるうちに増していき、鉄鼠の巨体を覆い尽くし、霧消させる。距離をとっていた金が呟く。
「『木生火』……木は燃えて火を生み出すということですわね……」
「へへっ、そういうこった」
栞が胸を張る。焔が頷く。
「相生ってやつだね。これは色々とやりようがあるかも……」
「……とりあえずは片がついたな。遊びの続きをするか? どうせ石を使うなら、近くの小川で水切り遊びでも……」
「遊んでいる暇などありません。後始末をして、戻って報告です」
「ええ……納得いかねえな」
金の言葉に栞が困惑する。
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