第5話(1)誰が悪いか

               伍

「いや~どうしてなかなか大変な相手だったね……」

 船岡山で戦った翌日、晴明の屋敷の一室で基が髪をかき上げる。

「人面の大きな木さんですか……なかなか想像が追いつかないですね」

 泉が自らの頬を撫でる。

「山でいたずらをしていたらしき連中の正体はそれか……」

 栞が顎をさすりながら呟く。

「まったく……脅威でしたわ……」

 金が目を細める。

「ふ~ん……」

 焔が腕を組む。

「? どうかしましたか、焔さん?」

 金が焔に尋ねる。

「いや、なんでもないよ……」

「……嘘おっしゃい」

「え?」

「知っていたのではありませんか?」

「なにを?」

「あの人面木なるものの存在を……」

「……」

「………」

「え~っと、それはどうかな~♪」

 焔は金から視線を逸らし、口笛を鳴らす。

「ご、誤魔化し方が雑⁉」

 泉が驚く。

「やはりね……」

 金がため息交じりで呟く。

「い、いや、ちょっと昔の話だよ!」

「ちょっと?」

「昔とは?」

 泉と金が揃って首を傾げる。

「アタシと栞ちゃんが晴明ちゃんに連れられて、遠くの山の方まで行ったことがあるんだよ、覚えていないかな?」

「あ~……」

「そういえばそういうようなこともありましたわね」

 泉と金が思い出したかのように頷く。

「その時に人面木なるものに遭遇したことがあったんだよ……ねえ?」

 焔が栞に話しを振る。

「そ、そういえば、そんなこともあったかもな……」

 栞が自らの側頭部をポリポリと掻く。

「そんなことがあったならば!」

「!」

「‼」

 金が床をドンと叩く。焔と栞がビクッとなる。

「しっかりと報告をしておいてもらわなければ、困ります!」

「そ、そうですね、情報の共有はしておかないと……」

 泉がうんうんと頷く。

「ま、まあ……」

「それは全くもっておっしゃる通りなんだけどよ……」

 焔と栞が揃って、それぞれの後頭部をポリポリと掻く。

「ふむ……」

「い、いや、基さん、ふむではなくてですね……」

「事情は大体分かった……」

「え?」

「昔、今よりも好き放題に振る舞っていた焔と栞のことは覚えているだろう?」

「え、ええ……」

「よく手を焼かされましたわ……」

 基の問いに泉と金が頷く。

「晴明くんはそんな二人をちょっとばかり懲らしめてやろうと、遠くの山に連れ出した……そこで、人面木と遭遇し、子供心に怖い思いをした……違うかい?」

「……まあ、概ね、それで合っているよ」

 栞が頬杖を突きながら頷く。

「あえて訂正するならば……人面木っていうのとはちょっと違ったかな~?」

 焔が首を傾げる。

「確かにそうだな……」

 栞が顎をさする。

「木の精霊のようなものかな?」

「うん、おそらくは……」

 基の言葉に焔が頷く。

「なるほどね……」

「基さん、なるほどとは?」

 金が基に尋ねる。

「この京の周囲の山々だけでなく、他の地域の山々や森林には、様々な木の精霊というものがいるとされている――人が増えてきたこの京にはあまり寄り付かなくなったというらしいけど――そういった類の連中と遭遇したということだろう」

「……精霊というわりには野蛮な連中でしたけど……」

 基の説明を受けて、金が顔をしかめる。

「質の悪い連中に絡まれてしまったようだね……」

 基が苦笑する。

「……ということは」

 泉が口を開く。四人の注目が泉に集まる。金が首を捻る。

「泉さん? なにか?」

「言いにくい話なのですが……」

「構いません、おっしゃってください」

「で、でも……」

「良いからばっと言っちまえよ」

 栞が促す。泉が遠慮がちに話す。

「……昔のこととはいえ、報告や連絡などを怠ったお師匠さまにも問題があるのではないのかなと、思ってしまいました……」

「その通りだな、晴明のやつが全面的に悪い」

「えっ⁉」

「晴明ちゃんのせいだね」

「ええっ⁉」

 栞と焔の言葉に泉が面食らう。

「全面的は言い過ぎかもしれないが……情報は共有してもらわないと困るね……」

「これはお師匠さまの責任問題に繋がるのではありませんか? 皆が言いにくいことをよくぞ言ってくださいました、泉さん」

「ええ……そういうつもりじゃあ……」

 基と金の会話に泉が戸惑う。

「ご歓談のところ、申し訳ありません……」

 旭と朧が現れる。焔が驚く。

「うおっ⁉ び、びっくりさせないでよ~朧ちゃん」

「われは旭です。朧はこちら……」

旭が朧を指し示す。焔が謝る。

「あ、ご、ごめんね、何度も何度も何度も……」

「物の怪らしきものが現れたという報告がありました。今宵も出動をお願いします」

「!」

 朧の言葉を受け、五人の顔に緊張が走る。

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