第12話 ~罠~
「よっしゃ、作戦会議を始めようぜ!」
「では、何か意見をどうぞ」
「うーん…私はその場で考えるタイプだからなぁ……」
「それで」
「え?」
「それを作戦としましょう、題してその場で作戦考えよう作戦です」
「なんじゃそりゃ、1番頭脳派みたいな喋り方しといて適当丸投げかよ!」
「竜之介さんも作戦を立てようと提案しただけじゃないですか…それにそういうのは初心者の俺達よりも、何度も探索した経験のある貴方が、立てるべきなんじゃないですか?」
「そりゃそうか、知らんけど…まぁとりあえず単独行動しなきゃいいんだ、そして化け物共は、基本ボスチームが殲滅してくれるのがセオリーだ、何せあいつら気配察知持ちが多いからな、探索が開始した瞬間にスキルを発動して、速攻狩りに行っちまう、いわゆる戦闘狂なのさ…当の本人達は安全を素早く確保する為っつう意見は理にかなってるがな」
「堅実に行こうって訳ね!了解!」
と、作戦と言う作戦を立てる間も無く探索が始まった。
竜之介が言った通り、始まって直ぐに一人の男が設置したスピーカーから、キーンと音が発せられる、一見何の意味も無い行動だと思われるが、これは音響技師が使える派生スキルの、エコーロケーション発動時に出る音を音量増幅器で増幅させてスピーカーから放ち、大きく広い建物全体をスキャン出来る様にしたもので、実際はスキルと言うより道具を使った合わせである。
化け物はどうやら、この建物の奥に群がって暮らしている様で、見えるだけでも20匹、多ければ30匹はいそうだと報告が通った。
化け物の体躯は、小学生くらいの子供程度であるとの情報に、各々姿形を想像する、ボスチームは早々に建物内に入って殲滅に向かっていた。
「私達も向かおうよ!」
「いや、まだだ…」
「え、なんで?」
「一番安全に探索する方法は知っているか?それはな、ボスチームが化け物共を殲滅してから建物内に突入することだ」
「確かに一番安全に探索できますけど、探索に対して旨味が何もありませんよね?先に行ったボスチームが粗方探索し終えてしまうんじゃないですか?そんなことしても意味ないのではないでしょうか、それなら無理にでも――」
「いや待つぞ…そもそもこの探索隊に入り、生き残るだけで報酬は貰えるんだ、危険手当的な感じでな、ぶっちゃけ俺はそれを狙い探索隊にいるんだ、そしてお前らもそれをした方が良い…悪いことじゃない結局は探索するんだ、少し遅れるぐらいなもんさ」
「いや~でも私は探索したいかな、確かに化け物とか危険だし怖いよだけどやっぱり私の
「……分かったよ、確かに経験ってのは買ってでもしろって言うくらい大切なものだ、それに後輩の育成すらまともに出来ない先輩なんて、あいつが見たらぜってー馬鹿にされちまうしな!ついてきな、探索のコツを手取り足取り教えてやるぜ!」
そう言いながら先程の調子で手招きしながら、建物の中に入る竜之介に2人は付いて行くのであった。
!
「くそっ…なぜだ!一向に敵が減る気配が無いぞ!」
「ボス後ろ!」
「分かっている!」
「ぐあっ――」
「斎藤!…菜月、斎藤を回復してくれ!」
「了解です…」
探索を開始して大体10分というところか…一体いつになったらここから出られる様になるのだ?仲間ももう大半は満身創痍、ペドラさんから買った回復の巻物も今ので最後だ、だが敵は無尽蔵に湧いて出てくる、このままじゃじり貧だぞ…!
~10分前~
探索を開始したボスチームは、強化した気配察知発動後、定めた目標に向かって一直線に足を進めていた。
「さて、今回の作戦だが…ここは狭い建物の中だいつもの戦闘とは違う、まず斎藤と俺が前線を張り、菜月・神無月の2人は後方でスキルを駆使した援護を、西村は奇襲対策でチームより後方、気配察知のスキルで周りを見ていてくれ」
「「「了解!」」」
「…りょうか~い」
ボスチームは剣術士の正尚、槍術士の斎藤、斧術士の神無月、機械技師の菜月、音響技師の西村の5人である。
しばらく安全の確保の為に、気配察知に引っ掛かった化け物を、サクサクと狩りながら駆け抜けていた一行は、遂にメイン目標である化け物達の巣窟と思われる、大部屋の扉の前に辿り着いた。
「西村」
「あぁ、もう使って――!?敵がいない?あれだけの数、一体どこに行ったんだ…」
「なんだと、本当に反応しないのか?」
「あぁ、小型の化け物すらいねぇ…確かにここまで来る道のりの間はこの部屋にいたはずなんだが」
「西村くん…化け物達どこか隣の部屋とか、2階とかに移動したとか?」
「いや菜月、それはありえない…玄関に張り付けられていたフロアマップだと、ここの大部屋はこの扉しか存在しないはずだ…」
「何もいないなら開けても問題ないんじゃない?」
警戒するチームの中で、緊張感の欠片も無さそうな神無月が扉を開ける。
「おい!」
「見て、中は誰もいない…」
「いたらどうするつもりだったんだ!ゲームじゃないんだぞ!」
「えぇ~いいじゃん…それに私コツコツやるゲーム嫌い、サクサクッとプレイできる無双系が好きなの」
「まぁまぁボス、こうして実際いなかったではないですか…」
「だがなあ……」
「それよりボス…地面に何か奇妙な魔法陣?がありますよ」
西村がそう言い指さす先には、青白い光をぼんやりと放った魔法陣があった、その魔法陣は綺麗な円形の線に沿う様に、見たことも無い文字列が並んでいた。
「確かに奇妙だ――」
正尚が言いかけたその刹那、明らかに部屋の雰囲気が変わり、冷たい空気が張り詰め、どこからか強烈な強烈な殺意を向けられており、全員がその異様な威圧感に動けずにいた。
「どうなっている?」
「分からない、でも動いたら…死ぬそして動かなければ死ぬ」
「西村、確認できるか?」
「あぁ、確認した…そして最悪なことが分かった、ここはさっきまでいた部屋じゃない…そしてあの魔法陣はこの異空間に引きずり込む罠、転移陣だったというわけだ!くそ、何で気付かなかったっ」
「つまりどうしたらいいの?」
「説明するまでも無いだろ…こういう罠は、俺らが死ぬか相手が死ぬかが条件で出られると相場が決まっている…つまりこれから来る脅威に備えろってことだ」
西村がそう言い放った数秒後、5人の周りに無数の転移陣が出現し、そこから一匹また一匹とゴブリンが這いずり出てきた。
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