勇者召喚って誘拐じゃないですか? 14

 開かれた法廷で、被告席に座る黒衣の男。

 そして、同じ建物の中にいた人たちは全て傍聴席に移動してもらっています。


 我が身はいつもの通り、法廷の能力を語りますが、誰一人聞いていないようです。

 うるさく騒ぐ傍聴室、ふんぞり椅子へもたれる黒衣の男。


「以上が、法廷のルールです。うるさくされる方は粛清カードを作って黙らせます。嘘をついた際には、罪を背負うことになることでしょう」


 これまで通りの説明を終えた我が身は、被告人側に座っている黒衣の男を証言台へと召喚しました。


「けっ、騙し討ちしやがって」

「それに関しては確証がありませんでしたので、質問に答えていただいた結果です」

「ふん、それで? 何が知りたい?」

「お答えいただけるのですか? それはありがたい。あなた方に依頼した人物は誰ですか」

「知らん」


 我が右耳は相手の嘘を見抜くことができます。

 沈黙は可能ですが、そんなことをしても誰の得にもなりません。

 彼もそれをわかっているのでしょう。


「うむ。それではどんな仕事を請け負って、どんな仕事をやったのですか?」

「請け負った仕事は殺しだ。やった仕事とは、襲撃だけだ」


 端的な答えではありますが、嘘をつかれてはいません。

 なかなかに手強い相手です。


 嘘をつくことなく、沈黙でもない。


「殺す相手は誰ですか?」

「王子だな。二人の王子を襲うように言われた」

「襲撃した場所は?」

「襲撃したのは、法務省。第一王子の野営地。第三王子の視察団体だ」


 それもこちらで仕入れた情報と整合性が合います。


 彼らが実行犯であることは間違いありません。

 ですが、彼らも依頼人のことはわからない。


 困りましたね。


 ここまであっさりと自供されては、法廷を開いた意味がありません。

 もしも、犯人を隠し立てしているのであれば、ここに呼び出して聞くという方法も取れましたが、これでは問いかける意味すらない。


「それでは第一王子殺害の罪を全て認めるのですね?」

「いいや、認めないね」

「ほう、それはどうしてですか?」

「俺はやってないからな」

「やってない?」


 黒衣の男は一切を嘘をついていません。


「ああ、俺は依頼を受けただけでやっていない。だから、俺は犯人じゃねぇ」

「ですが、あなたは仕事の依頼を受けて、殺しと襲撃を行ったと言いました。ですが、それをやっていないというのはおかしくはありませんか?」

「なら、俺が嘘をついているのか?」


 彼の言葉に嘘はありません。


「いいえ、嘘はありませんね」

「だろ? 確かに、俺は殺しの依頼と襲撃の依頼を受けた。依頼内容も知っている。だが、俺は誰にも命令をしていないし、俺自身も実行はしてない。知っているだけでも罪に囚われるのか?」

「犯人を知っているのであれば隠蔽罪になります」

「なるほどな」

「それで? 犯人を知っているのですか?」

「知らない」


 これまた嘘ではありません。

 ここに来て、なかなかに手強い相手です。


「なぜ知らないのですか?」

「さっきも言ったが、俺たちは仲間ではない。命令もしていない。誰がそれを行ったのかは知らない。出来ると思った奴が実行したわけだ」

「それでは報酬はどうやって受け取るのですか?」

「出来ると思った奴が、報酬に応じて受け取っている」

「それを渡している人は誰ですか?」

「知らない」


 大事なところは全て知らない。


 そして、それに嘘はない。


 彼らの組織態勢に我が身の方が、知識が及んでいなかったようですね。


「つまり、あなた方は依頼人も知らず、実行犯も知らず、誰がどれだけの金額を持っていくのかもしれないと?」

「その通りだ」


 悪党という連中は、こういうことに関しては本当に頭が回る人たちですね。

 まるで我が身のような人間に尋問されることを想定しているのではないかと思てきます。


 実際は、情報の共有をしないことで誰かが捕まったとしても芋蔓式イモヅルシキに捕まらないようにしているのでしょうね。


「わかりました。我が身ではあなた方の尋問を突破することは難しいようです。こちら側から検察を召喚します」

「はっ! 誰がきても俺が知らないことは事実だぞ」

「ええ、わかっています。ですから、わかりそうな人物を呼ぶのですよ」


 我が身は自分の無力感を味わいながらもその人物を召喚しました。


「ふむ。見知った顔がズラリと並んでおるな」


 原告召喚した人物に、我が身は立ち上がって一礼します。


「今回は、ご足労いただきありがとうございます」


 本来であれば寝ている時間であることはわかっています。

 ですが、この空間では体力の消耗を感じないようになっているため、眠気も何もありません。


「あっあなたは!」

「うむ。ユーク・ダ・フェイ公爵である」


 公爵様が名乗りをあげると、その場にいた者たちが立ち上がって一礼する。

 それは、我が身に対する態度とは明らかに違うことに、驚いてしまいますね。


「良い、席につかれよ」

「夜分遅くに申し訳ありません。ですが、彼らの組織態勢に我が身は敗北致しました。そのため救援を求めるに至りました」

「ふふ、そうか、敗北したか。皆の者よくやった」


 我が身の敗北が嬉しかったのか、楽しそうに笑われておられます。


 我が身は改めて、法廷のルールを説明して、公爵様に証言をお願いしました。

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