勇者召喚って誘拐じゃないですか? 12
公爵様にあったことは我が身にとっては十分な成果が得られたと思います。
あの方は確かに王都のフィクサーとして暗躍をしておられるのかもしれません。
ですが、ご自身の矜持を持って行動されていると判断できました。
そして、あの方の元には、我が身では手に入れることができない情報を持っておられます。それを欲しいとは思いますが、あの方はそれ相応の対価を用意しなければ差し出してはくれないでしょう。
その対価を我が身で差し出せるとは思いません。
「ふぅ、まだまだ世の中の広さを知りますね。宰相閣下も凄い人だと思いましたが、公爵様もどうしてどうして。これは王様も、私が思っているよりも曲者なのかもしれませんね」
候補に入れておりませんでしたが、もしかしたら王様がと考えてしまいます。
「まぁ、今回は違うと思いますがそれも含めてあれを使う必要がありそうです。我が身の予想ではそろそろケビンさんから連絡をくれることでしょう」
法務省に戻った私を出迎えたのは、マリアンヌとサラサ王女、そしてケビンさんでした。
「リベラ様! お客様がお見えです」
「どうも、お待たせしましたね」
「いいや、少し前だ」
「それでは執務室へ」
「ああ」
「マリアンヌ。今日はもう帰っても大丈夫です」
「そうですか?」
「うん。ありがとう」
彼女にも事情は話しているので、サラサ王女に視線を向けることで事情を察してくれたようだ。
「分かりました。どうかお気をつけて」
「君もね」
「はい」
マリアンヌとサラサを見送って、ケビンが待つ執務室に入った。
「単刀直入に伝えさせてもらう。我が警備隊にスパイがいた」
「ほう、見つけることができましたか」
「ああ、その日の担当を調べれば、わかることだった。そして、そいつは自害したよ」
「自害ですか」
「ああ、こちらの動きに気付いたようだ」
法律が取り扱われるようになっても、誰かに従うように自害する者がまだいたのですね。
「遺体やお家からは何か出ましたか?」
「それが遺体には我々が装備しているものと同じ物だけです。そして、家宅捜索を行いましたが、家はもぬけの空でした。ベッドすらも置かれていなかった」
どうやら彼は捨て駒だったのでしょうね。
本人はほとぼりが冷めれば姿を消していたことでしょう。
「仕掛けを施したことについては?」
「ああ、俺の信用できる物たちを配置して、見張らせている」
「ありがとうございます」
今回、私がシビリアンに用意してもらったのは、警報装置のような物です。
「だが、意味があるのだろうか?」
「さぁそれはどうでしょうか?」
ケビンのことなどどうでも良いのです。
僅かな可能性があるなら、張り巡らせておくのが我が身にとってはできることです。
「なんだ。あんたでも自信がないのか?」
「我が身は法律家です。法律を犯す者に対して正しい判決を下すのが責務であって、犯人を追い詰めたり、悪を裁くような立場にはありません」
「それは何が違うんだ?」
「ケビンは何もわかっていませんね。法の元では善も悪も平等なのです」
「それは違うだろ! 悪は悪だ」
「いいえ、違いません」
我が身が断言すると、ケビンは釈然としない顔をします。
「良いですか? あなたが法律を犯しました。それならば悪ですよね?」
「ああ、法律を破って捕まったということだろう?」
「はい。ですが、病気のお母さんがいて、どうしてもご飯を食べさせてあげたかった。だから、その時に盗んで、法律を犯してしまった。だが、後で代金は必ず払うつもりだったとしまう。これは悪ですか?」
「うっ! 同情はできるが、俺たち警備隊からすれば悪だ」
我が身が言いたいことはすでに伝わっていると思います。
ですが、ケビンはそれでも仕事を優先しました。
それは彼が警備隊だから正しいのです。
「ケビン、あなたは正しい。ですが、我が身は情状酌量の余地ありと判断します。彼は盗まなければ命の危機があった。だからこそ盗みを働かなければいけなかった。それは情状酌量の余地有りとして、猶予付きで返せるなら罪を問わないとできます」
説明が難しかったのか、少しだけ噛み砕いて話をする。
「つまりは、許すことはできないが、盗んだ事実を帳消しにする時間を与えるということです」
「ああ、そういうことか。それなら俺たちも納得ができる」
「ですから法は、常に公平でなければならないのです。誰かを裁くためだけにあってはいけないのです」
「ハァー、難しいことはわかった。そして確証がなくてもやらなければ、情状酌量だったか? それを与えることもできないってことだな」
「はい。その通りです」
ケビンは飲み込みが早くて助かります。
彼らが実行部隊として、今後も動いてくれるなら我が身としては助かります。
なんでも一人でできるわけではないですからね。
「とにかく王子三人と、サラサ王女様。それに宰相閣下の元に人は派遣している。それで良いんだな」
「はい。当て数をおかけします。もしも何かあれば、我が身が渡したアイテムが知らせてくれるでしょう」
さて、罠にかかるのはどのような人物でしょうか?
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