勇者召喚って誘拐じゃないですか? 10

 お二人を連れて執務室に戻り、紅茶を提供して、体験した内容を話しました。


「つまり、マリアンヌたちを見送った後に襲撃を受けたと?」

「ええ、マリアンヌと従者には護衛がついているので大丈夫でしょう」


 心配そうな顔をされたミレディーナ様を安心させるように大丈夫であることを告げておきます。


「それに襲撃を受けたのがここと、伯爵の執務室だけということは、犯人は我が身と伯爵が何かしらの事件に関与していていると判断したようです。そのための脅しなのか、それとも本当に殺そうとしたのかわかりませんが襲撃を行ったということです」


 アーサー君とパメラさんに執務室内で守ってもらったことを話をして、事情聴取を終えました。


「ちなみにどのような事件を取り扱っていたのかお聞きしても?」


 真面目な態度を取るケビン警備隊長に苦笑いを浮かべてしまいます。


「申し訳ありません。国家機密ですので、安易にお話しすることはできません」

「それはそうですね。わかりました。納得できないこともありますが、法務省は、様々な場所で恨みを買っていることでしょう」


 ケビン警備隊長が立ち上がります。


「随分と嫌味な言い方をなされるのですね」

「学がない者で、申し訳ない。我々は我々の仕事をさせていただく」


 どこか拗ねたような態度を取られるケビン警備隊長、街の治安を守る立場にある彼とは仲良くしておきたいのですがね。


「ケビン警備隊長。あなたは秘密を厳守できますか?」

「何を言っているのですか?」

「我が身から見て、王都の警備を守る直接的な働きをするあなた方とは友好的な関係を結んでおきたいと思っていたのです」


 立ち上がった彼を呼び止め問いかけます。


「ですが、我が身は他所から来たので、そのような伝手はありません。同じテルミ出身者に力を借りて、なんとか情報を集めていますが、あなたが協力してくれるならば、ありがたいです」


 王都を知る者を味方につけて損はないです。

 

 ですが、信用をするわけにはいきません。

 もしも彼にその気があるのでしたら、簡易契約を結ぶ必要があるでしょうね。


 我が身にとっては悲しいサガです。

 

 契約を結んでおかなければ相手を心から信用したとは言えないのですから。


「……何をさせたいんだ?」

「法務省が襲撃をされたということは相手は公の場であっても襲撃を行える人物たちです。そして。あなた方が訪れても捕まらないと思っているようです」


 そう、今回の犯人は複数人いるはずなのに、警備隊に一人も捕まっていないのはおかしいのです。


「それはつまり?」

「あなた方の中に、犯人の仲間がいます。もしくは、それに近い存在が協力者として、存在していることでしょう。ですから、あなたにはその犯人を捕まえていただきと思います」


 勇者召喚という、過去の遺物を掘り起こして何がしたいのかわかりませんが、かなり根強く王国内に網を張っていることが窺い知れます。


 これは一度、公爵様にお話を聞きにいかなければいけないでしょうね。


 わかりやすく犯人というイメージでしたが、ここまで根付く人脈を作れる人物は公爵しかいません。


「そういうことならば協力しよう。我々の中にスパイがいるなら他人事ではない。もしもいなくても近しい存在に潜んでいるなら、調査するのは我々の仕事でもある」


 どうやらケビン警備隊長は真面目な人間だと判断したのは間違いではないようですね。


「それでは」

「ちょっと、私からもいいかしら?」

「ミレディーナ様?」

「私もこうして関わってしまったのだから、何かしらお手伝いをしたいのだけど?」

「聖女ミレディーナ様が動かれては目立つので……どうしましょうか?」


 我が身がケビン警備隊長に話を振ると、彼は自分は知らないと顔を背けた。


「ふむ。それでは二つほどお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、任せてほしいわ」

「一つ。現在の我々は狙われる立場で危険です。マリアンヌと、その従者をしているサラサという女性の護衛をお願いしたいと思います。女性であるミレディーナ様であれば、共にいても問題はないと思いますので」


 マリアンヌがミレディーナ様は信用できると言っていたので相性は悪くないでしょう。


「そうね。それは魅力的なお話だわ。二つ目は?」

「彼女たちの護衛をしながら、怪しい動きをする人物をお知らせしておきますので、その者たちに関与する者たちが接触を図ってこないか監視をお願いしたいと思います」


 護衛と監視。


 聖女ミレディーナに頼むような依頼ではない。

 だが、国選パーティーの冒険者として、実力は申し分ない彼女が協力してくれるというなら、その力を借りずにはいられない。


「いいでしょう。その依頼引き受けます」

「冒険者ギルドを通さない依頼です。極秘任務としてお願いします。ケビン警備隊長もいいですね?」

「ああ、わかった」

「ならば、これは三人だけの契約として、こちらにサインをお願いします」


 秘密の口外を防ぐための簡易契約書です。


 これも簡易裁判と同じく効力を発揮する我が身の能力で生み出した物になります。


「書けたわ」

「俺もだ」

「ありがとうございます。それでは今後はお二人に契約を結んで、協力を要請します。どうぞよろしくお願いします」


 我が身は口外できなくなった二人に、勇者召喚のことを告げることにした。


 誰が勇者を召喚したのか、その犯人は? 黒幕は、そろそろ尻尾を掴ませていただきましょうか?

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