勇者召喚って誘拐じゃないですか? 9

 さて、黒幕になりそうな人物たちの情報を手に入れたまでは良かったのですが、勇者召喚を行った理由が全くわかりませんね。


「リベラ様。私たちはそろそろ」

「ええ、ありがとうございました」

「また明日ですわ」

「お気をつけて」


 二人を馬車に乗るまで見送って、我が身は一人で執務室に戻りました。

 執務室では、アーサー君とパメラさんがくつろいでおられます。


 仕事をするために椅子に座るとアーサー君が眼を開けました。


「ホー!」


 アーサー君が一鳴きして魔法を発動しました。


 次の瞬間に窓の向こうで破裂音がして、部屋全体に熱が伝わってきます。

 どうやら炎系の魔法で襲撃を受けたようですね。


「ふむ!」

「ホー」

「ニャオ」


 パメラさんは警戒するように、扉の向こうに対して鳴き声を上げました。

 執務室とマリアンヌたちが仕事を行う場所に誰かいます。


 馬車に乗るのを確認はしましたが、マリアンヌたちは大丈夫でしょうか? サラサ王女のために王様から護衛がついているはずです。


 我が身が心配するよりも安全だと思いますが、それでも気がかりですね。

 彼女たちに危害を加えているのか? それとも我が身を標的にしているのか?


「ホー」

「ニャオ」


 二人が気配が消えたと教えてくれます。

 

 法治国家の頃から、我が身の能力を危険視する者たちから、命を狙われることは多々ありました。ですが、ここまで露骨に法務省を襲撃するとは恐れ入りますね。


 定時を過ぎているので、残された職員が少なかったのが幸いでしょうか? 被害がどれほど出たのか調べなければいけません。


「ふぅ、全く今回の相手は、非常に厄介な相手だと言えます。こちらがテンプレの矛盾を突こうとすれば、そこからズラすように行動をしてくる。まるでこちらの意図を読んでいるかのように感じますね」


 しかも我が身を襲撃するメリットがわかりません。


 我が身を制圧したところで、王女や宰相閣下を倒せなければ意味がないでしょうに。


「失礼!」

「聖女ミレディーナ様ではありませんか。どうされたのです?」

「どうされたって法務省が襲撃されたと連絡がきて、冒険者ギルドからも人が派遣されたのよ」

「そうだったのですか?」


 どうやら思考を巡らせている間に、時が流れてしまったようですね。


「大丈夫なのかしら?」

「はい。我が身には心強い護衛がついておりますので」

「ホー」

「ニャオ」

「あら、そうだったの。それで? 襲撃を受けたのはこの部屋と伯爵の執務室だったようだけど」

「ほう、ここだけではありませんでしたか?」

「ええそうよ」


 聖女ミレディーナ様の言葉に、我が身は相手の意図が掴みかねていた。

 伯爵様の執務室には多分誰もおられません。


 ですが、襲撃してでも何かを燃やして隠蔽したかった物があるということでしょうか?


「伯爵の執務室はどうなったのですか?」

「襲撃を受けて部屋全体が全焼したようね」

「なるほど。ミレディーナ様は我が身を案じて来てくださったのですね。ありがとうございます」

「そうね。感謝してほしいわ。一度食事でも連れて行ってもらいましょうか?」

「そんなことでよろしいのですか? 美しい女性と食事ができるなんて我が身に余る光栄ですね」

「うっ、この男は」

「どうかされましたか?」

「いいえ! それで? 犯人の目星はついているのかしら?」


 聖女様の質問に、我が身は首を横に振りました。


 どうやら今回の事件は勇者召喚というテンプレ展開から、随分と事件性の深い話になって来ているようですね。


 ですが、犯人と思しき人物たちの話をしていたばかりの夜に襲撃を受けるとは、どこかで誰かが聞いていたということです。


 執務室で話をしなかったことが失敗でしたね。


 たが、我が身の考え方が間違っていなかったことが証明されたように思います。


「ちょっと、聞いているのかしら?」

「あっ、申し訳ありません。考え事をしておりました」

「全く。私のような美しい女性を前にして、私以外のことを考えるなど頭がおかしいのではなくて?」

「ふふ、そうですね。聖女ミレディーナ様、此度は駆けつけてくださってありがとうございます。このような時間で起きた事件です。王都の警備隊もすぐに駆けつけていることでしょう」

「ええ、来ているわ」


 我が身は聖女様を伴って襲撃を受けた際の状況を警備隊に伝えるために執務室を出ました。


 仕事場には警備隊や冒険者といった者たちが数名何もないか調べているところだったが、我が身は手を打ち鳴らります。


「皆様、申し訳ありませんが、調査を中断してください。ここは国家機密なども取り扱っている場所です。無闇に触られては困ります」


 善意で行っていても、この場に犯人が混じっている恐れもあるのです。


「私は警備隊隊長を務めるケビンだ。今の言い分は聞き捨てならないが?」

「我が身はシャーク・リベラ子爵です。貴族の権限を使って黙らせても良いですが、善意で来てくださっている方々にこれ以上言いたくはありません。お察しいただけますよね?」


 警備隊隊長のケビンは、精悍顔付きとした男性でこちらを睨みつけていたが、深々とため息を吐いて我が身から視線を逸らします。


「撤収する。事情聴取は私が行うため。皆は他の場所を頼む」

「ありがとうございます」


 我が身が礼を伝えると、ケビンはこちらを睨むようにこられました。


「事情はしっかりと聞かせてもらう」

「もちろんです」


 それからケビン、ミレディーナに向けて、我が身が体験した内容を話しました。

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