悪役令嬢断罪事件 3

「いい加減にしろ! さっさと質問を済ませよ」


 どうやら我が身の行動が気に入らなかったようです。

 シル男爵令嬢を見つめてしまったので、第二王子様に怒鳴られてしまいました。


「では、質問をしていきましょう。そうですね。一つ目の質問は、マリアンヌ様は、イジメを行うような人物なのですか?」


 我が身が発した言葉によって、マリアンヌ侯爵令嬢は驚いた様子を見せました。


 会場に集まる者たちからもヒソヒソと声が聞こえてきます。 


「おいおい、そんなことも知らないのに出てきたのか?」

「そんな質問ある? 人間性を疑う質問だぞ」


 知っているのが当たり前という雰囲気ふんんいきではありますが、我が身はマリアンヌ侯爵令嬢のことを全く知りません。

 

 至極シゴク真っ当な質問をしたつもりですが、集まっていた人たちが、上位貴族の令嬢を悪くいうことなどできなくて、息を呑んでしまうような質問だったようです。


「当たり前であろう! 実際にイジメを受けたシルが言っているのだ!」


 この場で肯定ができるのは第二王子様だけですね。

 マリアンヌ侯爵令嬢の肩がビクッと反応しています。


「そうですか。ですが、マリアンヌ様はイジメをしていないと言っております」

「それは嘘だ!」

「ほう、では、矛盾しておりますな。どうしてシル様の言葉は真実で、マリアンヌ様の言葉は嘘なのですか?」

「そんなもの決まっているではないか! シルが嘘をつくはずがない」

「ハァー、話になりませんな」


 我が身は呆れすぎて、杖に顎を乗せて深々と溜め息を吐いてしまいます。

 第二王子様の前で取る態度ではありません。

 そんなことはわかっておりますが、あまりにもアホすぎます。

 

 マリアンヌ侯爵令嬢を見れば、心の癒しを感じてしまいますね。


 マリアンヌ侯爵令嬢の事を話しているのに、背筋をピンと伸ばして美しい姿勢を保たれておられます。

 

「なっ! なんだその態度は」


 癇癪カンシャク持ちの第二王子様とは大違いです。


「我が身はこの場で第三者なのです。そんな我が身でも理解出来る言葉を使って頂かなければ、納得できるわけがありません。あなたが彼女を信頼していることは十分に理解できました。ですが、彼女が真実を言っていることにはなりません」


 何度目になるのかわからない深々とした溜め息を吐きます。


「ぐっ! 屁理屈ヘリクツを! なっ、ならば切り裂かれたドレスをどう証明する!」

「ふむ、それをマリアンヌ様がやったという証拠はありますか?」

「はぁ? お前はバカなのか? シルがマリアンヌがやったと言っていたではないか!」


 ここまで話をして、まだその論争ロンソウをするのか? 我が身は頭を押さえてしまいます。


「バカは貴方様ですよ」

「なっ!」

「シル様の言葉しか聞いていない時点で、彼女が嘘をついているという証明ができていません」

「酷い! 私が嘘つきだというのですか?!」

「いいえ、シル様。我が身はあなたが嘘つきだとも言っていません。真実を問いかけているだけなのです」


 我が身は、怒鳴ってこの場を支配している二人に呆れて、より丁寧な口調で語りかけます。幼子を相手にしている気分になっているからです。


「貴様!!! シルを悲しませたな!!! マリアンヌがやっていないという証拠もないではないか?!」

「ですから、どっちの証明にもならないと言っているのです」


 本当にこの方が王族で、第二王子様なのでしょうか? 王になる可能性があると思うだけで頭が痛いです。


「第二王子様」

「なんだ!」

「シル様は、我が身の言葉を理解されておられるようですよ」


 シル男爵令嬢は、賢く状況を理解しておられるようです。

 同じく、ここまで黙って聞いてくれているマリアンヌ侯爵令嬢も賢いです。

 

 どうしてこんなバカな第二王子様を賢い女性が取り合うのか、相変わらず男女に起こり得る痴情チジョウのもつれとは難しい問題ですね。


 我が身には、皆目健闘カイモクケントウもつきません。


「シル? 大丈夫か?」

「くっ、クリス様。子爵様とのお話はもう良いのではありませんか? クリス様が、子爵様に説明する必要はないと思います。マリアンヌ様を断罪してしまえばいいんじゃないですか!」


 おお! 我が身を無視すると? 法の番人だと紹介してくださったのに、第二王子様の頼りなさに焦りが見えてきたようですね。


「うっ、それは……」


 リブラ子爵という名前を第二王子様は理解してくれているようです。


 現在の王国において、我が身が発する判断の重みを知らなければ、さすがに第二王子様でも、今すぐ廃嫡ハイチャクさせるほどの追い込みをかけるところでした。


 まだ最後の理性を持たれているということでしょう。


「第二王子様、どうでしょうか? 我が身がこの場にいるのも何かのエンです。真実を解き明かしてはみませんか? シル様を信じておられるのであれば問題ありますまい?」

「それは! そうだが」

「何を困っておられるのですか? クリス様。私は何もいつわることはございません! 言ってやればいいのです! 真実を」

「……シルよ。本当に君を信じて良いのだな」

「何を言っているのですか? 先程まで私を信じると叫んでいたではありませんか」


 どうやら第二王子様は、我が身から発せられた言葉の意味を正しくご理解されているようだ。


「クリス王子。私は嘘をついておりません。真実を解き明かすならば望むところです!」


 我が身の隣に座っておられたマリアンヌ侯爵令嬢が立ち上がって強い意志を示す。


「二人の令嬢は覚悟を示されました。あとは第二王子様次第です」

「くっ! わかった。真実を解き明かそう。リブラよ。貴殿の力を貸してくれ」

御意ギョイ! それでは我が身に宿りし力によって真実を解き明かすとしましょう」


 我が身は椅子から腰を上げて両手を広げる。


「原告クリス・ノープラン・カイオス第二王子様及び、シル・ダレガノ男爵令嬢。被告マリアンヌ・ローレライ・マルチネス侯爵令嬢」


 この場で問題を提示している者同士の名を呼び上げる。


「貴殿らは今より一切の嘘を吐くことを許されない。嘘をつけば、我が右耳に宿した真実の耳が嘘を見抜きます。それでは始めましょう! 裁判サイバンを!」


 我が身から能力が発動して、空間を支配する!

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