第99話 過ぎたるは猶及ばざるが如し

 ――聖剣――。


 世界に選ばれし『真の勇者』が持つ剣。


 曰く、数千年前に人類を滅ぼさんとした魔王を倒した勇者の手には聖剣。


 曰く、数百年前に世界を混沌に陥れた邪龍を倒した勇者の手には聖剣。


 曰く、数十年前に死者を冒涜し続ける死霊の王を倒した勇者の手に聖剣。


 この世界には『〇〇国の勇者』とか『□□教会の聖女』とか、国や組織が認定する『勇者』『聖女』が居る。

 彼等彼女等はそれぞれの認定を受けた国や組織の支援を受け、強力な魔物の退治等の正義の活動を行っている。その活動を取りまとめている、勇者聖女協会と言う組織もある。悪魔の私は絶対に近づきたくない組織だ。


 しかしその認定勇者及び認定聖女には別の言い方――『真の勇者候補』及び『真の聖女候補』とも言われる。

 組織が”認定”している勇者聖女なのであって、彼ら彼女らは勇者聖女の”称号”を獲得している訳では無いらしい。

 勇者聖女の”称号”を持つ者は『真の勇者』『真の聖女』と呼ばれるそうだ。

 真の勇者は聖剣に認められ扱える者らしい。

 聖剣の性能は魔剣を遥かに上回り、魔物や邪悪な存在に特攻効果を持つという。

 聖剣は持ち主である真の勇者が亡くなると、その輝きを失ってしまうと言う。

 

 ……。


 そして聖剣を見つけてしまった場合はどうすれば良いのかは……そこまでは知らん。

 だけど、権力者達に知られたら、大事になるのは間違いないだろう。

 魔剣よりも遥かに貴重……というか存在自体が伝説級だ。

 普通に考えたら勇者聖女協会に知らせるべきなんだろうけど、私は悪魔だ。そんな組織に近寄りたくない。


 いや、落ち着け!

 まだこの剣が聖剣と決まった訳ではない!

 見た目がもの凄く『我、聖剣也』と主張しているけど、確定では無いのだ!


 この剣……悪魔の私が触って大丈夫だろうか?


 ま、まあ、大丈夫かな?

 別に悪魔はアンデッドって訳じゃない。

 先程の聖なるアイテムズを触っても何も無かった……いや、システムメッセージは有ったけどダメージ的なのは無かったし、リーアムで聖水で清められた剣に触れても何も無かったしね。


 恐る恐る、宝箱の中の剣を手に取る。


 ――っ!


 剣に触れた瞬間、私の中の何かが急激に剣に吸い込まれる感覚!


 ――何だ!?

 これは……私の魔力が吸われてる!?

 吸われる量は大した事は無いけど……いや、段々吸われる量が増えていってる?

 それに……。


「なんか輝きが増していってない!?」


 私の魔力が剣に流し込まれるにつれて、剣の神々しい輝きが増していく。

 ナニコレヤバいの?

 手を離した方が良いかな?

 魔力的にはまだ問題無いけど……。

 でも、どんどん吸われる魔力が増え続けてる……剣もどんどん輝きを増していく。

 これは……どうすれば?

 悪魔である私に剣が攻撃してる……様には感じない。私の魔力を吸って成長してる……のかな?


 増え続ける魔力吸収量が、私の活性の魔力回復量を上回ってきた様で、体内の魔力量が減ってきているのを感じる。

 これは初めての感覚だ。流石にヤバいか?

 迷っている間にも魔力が吸われ続け、やっぱりそろそろ手を放そうかなと思った時。


「お?」


 魔力の吸収が止まり、眩しい位だった剣の輝きが収まる。

 眩い光は収まったが、代わりに剣の神々しい輝きの密度が凄く増したように感じる。

 そして頭に響くシステムメッセージ、世界の声。


【聖剣が活性化しました。固有名『聖剣ルーノ』が誕生しました。あなたはこの聖剣の使用条件を満たしておりません】


 …………。


「…………」


 ……さて……どこから突っ込もうか?


 まず、誠に遺憾ながら……? この剣は聖剣という事が確定してしまった。

 ワンチャン、聖剣ぽい光属性の魔剣だったりするかもしれない、という可能性は消えた。

 まあ、この神々しい見た目で聖剣で無かったら、逆にビックリだわ。


 そしてこの剣の銘? が『聖剣ルーノ』である。

 ルーノってこの世界で、私が勝手に名乗ってるだけの名前なんだけど……。

 そういえばもし私が鑑定された場合、私の名前はルーノなんだろうか?

 適当に名乗っただけなんだけどな……。

 転生して最初に名乗った名前だから、世界のシステム的に私の個体名がルーノで認識されてしまったのだろうか?

 

 そして更に、私に発見され、私の魔力を吸って成長し、私の魔力を吸って活性化し、私の名を持つくせに、私には使用出来ない!


 どういう事!?


 あ~、私は勇者じゃないからか……。

 私が勇者の称号を得て、この聖剣に認められたら使用出来ると言う事か……。


 ……勇者の称号って、どうやったら獲得出来るんだろう? 

 つか、悪魔の私が獲得出来るの?

 そもそも使えないって、どういう意味の使えないんだ? 手に持って振る位なら出来そうだけど。

 まあ、試してみて壊してしまったり「お前に資格は無い!」と言わんばかりに天罰みたいなのが発動したら怖いから試さないけどね。

 悪魔という反社会的種族だから使えない、というのも有りそうだ。


「……死蔵だな」


 異空間倉庫に聖剣を収納する。


 それにしても、悩ましい事になってしまったな。私が聖剣を持っているなんて、誰にも知られる訳にはいかないぞ。

 こっそり国や教会とかに匿名で献上しようにも、聖剣の固有名が『聖剣ルーノ』である。私の名前が入っているのがヤバい。


 あの杖も『不活性中』なんて世界の声が聞こえるあたりがヤバい。

 聖剣と同じパターンで、聖杖レイチェルもおそらく真の聖女用の杖なのだろう。レイチェルって人が発見して活性化させたのかな?

 なんでローブ骸骨の使ってた魔法陣の触媒? に使われていたのか分からないけど。


 勇者の聖剣と聖女の聖杖を手に入れてしまった。

 ワールドクラスのレア物過ぎて困るわ!

 

「せめて使える物かお金になる物が良かったよ……」


 こうしてダンジョンクリアした私は、ボス部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る