第41話 ルタの村を出発
ルタの村を出発して一時間ほどだろうか。
村が近いうちは道の周りも整備されていたが、村から離れるにつれて次第に道のすぐそばに鬱蒼とした下草が多くなってくる。
「こういう草の陰に、ゴブリンなんかが潜んでたりするから気を付けてね」
「は、はい」
ゴブリン如きもう怖くない……はずなのだが、左右の鬱蒼とした森から何が飛び出してくるか分からない不気味な雰囲気を感じる。
「警戒は重要だけど、今からそんなに肩に力入れてたら街まで持たないわよ」
「す、すみません。不慣れなもので」
棍棒を構えてキョロキョロオドオドしてる私に、クラウさんから指摘。
男性陣も苦笑気味だ。
むう……恥ずかしい。
『誠実の盾』の男性四人が二組に分かれて前後を歩いている。真ん中に私とクラウさんだ。
『誠実の盾』の面々は武器は抜いていないが、漠然と歩いている訳でもないのだろう。何時でも武器を抜ける様、鞘に手を掛けている。
こうしてみると棍棒より剣の方が良いのかな? 鞘からシュっと抜けばいいんだし。
前世でも小柄だったけど女になって更に小柄になった私にとって、長くて大きい棍棒は持ち運ぶ時には嵩張るんだよね。ダンジョンだとすぐ戦闘になるから気にならなかったけど、旅を続けるなら移動時の事とか、そういうのも考えないとね。
という訳で、クラウさんに相談してみる。
「あら? ルーノちゃんって魔法使いだと思ってたけど違うの? 答えたくなければ答えなくて良いけど」
「いえいえ、私は生活魔法以外の魔法を使えないですよ。魔法使いとしての戦力を期待してたのなら……申し訳ないです」
この世界は適性がなければ、生活魔法以外の魔法が使えないからね。
腐適性を持ってる事は言えないし、あの腐攻撃は魔法なのかも分からない。
「問題ないわよ。剣はさっきルーノちゃんが言った通りの利点はあるわね。棍棒みたいな鈍器に比べて手入れが大変なのはあるけどね」
クラウさんの話によると『誠実の盾』に限らず、戦闘を志す者は剣を使う人が多いらしい。理由はダンジョンで魔法武器や強化された武器が手に入る事があるのだが、その武器の種類は圧倒的に剣が多いらしい。もちろん魔槍とか魔弓といった物も出るのだが、魔剣と魔剣以外の魔法武器が出現する比率を比べると、剣が半分以上、その他は半分にも満たないとか。
この世界、えらく剣推しなんだな。
明らかに剣以外に才能が有る人以外は、大抵剣を使うようになるとか。
「物語に出て来る勇者や英雄も大抵剣を使ってるから、そういうのに憧れる若者も剣を選ぶしね」
「あ~、なるほどです」
「鍛冶屋も剣ばっか作ってるからね~。他の武器に比べて剣系の武器が種類が豊富で比較的割安で質の良い物が手に入りやすいってのもあるかな。小さい武器屋だと剣しか置いてないこともあるしね」
本当に剣推奨な世界なんだな。
ルタの村は木材加工が主要産業だったから棍棒ばっかだったけど。そもそも武器屋無かったし。
ただ剣はなぁ……私が使いこなせるかなんだよね。
「剣、使ってみたんですけど、刃筋を立てて斬れないんですよね」
「……木剣でも一ヶ月ほど振るってれば、才能が無くても『剣術』スキルレベル1くらいならすぐ取れるわよ。むしろ新人とはいえ、冒険者が剣術スキルを持って無い事の方が珍しいかもね」
「ほ? そうなのですか? でしたら棍棒術とかも一ヶ月程素振りしてれば、スキル取れますかね?」
「……棍棒術と言うのは聞いた事が無いから、それで取れるのは棒術ね。……ルーノちゃんって何処のお嬢様?」
「わ、私はド平民ですよ。身体だけは鍛えていたので戦いは大丈夫ですから」
「……そういうのも珍しいわね」
しまった。失言だったか。
冒険者やってるのに魔法も使えない上、武器スキルを何も持って無く、スキルの習得方も良く分かってないのは不自然過ぎるよね。
後ろを歩く男二人組から「やっぱ世間知らずの家出貴族令嬢じゃねえか?」「魔法が使えなくて追放された貴族令嬢かもしれんな」「魔法は使える事を隠してるだけかもしれん」とヒソヒソ話してるのが聞こえる。
普通なら二人の間でしか聞こえない程の小声で話してるけど、私にはバッチリ聞こえてるからね。
「おっと?」
意識を音に対して集中していたら、他の音も聞こえてきた。
うーむ、これは……。
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