第十七章「勇者ぁぁぁぁ〜!!魔王ぅぅぅぅ〜!!」
ぼくが魔王となり、リリア姫と共に平和な世界を築き始めてから、数年の月日が流れた。
人族と魔族は互いの文化を尊重し、共に学び、共に働くようになった。魔王城の周りには、人族と魔族が共に暮らす村ができ、子供たちの笑い声が響き渡る。ぼくの夢は現実になったのだ。リリア姫の笑顔が、ぼくの何よりの喜びだった。
しかし、その平和は一本の凶刃によって、唐突に引き裂かれた。
ある朝、魔王城の庭園で、リリア姫が血に濡れて倒れているのが発見されたのだ。その胸には、人族の特殊な暗殺教団だけが使うという、黒い短剣が突き刺さっていた。
ぼくは、冷たくなっていくリリア姫を抱きしめ、天を引き裂くような咆哮を上げた。悲しみと怒りで、城全体が震えた。ぼくはリリア姫の葬儀を魔王城で執り行うことを決めた。彼女を失った悲しみは、ぼくの心を闇に閉ざすには十分すぎた。
追い打ちをかけるように、人族と魔族が共に暮らす村から、絶望的な知らせが届いた。
発端は、人族による魔族の惨殺だった。それに激高した魔族たちが、報復として人族を襲い、村は血で血を洗う地獄絵図と化したという。
「おのれ、人族どもめ……!」
古参のデーモン公爵が、ぼくの前に跪き、震える声で報告する。
「すべては、勇者シオンの差し金にございます。奴は平和を謳いながら、裏では姫
を 暗殺し、我らを根絶やしにするつもりだったのです!」
その言葉は、怒りに燃えるぼくの心に、疑いという名の油を注いだ。シオンが? あのシオンが、そんなことをするはずがない。だが、リリア姫の胸の短剣と、村の惨状が、デーモン公爵の言葉に恐ろしいほどの信憑性を与えていた。
時を同じくして、人族界には全く異なる噂が、炎のように広がっていた。
「リリア姫は、魔王アルに殺された!」「共存の村で、魔族が人族の虐殺を始めた!」
すべては、平和を快く思わない者たちが仕組んだ、卑劣な罠だった。
その偽りの知らせを信じ込んだシオンが、怒りと悲しみに我を忘れ、魔王城に単身で乗り込んできた。彼の顔は憎悪で歪み、その手には光り輝く勇者の剣が握られている。
「魔王アル! よくもリリアを! 貴様だけは、この手でッ!」
「シオン! 貴様こそ、よくも……! 姫を殺したのは、貴様たち人族ではないか!」
デーモン公爵の言葉を信じ込んだぼくと、偽りの噂を信じ切ったシオン。互いの瞳には、燃え盛る怒りと、裏切られたという深い悲しみだけが映っていた。
親友だったはずの二人は、もう言葉を交わすことさえできない。
こうして、ぼくとシオンの間に、死闘が始まった。
聖なる光と、漆黒の魔力が激しくぶつかり合い、玉座の間が揺れる。シオンの剣は、悲しみと怒りを乗せて、かつてないほど鋭く、重い。ぼくはダークドラゴンの姿でその猛攻を受け止めるが、一撃一撃が鱗を砕き、肉を焼く。
「なぜだ、アル! あれほど平和を願っていたお前が!」
「それはこっちのセリフだ、シオン! きみこそ、なぜ姫を殺した!」
互いの叫びは、すれ違うばかり。
戦いの最中、ぼくは何度もシオンの心臓を貫く好機を得た。だが、どうしてもできなかった。どんなに憎く、裏切られたと感じても、彼を殺すことだけは……。この世界でたった一人の、友達を……。
その一瞬の躊躇が、命取りとなった。
ぼくの迷いを見逃すほど、勇者シオンは甘くない。怒りと憎悪に我を忘れた彼は、ありったけの聖なる力を勇者の剣に込め、ぼくの心臓めがけて、その刃を突き立てた。
「うあああああああっ!」
熱く、頭が抑えられないほどの激情に駆られたシオンの一撃は、的確にぼくの心臓を捉えた。
ぼくは、血を吐きながら、シオンの顔を見つめた。その目には、憎しみだけでなく、深い、深い悲しみの色が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます