【Proceedings.23】うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇.02

「まあ、それはそれとして月子をつけまわすのはもう止めにしてくれないか? こうして普通に話かけてくれればいいよ」

 葵が綾に微笑みかけ、提案すると巳之口綾は「ンヘェ」とよくわからない笑みを浮かべた。

 そして、舌をチロリとだし舌なめずりをする。

「それは…… 無理な相談ね」

 まっすぐに、巳之口綾はまっすぐに葵を、まるで挑発するかのように見ながらそう言った。

「なんでだい?」

 葵も少し顔を強張らせてそう聞き返す。

「日課で趣味だから」

 そうすると、綾から答えが返ってくる。

 ならば、仕方がない。

 趣味ならば、日課ならば、葵といえど言い返せる言葉はなにもない。

「そうか、それなら仕方がない」

 と、葵は綾を説得することを諦める。あきらめざる得ない。

 葵とて趣味趣向にまっすぐ生きる人間だ。

 それをやめさすことなど葵にはできない話だ。


「いえ、仕方がないで終わらせないでくださいますか? 綾様、普通のお友達ではダメなんですか?」

 そこで月子がここはやはり自分で解決しなければと声を上げる。

 綾とて、つきまとう対象の、月子本人からそう言われれば、普通の友人としての関係を築いていけるのではと、そう考えたのだ。

 だが、

「ダメです」

 と、一言で断られる。

「あっ、はい…… 仕方ないかもしれませんね」

 何がダメなのか、それは月子にはわからない。

 だが、その四文字の言葉には有無を言わさない情念のようなものが込められていた。

 月子とてここは引き下がるしかない。

 決して、なんか不気味で怖かったから、という理由ではない。


「葵も月子も簡単にあきらめないで! それが無理っていうのならデュエルで無理やりって形になるけども?」

 今度は生徒会執行団の猟犬と名高い巧観がそう言って綾に迫る。

 デュエルで勝ち、勝者の特権の命令を使えば、綾とてその命令に従わなければならない。

 それがこの学園の絶対のルールなのだ。

「フフッ、それも無理な相談ね」

 だが、綾はそれすらも失笑するように言い捨てた。


「デュエルを受ける気がないと?」

 巧観が負けじと食い下がる。

 それに対し綾が返した解答は、

「い、いえ…… わたし、友達いないから、デュエルアソーシエイトになってくれる人が…… いないので……」

 と、言うものだった。

 顔を赤らめ、恥ずかしそうに視線を外して俯き、だんだんと落ち込んでいく綾に、生徒会執行部の猟犬、戌亥巧観と言えどかけられる声はなかった。

「あっ、うん……」

 と、曖昧な返事で巧観はその場を濁した。


「ここは巧観ので番では?」

 そこで葵が提案する。

 巧観が綾のデュエルアソーシエイトになれば良いと葵は言っている。

「ああ、ごめん、ボクは兄様とのデュエルに負けていて兄様以外のデュエルアソーシエイトにはなれないんだ」

 巧観はそう言って両手を合わせて頭を下げた。

「なら仕方がないか」

 この学園ではデュエルでの命令は絶対のルールなのだ。

 ならば、これも仕方のないことだ。


「ひらりは? 酉水ひらりなら、誰のデュエルアソーシエイトにもなってくれるはずだよ」

 そこで、ふと巧観は思い出す。

 酉水ひらりという人物であれば、とある条件をクリアすれば誰のデュエルアソーシエイトにでもなってくれる。

 また彼女の身に有する神刀も条件次第ではとても強い刀となる。

「ああ、あの、制服を随分と着崩した彼女ね…… 巧観のデュエルアソーシエイトも何度かしていたね」

 そう言って葵も思い出す。

 とても短いスカート。まだ春先なのに短い袖。ちらりと見えるヘソ。随分と肌色の多いように改造された制服を着た女だった。

 そのすべてがめんどくさそうな、アンニュイな表情も彼女の纏う少しダウナーで敗退的な雰囲気と合っている。

 彼女もまた魅力的な少女だと、葵は頷く。


「うん、ひらりはお金さえ払えば誰のデュエルアソーシエイトにもなってくれるんだ」

「へー」

 葵は巧観の言葉に少しばかりのトキメキを感じる。

 つまり金で買える女だ。

 意味は違うのだが、葵は少しばかりその言葉の響きに興奮し、密かにテーブルの下で脚を組み替える。


「でも…… ひ、ひらりちゃんは高いので……」

 綾はそう言って俯いた。

「いくらぐらい?」

 と、興味津々に葵は綾に聞く。

 だがその問いに答えたのは巧観だ。

「確かに高いよね。日によって変わるけど、だいたい五千円くらい? 頻繁にはちょっとね。おかげでボクもお小遣いなくなりそうだよ」

 と、巧観はそう言って笑った。

 その言葉を聞いて、絶望の表情を浮かべている者がいる。

 言うまでもない。

 巳之口綾だ。

「え? え…… あの…… わ、わたし、三万円だったんだけど……」

 綾は信じられない、というように体を震わせて、涙目になりながらそう言った。


「あっ、うん…… な、なんかごめん……」

 巧観すらも、生徒会執行団の猟犬である巧観すらも、綾から視線を外し伏目がちにそう言った。

 そう言うしかできなかった。


 その場を何とも言えない悲壮な空気が支配する。


「じゃ、じゃあ、今日は楽しかったわ…… そ、そういうことで……」

 その空気に人一倍耐えれなかった綾は、テーブルの下へと潜り込むように沈んでいった。

 葵が急いでテーブルの下を確認すると、物凄い勢いで這って遠ざかって行く巳之口綾の姿を確認しただけだ。

 連れ戻すこともできるが、この場を支配している何とも言えない微妙な空気がそれをさせなかった。

 このまま巳之口綾と話していても地獄が広がるだけなのも事実なのだ。

 まさに難攻不落な女だ。




 巳之口綾。

 蠍座で十一月十一日生まれ。

 A型。

 孤高のペロリストにして孤独な女。

 彼女の望みは日々、申渡月子を観察し、できるのであれば全身舐めまわしたい、そう切望している。

 それが巳之口綾という難攻不落の女だ。




━【次回議事録予告-Proceedings.24-】━━━━━━━



 難攻不落の女、巳之口綾が去ったと三人は話し合う。

 三人集まればなんとかの知恵。解決方法はあるのか!?



━次回、うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇.03━━━━

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