【Proceedings.18】容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.04

 茜が放送団に協力してもらうと言っていた通り、昼の三時前に校内放送が入り、丑久保修と天辰葵のデュエルが知らされる。

 そのせいか、既に学園中央の池の前には生徒たちが集まってきている。

 この学園では娯楽と言えばデュエルだ。

 今は春休みなので暇を持て余している者も多いのだろう。

 ただここ数日は巧観と葵の試合が連続して行われていたので飽きられてはいるが。

 その為に茜は放送団の力を借り、今日の試合は巧観と葵の試合ではないことを強く知らしめている。


「……」

 牛来亮が無言で、天辰葵を見る。

 その顔は今も自信に満ち溢れてはいるがどこか不満げだ。命令通り葵に関わる気はないようだが。

「牛来だっけ、久しぶりですね」

 ただ天辰葵はそっけない言葉をかける。

 そうすると牛来亮は苦虫を噛み潰したような顔を一瞬だけ見せた。

 だが、すぐに自身に満ち溢れた顔に戻る。

 牛来亮はそんなことは気には止めない。

 彼は自分のことしか興味がないからだ、そして、今は自分のために戦ってくれる友を頼もしそうに見ている。

「見よ、修のこの怒れる姿を……」

 そして、その友に向かい牛来亮は言葉を発する。

 そこには憤怒像のごとく形相をしている丑久保修がいる。

「いや、まあ、確かに修羅になるとか言ってたけど……」

 修の、丑久保修の顔はまさに憤怒像、いや、修羅だった。

 怒りで顔を真っ赤にし、眉間にしわを寄せ、目をぎょろりと剥き出し、歯をこれでもかと食いしばっている。

 そして、無言で天辰葵を凝視し睨みつけている。

「えっと、デュエルの宣言は? それ喋れるの?」

 天辰葵がそう言うと、

「我からしよう。それが礼儀である」

 と、修羅のごとき丑久保修が普通に、極々普通に答えた。

「あ、うん」

 と、天辰葵も不思議な物を見る目で答えた。


「我、丑久保修は天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込む!」

「私、天辰葵は丑久保修との決闘をデュエリストとして受ける!」


 その言葉が交わされた瞬間、地響きが始まる。


 荘厳な雰囲気の漂う重々しくも静寂でいて神々しい、そんな部屋に黒い皮張りの椅子に深々と腰かけている男、戌亥道明は何かを感じ取る。

 だが、また妹か、その気づきを一度は無視する。

 けれども、すぐに絶対少女議事録が、元気よく議事の字を様々な字に変化させていくことに気づく。。

「まさか巧観以外とのデュエルか!? しまった、これは出遅れたな」

 そう言って、席を立ち、絶対少女議事録を手に持ち、速足で部屋を出る。

 生徒会執行団、その生徒会室には全校放送の声も届かない。

 そんな静寂に包まれた部屋なのだ。


 池が二つに割れ、水飛沫が発生し霧のように立ち込め、水底から、今日は元気に円形闘技場がせり上がってくる。

 そして、既に闘技場には円形闘技場少女合唱団が控えており、やはり気持ち元気に素晴らしいコーラスを響かせる。

 だが、やはり円形闘技場少女合唱団は逆光になっており、誰一人としてその素顔を確認することはできない。そこは変わらない。

 それはそう言うものなのだ。

 誰も気にする者など、この学園の生徒にはいない。


「決闘決闘決闘決闘! その時が来たー!」

「決闘決闘決闘決闘! 今こそたちあーがれー!」

「決闘決闘決闘決闘! 雌雄を決するときだー」


 地鳴りさえも円形闘技場少女合唱団の美しいコーラスがかき消すように響き渡る。

 ただ円形闘技場少女合唱団の歌声は本物だ。

 素晴らしい。歌詞はともかく歌声は素晴らしいのだ。

 感動的なハーモニーであり、情熱的な歌声であり、一体感もある。そんな心を打つような歌声が響き渡る。

 そんなコーラスが美しく響き渡る中、浮上し終わった円形闘技場の階段を四人は登る。


 丑久保修と牛来亮はやはり腕を組み、軍隊の行進のように綺麗に足並みをそろえて階段を登っていく。

 天辰葵は申渡月子をエスコートするように美しく華麗に階段を登る。


 そして、二組は円形闘技場のステージで向かい合う。


「さあさあさあ! 久しぶりの戌亥巧観さん以外とのデュエルです! 期待の転校生、電光石火の天辰葵さんと怒れる憤怒像、丑久保修さんのデュエルです!」

 猫屋茜が嬉しそうにマイク片手に実況しだす。

 その解説に驚いて戌亥巧観は思わず客席から実況席の猫屋茜を見るが、そのことに猫屋茜は気づいてはいない。

 猫屋茜も興奮してそれどころではないのだ。

「今回の解説役は、丁子晶さんです! よろしくお願いします!」

 そう言って、猫屋茜は隣に座っている改造された、特に色がピンク色の女子生徒の制服を着ている人物を紹介する。

「はい! ご紹介に預かりました、生徒会執行団所属、学芸部長の丁子晶です! 皆さん! よろしくお願いします!」

 紹介された丁子晶はアイドルのごとく笑顔と愛想を振りまいている。

 猫屋茜もそれに頷き実況を続ける。

「では、今回のデュエルは、丑久保修さんと天辰葵さんの試合ですが、丁子さんはどうみますか?」

 猫屋茜が興奮して、話を丁子晶に振ると、

「はい! 興味ないです! まったくないです!」

 と、言う正直で元気な答えが返って来た。

「えぇ…… なんで解説の仕事受けたんですか?」

「はい! だって、目立つじゃないですか。なら受けたいなって」

 そう言って、丁子晶はその場で品を作って見せる。

 猫屋茜は明らかに人選を間違えた、そんな表情を隠しもせずに見せる。

 とはいえ、猫屋茜も時間がなかったのだ。

 仕方がなかったのだ。

「はぁ…… おっと、刀を呼び出すようですね!」


 丑久保修はまず自分の服を脱いだ。

 学ランの上を脱ぎ捨て、その下のワイシャツを力任せに破り捨てる。

 そして、可憐にして繊細なレースがあしらわれた紫のブラジャー姿を披露する。

 その後で、学ランの下を脱ぐ。

 そこには紫の、もちろん女性もので上下セットの紫色のパンツ、しかもTバックの物を身に着けている丑久保修の姿があった。

 ついでに靴下は脱がない。

 白いハイソックスが筋肉でパンパンになっているが、丑久保修は靴下だけは脱がなかった。

 それはそれとして革靴は脱いだ。


 そして、丑久保修はおもむろにその姿で仁王立ちし、天辰葵をその背丈の差から見下す。

 無言の、誰一人何も言わない時間が少しの間流れた後、丑久保修は隣に居た牛来亮の学ランを、力づくで開く。


 金色のボタンが、桜の花びらと共に美しく宙に舞う。


 牛来亮も丑久保修になすがされるままになる。

 片手で抱きかかえられ、続いてワイシャツも乱暴にはぎ取られる。

 下着姿の男と上半身裸の男が見つめ合い、そして顔を近づける。

 丑久保修はそのまま顔を下に持っていき、牛来亮の胸を舐める様に顔をそわせ、そして、その胸板に見せつける様にキスをする。

 そうすると牛来亮の胸板が光だし、そこから刀の柄が現れる。

 丑久保修はその柄にゆっくりと手を掛ける。

 じらすように、ねっとりとその刀を引き抜く。


「ぐっ、ふああぁぁぁぁぁ」


 牛来亮が情けない声を上げる。

 その声を聴いて丑久保修はニヤリと笑みを浮かべ、そこから一気に刀を引き抜く。

 そして、その刀の名を告げる。


「一振り十の神風となれ! 馬乱十風!」


 牛来亮から引き抜いた刀、馬乱十風を掲げ、丑久保修が不敵な笑みを浮かべる。

 その男の体には確かに愛が満ち溢れた。


 天辰葵は申渡月子の前に、姫に仕える騎士のごとく跪く。

 申渡月子がそっと、右足を前に出す。

 天辰葵はそれを丁寧に手で持ち、申渡月子の靴を丁寧に脱がす。

 そして、紺色のソックスに手をかけ、華麗に美しく、優雅に、それを剥ぎ取る。

 そのまま、天辰葵は素足となった申渡月子の足に、爪先に、深く愛おしくキスをする。

 そうすると申渡月子の爪先から光が生じ、刀の柄が現れる。

 天辰葵はそれを手に取り、ゆっくりと優しく、そして何より優雅に刀を引き抜く。

 

「んっ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 必死に声を我慢する月子から、その固く閉ざされた口から甘い吐息があふれ出る。

 天辰葵はその声を聴きながら、引き抜いた刀を天に掲げその名を告げる。


「月の下では何事も仔細なし! 月下万象!」




━【次回議事録予告-Proceedings.19-】━━━━━━━



 紫の蝶が雄々しく舞い、その鱗粉を怪しく激しくまき散らす。

 そして、運命は再び蠢動し出す。



━次回、容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.05━━━━

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