#今日のさんポカ
本日のコラボ配信で遊ぶのは最近新しく登場したFPSであるのだが、スキルや
エイム操作が苦手な面々でもそれなりに遊べるということで界隈でも注目されていたのだが、選べるキャラクターの中にユニコーンをモチーフとしたキャラクターがいたためにアイオライトが面白がって白鞘ユニを誘ったのがコラボのきっかけだった。
……もっとも、その白鞘ユニが大遅刻をかましたせいで自分が代役となってしまったのだが、と奏多──ニーナは画面の前でひっそりと苦笑する。
サプライズな形で登場した
「まあ、そもそも私たちはFPS自体そんなに遊んだことないんだけれどね」
各々が事前にチュートリアルを終わらせて多少はゲームに触ってきたということだが、四期生三人の腕は初心者同然であるらしい。
「もよこさんにはご迷惑をおかけすることになるとは思いますが……」
申し訳なさそうな雪緒の言葉にもよこは気楽に応じる。
「かまわないわよぉそのぐらい。あたしだって大した腕じゃないし。それに、入社したての新人に短期間で仕事を覚えさせて現場に叩き込む作業に比べたら訳ないわ」
「え、ええ……」
『メイドさんはこのゲームはプレイしたことあるの~?』
もよこの闇深トークにドン引きする雪緒を他所にアイオライトがニーナに水を向けてくる。ニーナはどの程度のことを伝えようかと思案しつつ答えた。
「一応サービス開始当日に多少は触りましたが、やり込むというほどではないですね」
『そうなんだ~。というか、メイドさんもこういうゲームやるんだねえ』
「ええまあ、それなりにですが」
ニーナが曖昧に濁して答えると、シャルロッテが口出しをしてくる。
『そもそも私がゲームやるのはこいつの影響だもの』
『はえ~。それじゃあメイドさんが姫ちんのお師匠様か』
『別に小さい頃に一緒にゲームしてたってだけの話よ。最近は全然一緒にやらなくなったし』
『ほうほう。ふたりはそんなに昔から一緒にいるんだね~』
『ま、まあその通りね……』
ニーナは早速迂闊な発言をするシャルロッテと際どい会話を繰り広げてくれるアイオライトに軽く頭痛を覚えた。
ニーナとしては中の人が男でありながらメイドというキャラクターで表に出てしまっている都合上、突っ込んだ会話はあまり好ましくない。であるので事前の打ち合わせでは一般人であるからと理由を付けてその辺りはあまり掘り起こさないようにお願いしていたのだが……。
視聴者の間ではシャルロッテが一見まともな性格をしていながらけっこうなポンであることはよく語られていたしニーナ自身よく知った話だったが、アイオライトもその適当な性格と言動で知られていたなと今さらながらに思い出す。
『駄目だよふたりとも。そんな身バレにつながりそうな話。メイドさんは配信者じゃないんだから気をつけないと』
そんなふたりの会話を雪緒が
『あ、一緒に遊ぶ相手にメイドさんって呼び方はちょっと他人行儀過ぎですかね。ええっと、ニーナさんだから……ニィさんって呼んでも良いですか?』
「……いえ、出来ればその呼び方はちょっと」
同時に、天然なところがあって思いがけず人の痛いところを的確に突いてくるのが玉に瑕なのだが。
『雪緒ちゃんほら、ニィさんだと兄貴みたいに聞こえるから。この前の配信で言ってたじゃない』
『え……ああ!?すみません!』
「いえ……。私のことはただメイドと呼んでいただければけっこうですので……」
:草
:女性相手に兄さんはなあ
:メイドさんの嫌な記憶を掘り返していくスタイル
:幸夫ちゃんはこれがあるからなあ
:雪緒ちゃん定期
:そういうところやぞ
もよこの言葉を聞いて慌てて謝罪しつつアバターの首をカクカクと縦に振る雪緒。Live2Dの性能の関係でわかりづらいが、恐らく画面の向こうの雪緒はペコペコと頭を下げているのだろうとニーナは予想した。
根っからの適当人間なアイオライト、基本的に常識人でありながら天然でやらかす雪緒、うっかりポンなシャルロッテ。三人あわせてVスタイルのさんポカなんて言う輩もいるぐらいにはうっかりさんな集まりがこの四期生たちである。
今回のもそうなのであるが、各自が企画したコラボがあれば真っ先に声をかけるぐらいには仲の良い同期であるため、今後シャルロッテの助力をするにあたっては嫌でも顔を合わせることになるだろう。
雪緒の謝罪に応じつつもニーナは今の一連の流れに一抹の不安を感じざるを得なかった。
『ま、ま、その辺は置いといて、早いところゲームを始めましょうよぉ。メイドさんの話はゲームしながらでも出来るんだから』
『そ、そうですね!』
『ほいほ~い。それじゃあ早速ランクマッチに……』
『いや、初めて皆でプレイするんだから普通カジュアルから入るべきじゃないの?」
『女は度胸!何でもやってみるもんさ~』
『そもそもプレイヤーレベルを上げないとランクマッチには参加できない仕様とお見受けしますが……』
そんなニーナを他所にもよこに促された一同は早速ゲームを開始する。
サービス開始したばかりなためか、マッチングを開始するとすぐに対戦が組まれた。
そのままキャラクター選択画面に移行するが、ニーナはキャラクターを選択せずに様子を見ることにした。
打ち合わせ時間が短かったこともあり、各員がどの役割を選びどのキャラクターを使いたいかといった擦り合わせはされていない。
あくまでも代打で目立つ必要もないニーナは、皆の選択に合わせてキャラクターを選ぶべきだと判断したのである。
さてどうなるかと見ていると、四期生の三人は迷わずにキャラクターを選択した。
『やっぱり時代は近接格闘だよね〜。うちはこのニンジャ、カゲマルを選ぶぜ〜』
『わたしはこのトーチちゃんにしますね!武器の火炎放射器を当てるのはちょっと苦手なんですが、愛でなんとかします!』
『私はこのシモーヌにしよ。スナイパーライフルのヘッドショットで一撃とか浪漫よね』
『……』
「……」
ニーナは思わず配信画面に映るもよこのアバターに視線を向けた。
もよこはアバターの仕様上当然のこととして
『あ〜……。メイドさん、どうしますぅ?』
「さて、どういたしましょうか……」
遠慮がちに問うてくるもよこに応じつつ、ニーナはしばし頭を巡らせる。
:四期生三人、迫真のアタッカー即ピ
:遠慮なし配慮なしで草
:よりにもよって尖ったキャラばかり選びよる……
:チーム組んでなかったらもう香ばしくなってるやつやw
:これを打ち合わせなく三人同時にできるからすごいんよな
:いや、流石にわかってやってるでしょ……
:四期生なら素でやっているという謎の信頼があるんだよなあ
:これがYUーJYOって、こと!?
:よくこんなやつらをまとめてデビューさせたな
『え?え?わたしたち、何かやっちゃいました?』
『よくわからないけど、うちらのチームワークが完璧ってことだよな~?』
『まあ、配信的には完璧かもしれないけれどねぇ……』
慌てふためく雪緒と呑気にボケるアイオライトに、もよこが苦笑しつつ応じる。
『あ~……もしかして、適当にキャラ選んだら不味いやつですか?』
ニーナは雰囲気を察して申し訳なさそうな声音で問うシャルロッテに解説をしてやる。
「そうですね。これはバランスの問題です、姫様。お三方が選んだキャラクターはどれもアタッカー役ですが、このゲームで推奨される構成はタンク役ひとり、アタッカー役がふたり、サポート役がふたりです。私と松方様でタンク役とサポート役を選んだとしても、少々編成のバランスが悪くなるのです。それにせっかくのヴォイスチャットですから、誰がどういったキャラクターを使うのか事前に相談してからピックする方がよろしいかと」
『そうなの?うわあ不味った……。すみません、もよこ先輩』
『いいのよぉ。カジュアルマッチならそこまで役割を厳密にする必要はないし、キャラクターも試合中に変更できるしね。まあ野良とやる時はそういうのにうるさい人もいるから、気をつけた方が良いと思うわ』
『はあい……』
『わかりました、以降気をつけます』
『まあまあ、こういうのは次から気をつければ良いんだよ~』
「その通りではあるのですが、ご自分からそれをおっしゃられるのはいかがなものかと……」
そんな一悶着を挟みながらもゲームを開始する。
今回はオーソドックスな陣地の取り合いルールだった。これが爆弾の爆破解体ルールだったならば初心三人の覚えることが増えて大変なことになっていたかもしれない。
……まあ、そんな要素が増えようが増えまいが大変なことにはなるのであるが。
『うおおおおおお!滅殺!……あ、届かなかった~』
『こっちも全然近付けないです~!』
『狙撃がまったく当たらない……!ってなんでこんな後ろの方に敵が!?』
ニーナが予想した通りの事態であるが、アタッカー三人がほとんどダメージを出さずに崩壊していた。
試合開始前からこうなることは火を見るよりも明らかであったので、ニーナは穏やかな気持ちで阿鼻叫喚な四期生達を眺めることができた。
タンク役としては彼女たちのフォローに回るべきなのだろうが近接武器のふたりはタイミングも合わせず突貫していくし、後方でシャルロッテの傍に侍っていても意味がない。
おそらくサポート役のもよこも同じような心持ちなのだろう。画面上のアバターは後輩の惨事を前に微笑みを浮かべている。
無論、ニーナももよこも試合を捨てているわけではなく、アイオライトと雪緒が敵に突貫するタイミングに合わせて少しでも戦線を上げようと試みているのだが、タンクとサポートでは焼け石に水としか言いようがなく。
『だ~!負けた~!』
その対戦は見せ場らしい見せ場もなくあっさりと敗北してしまった。
『ほとんど何もできませんでした……』
:はい
:まあそうなるわな
:FPS初心者が三人いて全員アタッカーではなあ
:カジュアル寄りとはいえ構成が巫山戯すぎや
:見所、無し!
:見所は無いがさんポカの啼き声は助かる
:まあ切り抜きどころは多かったね
:メイドさんの活躍も見れなかったなあ
:この惨状では致し方なし
コメント欄で視聴者の散々な評価が流れる中、画面のシャルロッテが顔を横に向けた状態で硬直した。Live2Dアプリのセンサー範囲から外れたのだろうが、画面の向こうにいる佳苗は画面外で盛大に顔をしかめているに違いない。
昔から負けず嫌いだった佳苗がこんなコメントを見て平静でいられるはずがないのである。
そんなシャルロッテを他所にもよこが苦笑しつつ口を開く。
『まあ、知識も経験も無くプレイするFPSなんてこんなものよぉ。ゲーム動画とかで見ると皆簡単に動かしてる様に見えるけれど、中々難しいものでしょう?』
『そうですね……。このゲーム、弾数に制限が無いからスナイパーでもたくさん撃ったら何発かは当たって活躍できると思ってたんですけど、全然そんなことなかったです』
もよこの言葉を受けたシャルロッテがちゃんと反応を示したことに内心安堵しつつニーナも会話に参加する。
「姫様、シモーヌでチームに貢献するのはこのゲームの中でも一番大変だと思いますよ。なにしろ敵に弾を確実に当てて倒すしか貢献する手段がないのですから」
『他のキャラクターだとスキルを使って何かしら出来たりするけれど、シャルちゃんの使ってるシモーヌは狙撃特化だから本当にプレイヤーの狙撃技術だけが頼りなのよね』
『むう……』
ふたりから暗に初心者には難しいと伝えられたシャルロッテはしばし沈黙するが、やがて小さな声で言葉を零す。
『でも……私、この武器で戦いたい』
『そっ……かあ』
強情とも言えるシャルロッテの発言に駄目とも言えないもよこが曖昧な相槌を打つ。ニーナはそんなシャルロッテの態度に懐かしさを感じつつ、努めて穏やかに彼女に問うた。
「姫様は狙撃に何かこだわりがおありなのですか?」
シャルロッテはしばし逡巡した様子を見せつつも答える。
『……別にそんなんじゃないけど、喜瀬川先輩が使ってるの見て格好いいなって』
「……さようでございますか」
彼女の言葉に、ニーナは──奏多は画面の前で苦笑しつつも納得するように頷いた。
なにしろ、奏多もシャルロッテと同じく彼女の事務所の先輩である喜瀬川吉野に憧れてプレイスタイルを代えた経験がある。
普段の自分と佳苗は仲の良い兄妹とは言い難いが、こういうところは似るものらしい。
正直な話、奏多は勝率や配信の盛り上がりを考えれば素人の当たらない狙撃手よりも他のキャラクターで貢献するべきだと考えていたのだが、彼女の
「では、ピンチヒッターでしかない私がご提案するのも恐縮なのですが、ひとつよろしいでしょうか?」
『ちょっと、あんたは補助──』
『はいはい、どうぞどうぞ』
ニーナの動きをシャルロッテが咎めようとするが、言葉を被せるようにもよこが許可を出す。
「ありがとうございます。このまま再戦を試みてもまた負けるのが目に見えています。まあ、負けるのもそれはそれでかまわないとは思いますが、配信として人にお見せする以上勝つ努力はするべきかと」
『勝つ努力、ですか?』
「はい。むろん、操作技術を磨くにはこの配信の時間だけでは短すぎます。ですが、基礎的な知識を得ること、各自の役割をしっかりと決めることと立ち回りを覚えることはできるでしょう」
『なるほど……つまり、お勉強ですね!』
「その通りです。例えば今回皆様が趣味で選ばれたキャラクターですが初心者が使うには難のあるキャラクターが多く、構成としても厳しいものがございました。ですので、四期生のお三方にはその辺りを融通いただければと」
『え……』
ニーナの提案にシャルロッテが声を漏らすが、そんな彼女をかまうことなく話は進行する。
『はえ~キャラ変かあ』
:まあ、妥当な判断だなあ
:アタッカーが近接、近接、狙撃手で素人ばかりとか正気の沙汰じゃないもんな
:即ピされた上にこんな構成になったら発狂するわ
:アカウント名もまんまだからぶち切れて配信に粘着し始めるやつとかいそう
:こんな有り様でランクに潜ろうとしていたという恐怖
:ランク戦のレベル制限って大事だったんやな……
『ううん、わたしは出来ればこのトーチちゃんを極めたいのですが……』
「できればどちらかには近接攻撃ではなく弾をばら撒けるキャラクターを使って欲しいのですが……。具体的にはこの機関銃使いか、変形して弾幕を張るロボットとか」
『ん?変形ロボットとな~?』
ニーナが何気なく具体例を挙げると、アイオライトが反応した。
『そんなキャラがいるの~?』
『そうですね。このTA-129というキャラクターなのですが、スキルを使うとその場で変形をしてミサイルをばら撒く固定砲台になるのです。奥の手はドローンを発射して敵に特攻させ爆破するのですが、敵が固まってると全滅も狙えて気持ちいいですよ』
『それやる!やっぱり時代は弾幕だよな~!』
ニーナがここぞとばかりに売り込むと、アイオライトはあっさりと宗旨替えをした。これで最低限の火力は確保できるだろうとニーナはひっそりと安堵する。
『そういうことなら雪緒ちゃんはそのままトーチで頑張ってもらった方が良さそうねぇ』
『はい、頑張ります!……ごめんね、アオちゃん』
『良いってことよ~』
「さて、後は姫様ですが、姫様にはヒーラーをお願いできればと」
ニーナがシャルロッテに提案すると、シャルロッテは口籠もった。
『で、でも……私もできればこのままが』
「ご安心ください、姫様。ヒーラーにも狙撃手はいるのですよ」
『へ?』
「このナース服を着たキャラクター、ゲールなのですが、ヒーラーでありながら回復手段がスナイパーライフルによる狙撃でして。味方を撃って回復させつつ、ライフルの威力はシモーヌよりも劣りますが敵を狙撃することもできるキャラクターなのです。シモーヌよりも出来ることが多い分、チームに貢献することもできるかと」
ニーナの説明に、シャルロッテの表情が露骨に明るくなった。
『へ、へえ!そんなキャラがいたのね!そういうことならそっちのキャラを使おうかしら!』
「お気に召していただけたようでなによりです」
『これで構成もまともになったわねぇ。メイドさんはタンク役のままで大丈夫ですか?サポートでよければ代わりますが』
「いえ、私はこの後いらっしゃる白鞘様が入る予定のタンク枠のままでいた方が都合がよろしいでしょう」
『わかりましたぁ。そういうことならこのままで』
『ん?ねえ、ちょっといい?』
良い感じに話がまとまったところで、シャルロッテがふと気がついた様にニーナに話しかける。
「どうされました?」
『いやね、大した話じゃ無いんだけど。このゲールってキャラクター、狙撃で味方を回復させるってどういう設定になったらそんなことができるのよ?』
「ああ、そういう話ですか。なんでもライフルで打ち込むのが弾薬ではなく注射器で、中に入っている薬液を注入することで回復させているのだとか」
『ええ……。って、それだと敵も味方もお構いなしで撃ってるのに敵はダメージを受けて味方は回復するっておかしくない?どうやって敵味方を見分けてるのかしら?』
「……姫様」
『何よ』
「ゲームの設定にリアルを求めるのは無粋かと」
『いやそうだけど!これだけ設定が明らかにおかしいでしょ!他のキャラクターはだいたいちゃんとしてるのに!』
:草
:草
:いやそうだけどもw
:草
:それ以上はいけない
:敵を狙い撃ったところに味方が割って入ってきてもちゃんと回復する便利仕様だぞ
:草
:ゲールの設定自体コメディリリーフだからなあ
*
役割を決めてしまってから、全員でトレーニングルームに入りニーナともよこのふたりでキャラクター操作や各自が取るべき行動等を四期生に教え込んだ。
そして三人の理解がある程度進んだところで再びカジュアルマッチに挑む。
先程までは思い思いに戦っていた三人だったが、初心者なりにキャラクターが取るべき役割を全うしようとし、ニーナともよこの指示にもちゃんと従ったのでそれなりにらしい試合をすることができた。
それでも負けが続いていたが、ついにチャンスが訪れる。
陣取りルールで戦っている最中、火炎放射を撒き散らしながら陣地に突っ込んだ雪緒に敵が気を取られて密集したところへアイオライトがドローン爆破を決めて敵を全滅させたのである。
しかし。
『これまっずぅ!シャルちゃん!陣地に入って死ぬ気で粘ってちょうだい!』
『え、ええ!?』
陣地を取り返しはしたものの復活した敵の反撃により味方が次々と倒される中、陣地から味方がいなくなれば敗北すると判断したもよこからシャルロッテへ指示が飛ぶ。
シャルロッテは動揺しつつも指示通りに味方のいない陣地に飛び込んだ。
当然残った敵から集中的に攻撃を受けてHPを削られるが、シャルロッテは必死にキャラクターを動かして少しでも長く生きようと足掻く。
その動きは数秒の延命にしかならなかったが、その数秒の間に復活して戻ってきたニーナと雪緒が陣地へ飛び込んだ。
「更科様!」
『はいっ!』
ニーナに守られた雪緒のキャラクター、トーチが必殺技であるアルティメットスキルを発動。ナパーム弾を陣地に投げ込む。
周囲を火の海に変えられた敵は陣地内を出てしまうと負けになるため火の海から逃げることができず、しばらく足掻いた後に全滅した。
敵が陣地からいなくなったことで占領ゲージが百パーセントとなり、画面にVictoryの文字がデカデカと表示されると歓声が上がった。
『大勝利だ〜!whoooooo!』
『や、やりました!』
『か、勝てたあ……』
:勝ち申したああああ!
:すげえええええ!
:おめでとおおおおおお!
:見所さんマシマシの神試合や!
:おめ!
:まさか初心者が一時間やそこらでここまでできるようになるとはなあ
コメント欄が初勝利に湧き流れが加速する中、もよこがやれやれと息を吐く。
『いやぁ、なんとか勝てましたね』
「ええ、皆様がしっかりと役割を全うした結果です」
『うちのドローンが敵を吹き飛ばしたおかげだな〜』
『わ、わたしだって最後に敵を焼き尽くしました!』
『ええっと、私は……』
「戦線が維持できたのは姫様の回復のお陰でしたし、最後の足掻きが無ければまだ分かりませんでした。派手さは無いですが、間違いなくチームに貢献していましたよ」
『そ、そうよね!よおし!次は狙撃で敵を倒せるようにしなきゃ!』
「ふふふ、その意気ですよ」
:主人を立てるメイドの鑑
:美しい主従愛だあ
:助かる
:てえてえなあ
『いい感じに勝てたし、今日は気持ち良く終われそうだな〜』
『ええ。時間的にも区切りが良さそうですね』
『FPSってちょっと取っ付き辛くて敬遠してたけど、また人を集めて皆で遊びたいわね』
和やかに配信を締めようとし始める四期生三人に、ニーナが恐る恐る声をかける。
「あ、あの?皆様方?」
『あ、メイドさんも今日はさんきゅーでした〜』
『メイドさん、ありがとうございました。また機会があれば遊んでくださいね』
『まあ、今日は仕方なく参加させたけど、お陰で良い勉強になったわ』
『いやぁ、メイドさんが言いたいのはそういうことじゃなくて……』
そこで、五人が集まっていたチャットグループに新たなメンバーが入って来たかと思うと、開口一番で叫んだ。
『お゛、遅くなりまじた〜!先輩方、大変、大変申し訳ございません〜』
『『『あっ……』』』
:草
:草
:草
:ユニコーーーーン!!
:草
:配信の趣旨忘れとるやんけ!!
:これがさんポカなんすよ
:草
:走ったんですよ!必死に!
:その結果がこの仕打ちなんですよ!
:草
:ゆにこェ……
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