こう考えてみると、私、このリゾートバイトってやつに向いてる?

 結果として実緒が不安に思ったような、犯罪が絡む闇バイトではなさそうだった。ただ、やはりというかデメリットはあるので、それを『仄暗い』と捉えるなら『ほんのり闇(のある)バイト』かもしれない。


(朝が早い。週五回の勤務だけど、土日関係なし。休み希望は自由に出せないし、仕事は午前と夕方から夜にかけてだから、その間にどこかに出かけるのは難しい)


 というか、そもそも観光地だから逆に近くに気軽に出かけられるような店がないそうだ。一応、バスに乗ればスーパーなどがある町まで行けるが、今、実緒がいる札幌よりもずっと田舎の、本当に何もない小さな町らしい。


(あぁ……確かに高校のスキー授業でルスツに行った時、そんな感じだった。というかむしろ、あそこスーパーとかもあったかな?)


 父親が家と仕事の付き合い以外で飲みたがらず、飲めないならと休みの日はあまり出かけたがらないので、実緒は家族で旅行に行ったことがない。そんな訳で、彼女の旅行体験は日帰りも含めてだと学校のスキー授業、そして修学旅行だけだ。

 そんな訳でスキー授業の記憶を辿ってみると、当たり前だが山なので体験談に書かれているように周りに店などはなかった。というか、そもそも北海道のリゾート地は町中にない。


(……でも)


 仕事内容にもよるだろうが、勤務時間開始が朝六時からというのもあった。人によっては朝が早いことや、それが土日であることに抵抗があるかもしれない。

 だが、実緒の家は休みでも朝、早く起きる父親に合わせて起きていたので、夏休みや冬休みの長期休暇でも寝坊は出来なかった。というか料理や配膳は母がするのだが、朝六時半には朝食のテーブルにつくように言われているので多少、早いなと思うくらいで抵抗はない。

 高校まで部活に入らなかったので家と学校の往復しかしておらず、同級生より体力面や腕力に劣る自覚はあるが、体験談を見る限り寮に戻り昼寝をすることも出来るらしい。そういう時間の使い方が可能なら、週五回の勤務も何とかなりそうだ。

 次いで、休み希望を自由に出せないことについてだが今までの学生生活もそんなものだし、休みの日に出かけられないのも、両親が実緒の寄り道や不要な外出を嫌がるのでそもそも実緒には習慣としてない。

 服や靴を買う時は母親と一緒なので、一人で出かけるのは髪を切ったり、図書館に行ったりするくらいだ。そして図書館は解らないが、流石に小さな村でも美容室くらいはあるだろうから、数か月に一度行ければ困らないと思う。あと仕事の時は一日二回賄いがあるらしいし、寮の共通スペースには小さいがキッチンや冷蔵庫があるようなので、休みの日にコンビニにするか簡単でも何か作るかはこれから考えればいいだろう。

 それに仮に図書館がなくても、長期バイトの為にか寮にはWi-Fi設備がついているところが多いようだ。必需品ではないので、母からは漫画や雑誌の購入の許可は今まで出なかった。しかし今の時代、著作権が消滅した小説を集めたアプリや小説投稿サイト、あと漫画アプリである程度は無料でも読めるので、出かけられなくても何とかなる。


(こう考えてみると、私、このリゾートバイトってやつに向いてる?)


 自分でいうのも何だが付き合いも悪いので、いじめられてこそないが友達も彼氏もいない。行きたい大学が札幌だったので他の市に行く発想がなかったが、その目的を失った今なら家を出て、どこに行っても構わない。

 そりゃあ、学生ではなく社会人になるので辛いことや、理不尽なこともあるだろう。

 だが、このまま家にいても大学には進学出来ないのだから、どちらにしても働くのだ。そしてこうして検索してみると、その勤務先が親が決めたものか自分が決めたものかで全然、違う。

 高校卒業まで育てて貰ったんだから、いずれは親に少しでもお金を返さなくてはいけないだろう。けれどそれはまず、自分に余裕が出来てからではないだろうか。


(今まで、おこづかい貰ってなかったから……お年玉は貯めてたけど、本代とかジュース代に使ってたから……七万……)


 このお金だけは親も自分で使っていいと言って通帳とカード、あと印鑑を実緒に渡されていた。

 そもそもバイトもしたことがなく、受かるかどうか解らないが受かったら別途、用意する物を買ったりバイト先に移動する為の交通費に使えるだろう。まずはリゾートバイトに申し込み、結果を待とう。

 そこまで考えたところで、実緒は色々と検索していた結果、深夜二時過ぎになっていたことに気づいた。


(ちょっとでも、寝よう。どうせ六時過ぎには、起きないとなんだし……決まるまでは親に疑われる訳にはいかないから、出来る限りいつも通りにしないと……)


 それでも先程までの絶望から、少しでも前進する方向性が決まったことで安心出来たのか。

 目を閉じ、実緒はすぐに意識を手放し──朝六時、親に叱られないようにかけているスマートフォンの目覚ましで起こされるまで、ぐっすり眠ったのだった。

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