鳥になりたかった少女、異世界で残虐な魔王となる

有原優

第1話 異世界転移

 不思議な夢を見た、外を自由に飛ぶ夢を。とても不思議な、今までに味わったことのない自由な、そして気持ちがいい夢だった。


 ただ夢に火歌りすぎていたのであろうか、朝に目が覚めると不自由で、地面の上にたたなくてはならなく、地面から離れることのできない不完全な人間の体で過ごさなくてはならない。それはあまりよくはない気分だった。


 何もしたくない、それが率直な気分だ。しょせん何をしても私たち人間には空を飛ぶことはできないのだ。


 そこでふと外を見た。鳥が数羽飛んでいる。それは私には幸せそうに見えた。


 不自由な人間の法律に縛られることもなく、学校などもなく、地面からいつでも離れられ、いつでも大空を飛べる、自由な素晴らしい鳥! 正直言ってうらやましいと思った。


 そんなことを考えていると、下から「もうご飯よ、降りてきなさい」と母の声がした。

「はーい今行きまーす」と言って服を着替える。窓を見るとまた鳥が数羽飛んでいた。


「どうしたのそんなにぼーとして、珍しいわな」


 食事中に母が私に向かってそういった、どうやら私は自分が思っているよりも夢のことを考えていたらしい


「まあね、今日不思議な夢を見たからさ」

「どんな夢?」

「不思議な不思議な不思議な夢」

「答えになってないじゃない」


 母がにツッコまれた。



 そんなことを言われても私にとっては不思議な夢なのだから仕方ないじゃないと思うが、お母さんは知らないのだから仕方ない、内容を話そう。


「空を自由に飛び回る夢、今の私たちみたいな不自由な体ではない自由な体、何にも縛られることもない自由な自由な夢、なんで私たちはこんな不自由な地面の上でしか生活できないんだろうね」

「そんなことを言っても仕方ないじゃない、すごい夢を見て幸せになっているのかもしれないけど、夢でしか空を飛べないからいいのよ、そんな求めるものじゃないわ」


 そういって母は私を諭した。


「夢がないことを言うね、お母さんは」

「いや母さんは夢はたまに見るからいいって言っているだけだから、というか詩音しおんさっさとご飯食べなさい、遅刻するわよ」

「へいへーい」


 私は気のない返事をする。そしてご飯食べ終え、私は学校に向かう。

 学校に向かう途中でも不自由だなと思った。

 空を見ると相変わらず鳥は自由に飛んでいる、その姿を見てしまうと嫉妬してしまう。


 母はああいっていたが、夢だけじゃなく、現実でも地面の上から離れて空を飛んでみたいと思ってしまう。

 そう考えながらジャンプをしてみたがおそらく五〇センチも飛んでいない。

 ギネス記録とかは知らないが、ギネスでも一メートルや一メートルやそこらだろう。


 死んで鳥に転生してみようとも思ったが、やはり死ぬのは怖い、それに鳥に転生できるのかはわからない。そんなことを考えても、所詮私はこの現実で生きていかなくてはならないのだ。


 その不自由だという考えは学校でも変わらなかった。

 みんなはこんな狭い空間で先生の言うことを聞きながら黒板の文字を必死でノートをとる。

 学校が終わって大人になっても、上司にこき使われるだけだ。この世界に自由などない。

 私はもう我慢ができない、今すぐにでも飛び出したい気持ちだ。


 鳥はいいな。


 自分の力だけでエサを探し、鳶などにつかまらないように逃げて自由に飛び回るのだ。

 自由だ、ああ自由だ、あんな存在になりたい! 鳥になりたい! 人間社会のような窮屈な世界から飛び出したい! そんなことを考えていると、気づいたら机から飛びあがり窓に向かって駆け出し窓から飛び降りていた。

 もう死ぬ恐怖などない、鳥になりたいだけだ。


 これで鳥に転生できるのだ。ああ自由だ! ああ最高だ! これだ、これなのだ! 私が求めていたのは。

 ゆっくりと景色が流れていく、これが走馬灯なのはすぐに分かった。これで死ねる。

 そしてそのまま気を失った。


 目が覚めた。ここは天国なのかな、それとももうすでに鳥に転生しているのかな。そんなことを考えていると体に激痛が走った。体が全く動かない。

 そして白い天井が見えた、どうやらここは病院らしい。ということはどうやら私は自殺に失敗したらしい。


 病院の医者によるとぎりぎりで命が助かったらしい。


 そしてそしてこのようなバカなことはもう二度とやるなとも言われた。ばかばかしい話だ。


「なぜ他人に命の権利を決められなければならないのか、自分の命の価値は自分で決められるはずだ、なぜなら私のものだからだ、私は鳥になりたかったから、飛び降りた、それだけだ、だからもう死なせてくれ」


 そんなことを言ったら母が泣いた、大号泣した、しかし泣きたいのは私のほうだ


 私は今、鳥になる権利を失ったのだ。足が痛くて動けない今、窓から飛び降りるのなど夢のまた夢だ。


 窓の外ではまた鳥が数羽飛んでいた、うらやましい、本当にうらやましい、憧れの対象だった鳥は今では嫉妬の対象だ、私は自由に死ぬ権利すら得られていないのに。


 そんなことを考えていると医者からまだ話は終わっていないと言われた。どうやら足の神経がやられてもう自由に足を動かすことができないらしい、そのことを聞いた途端、なんて馬鹿な話なんだと思った。


 翼が欲しいと思って飛んだら足を失うとは。そして本当の本当にこの世界に失望した、もうこの世界はだめだ。


 そのあとのことは何も覚えていない、おそらくすぐに気を失ったのだろう。だがまた夢を見た、またあの夢をそして最高の夢、自由に鳥になって大空を飛んでいる夢を。


 これをずっと夢見ていたんだずっとずっとこんな日を、この空を、この姿を、この感覚を、この世界を、この自由を。


 ああ最高だ最高だ最高だ最高だ最高だ最高だ最高だ最高だ最高だ最高だ!!!!!!


 こんなにいい気分だったことは今までない、そんな気持ちに浸っているとある病院が見えた。人が窓から転落していた。


 私にはわかっているあれが私であることを。ただそんな事は私にとっては関係がない、この自由な体にはそんな人間社会のことは関係がない。なにせやっと死ねたのだ、遂に鳥に生まれ変われるのだ。


 最高だ! そんなことを考えていたら意識が沈んできた。おそらく次に目が覚めたら鳥の赤ちゃんになっているのだろう、そんなことを考えながら幸せな気持ちで沈みゆく意識に身を任せた。


 次に目が覚めると石作りの町だった。手が、足が動く。私はまだ人間の姿だった。

 その現実に失望したが、今の状況がわからない限りどうすることもできないと思い、周りの人に声をかけた。


「すみません、ここはどこですか?」


 近くにいた茶色色のひげを生やした男が答えた


「ん? ここはアリゲルト王国だろ」

「アリゲルト王国?」


 どうやらまた人間として生まれ変わった。つまり異世界転生してしまったようだ。漫画などでよくある異世界転生、まさか私がしてしまうとは思っていなかった。


 大体の主人公は歓喜していたが、私は違う。鳥になりたかったのだ。こんな人間の体などもういらなかった。なのに、今この体で動いてしまっている。最悪だ。


「そんな顔をするということはもしかして異世界から来た人なのか」

「え、は、はい」

「よし、今すぐ王宮に来てくれ、君のような人を待っていた」


 そういいその男は私の腕をつかんだ。


「あ、あの、ここでは空を飛ぶ能力とかってありますか?」


 せめて鳥になれなくても、空を飛べるのなら、成功だ。せめて最低限はあって欲しい。


「いや過去の異世界人にそんな能力は聞いたこともない。人間が空を飛ぶなんてまさに夢みたいなものだ。そんな人がいるなら教えてほしいくらいだな」


 空を飛ぶ能力はない。つまり、私は完全に転生に失敗したらしい。最悪だ、どうやら私はもう少し人間の姿で生きなければならないようだ。

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