十三番目のエレティコス

レイジ

プロローグ


 太古の時代。

 人類は疲弊していた。

 財の奪い合い、土地獲得のための侵攻、災害による飢饉。

 殴り、穿ち、殺し、奪う。

 守るべき資産を巡って、人類は武器を手に取った。飢えを凌ぐために、同胞の死体さえ食らった。

 ある者は猛った、強さこそが正義だと。

 ある者は説いた、知識こそ導だと。

 そして、ある者は嘆いた、斯様な戦いに何の意味があると。如何なる大義を掲げたとしても、根本は醜い欲望の発露。

 生まれながらにして弱き者たちは、強者を挫く力も、賢者を欺く知恵もない。ただ、無意味な争いの終結を望んでいた。

 故に、上位の存在に縋った。

 圧倒的な威をもって、人の世を統治してほしいと希ったのである。

『世界』は願いを聞き届けた。

 人類の世に超越存在たる神々が現れたのだ。

 尋常ならざる神威は遍くを平伏し、神のみが行使できる"魔法"を用いて、反乱分子を屈服させた。

 神々は祝福の証である【異能】と"魔法"の劣化版たる魔術を人々に授け、人類の統括者となったのだ。

 これが、世界における四つの転換点のうち一つ目である。

 

 

 しかし、神が降り立ってから僅か数年、神同士の争いが始まった。

『世界』の采配に間違えがあったとすれば、神を降臨させ過ぎたのだ。総数37柱、超越存在と言えども、思考は同期していない。

 人間をどう治めるか、数十年に渡って論争が起こった。天災は起こり、海洋は唸り、地平は荒れた。

 直接的が争いが起きたのは、最高神たる太陽神とその配下の神が殺された時だった。犯人は不明、神の死という悲報は全世界に激震を起こした。

 初めての神の死亡に、人々は恐怖した。超越存在たる神でも死からは逃れられぬかと。

 初めての神の死亡に、神々は歓喜した。と。従わないのなら、殺せばいい。立ちはだかる神は、斬り捨てればいい。

 いつしか、論争は神同士の大戦争へと発展する。

 13神は神による統治を主張した。

 12神は人による自治を主張した。

 残りの12神は中立を誓った。

 中立の神々を除き、統治方法の決定は言論で成されるわけもなく、神々は戦への方向に転ずるのであった。

 雷霆神ゼウス率いるオリュンポス13神。

 光明神ヒュペリオン率いるティターン12神。

 計25神による大戦争、これを後世では超神大戦ティタノ・マキアと呼ぶ。

 拮抗したかと思われた大戦争は、雷霆神ゼウスの活躍によりオリュンポスの神々が勝利を収めた。

 ティターン12神は滅ぼされ、正式にオリュンポスの神々が人間の統治を行うのであった。ゼウスは統治の証に暦を創成した。

 これが、雷霆暦元年の出来事であり、四つの転換点のうち二つ目である。


 

 オリュンポスの神々は、人類を見下し、私利私欲に彼らを消費した。

 人類は苛政に反発し、生活の改善を求めて異議を唱えたが、神々が取り合うことはなかった。神を打倒しようとする者も現れたが、例外を除き尽く神の威光に滅された。

 神と人類の一方的な服従関係は二度と覆られないと思われた。しかしある時、転機が訪れる。

 雷霆暦200年。

 叛逆の兆しを貫いた、八人の英雄たちが現れる。神々の不当な治世の打破を目的に、彼らは歩みを進めた。神の一角を倒し、厄災を鎮め、民を救済した。

 勢いに乗る彼らを、いつしか人々は救世主と崇め、期待と畏怖を込めて【八叛雄】と呼んだ。

【頂き】アルケイデス。

【蒼炎の拳聖】テセウス。

【大輪の賢者】ケイローン。

【無魔の益荒男】ヘクトール。

【千剣の支配者】ペレウス。

【狂乱の酒神】ディオニュソス。

【紅蓮の聖女】アリアドネ。

【絶剣】ムサシ。

 彼らによる神々への叛逆、これを後世では人神大戦オリュンポス・マキアと呼ぶ。

 叛逆の証に、彼らは己の右手に鳥の魔術刻印を刻んだ。大空を羽ばたく鳥のように、人類が自由の道を歩めるようになることを願い、神々と対峙した。

 彼らの活躍により、3柱の神は力を失った。

 あり得るはずもなかった神々の劣勢、民は喝采を上げた。

 人の時代を取り戻せる!

 神を排斥できる!

 【八叛雄】に光あれ!

 最絶頂のなか、八人は雷霆神ゼウスに挑み――――激闘の末、敗北した。

 【八叛雄】のうち六人は死亡し、二人は生き残るも代償に力の大半を失った。

 人類による黎明の叛逆は潰えたのだ。

 これが、四つの転換点のうち三つ目である。


 

 そして、是より語られるは最後の転換点。

 【八叛雄】の敗北は、人類の心を折ったか?

 ――否である。

 【八叛雄】は敗れたが、叛逆の意志は消えず、彼らの熱き叛逆おもいは後の世代に受け継がれた。

 絶えず、人類は叛逆している。

 八人の英傑たちが遺した火を消さず、次代へと受け継いでいる。

 人類の不屈さを賞賛し、『世界』は神に対抗する機構として、人類のなかに十二人の『選定者』を顕現させた。

 【異能】を昇華させた、神にも届き得る存在として選ばれた者ども。

 【八叛雄】に次ぐ英雄として祭り上げられた人類の希望にして、神々に楯突く異端者エレティコス

 これは、いずれ世界を変える、若き英雄たちの物語だ。

 

 

 

 

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