第2話 俺様TS幼女斧使い「ゼフィー」

 勢い良く扉を開ける。円卓に座っていた者達が同時にこちらを見た。


 しかし、予想に反して円卓に着いていた者達は2人。本来ロリヴァーナイツは私を入れて7人のはず……なぜ?


「なぜ2人しかいない? 後の4人は?」


「みんなお前に会いたくねぇってよ。つうかよぉ? なんで新人のお前が団長なんだよ? 歴で言ったら俺様がやるべきだろうが!」


 机を叩く赤髪の斧使い。重装甲の鎧にボサリとした髪。見た目こそ私よりも幼い少女となっているが、その気迫、その出立ち全てで分かる。大斧使い。「巨人タイタン狩りのロリババァ救世主」と名高い者だと。


「君がゼフィーか」


「あぁん!? 気安く話しかけてんじゃねぇ! 騎士っつーもんはまず上下関係から習うもんだ! どこぞの辺境生まれが俺様の上に立つなんざ……」


 ゼフィーは私を威嚇いかくして来るが、ボサボサの頭で怒る様子は子供のようだ。気迫に対してその姿、ギャップに思わず笑ってしまった。


「笑うんじゃねぇ!!」


「……ゼフィーの方が騎士っぽくないよ」


「うるせぇぞニア!」


 ゼフィーに烈火の如く怒られても平然としている弓使い。その眼光の鋭さ、聞いたことがある。ロリゴブリンの襲撃から1人で村を守ったという……。


「君が「閃光のロリババァ救世主」ニアか?」


「その名前嫌い。ボクはロリババァじゃなくてニア……そうやって呼ばれるほど大層な者じゃない」


 ジトリとこちらを睨むニア。青く肩まで伸びた肩に鋭い眼光。ゼフィーとは違う威圧感が私を襲う。


 「ロリババァ」とは人々が付けた称号だが……それが嫌な者もいるのか。


「分かった。以後気を付ける……だが私には分かるよ。君は凄い力量を持っている者だと」


 極力爽やかに見えるよう笑顔を浮かべ、ニアへと手を差し出す。


 ニアは少しだけ頬を赤らめると、私の手を握った。


「……分かって貰えて嬉しい。よろしく騎士団長」


 良かった。まずは1人、強調できそうな者を見つけられた。


 胸の奥に安心感が広がる。あぁ……私も緊張していたのだな。何せ仲間を作るということは初めてだったのだから。



 ……。



 ん?



「ニア? 私の手を離してくれないか?」


「……手がスベスベする。これが最強の手なんだ」


「以前は剣ダコで無骨な手をしていたのだが……というか離してくれ」


「あ、ごめん……つい……」


 オズオズと手を離すニア。



 なんだこの反応は? これも信頼関係を確かめる行為なのか?



「だああああああ!! 俺様を無視するんじゃねぇ!!」



 ゼフィーがビシリと私を指す。



「力量も分からねぇヤツについて行けねぇ! おい! 俺様と戦え! ゼフィー様が直々に力量を測ってやるぜ!」


「戦いが挨拶代わりということか。いいだろう」




◇◇◇


「アレックス様とゼフィー様が決闘だってよ!」

「スゲェ! 早速腕前が見られるなんて!」

「ゼフィー様も相当な手練れ……果たして……」

「ほっほっほ。目の保養じゃぞこれは」


 いつの間にか集まって来た兵士達。彼らに加えて貴族まで集まり、中庭は一気に人で埋め尽くされてしまった。


「あ〜こんなに人集まっちまうとはなぁ……恥かいても恨むんじゃねぇぞ?」


 ゼフィーが鉄塊のような大斧をクルクルと回す。華奢な体に重装甲の鎧。それを装備してなお……あの動き。相当できるな。


「こんなちっこい身体でもよぉ〜以前の力はそのまま引き継がれてるのは知ってるだろ? 負けても言い訳すんなよ?」


 ズガンッと大斧を大地へと突き刺すゼフィー。轟音が響き、周囲から軽い悲鳴が上がる。



「……面白い。久々にたぎる戦いができそうだ」



 さやから剣を抜く。私の身長に合わせて仕立て直した両刃の剣。その刀身がキラリと光った。


「へ〜そんなちゃちい剣で俺様に勝てるのか……よっ!!」


 大斧を肩に担いだゼフィーがまっすぐ私に向かって来る。


「オラオラぁ!! 一撃で潰してやるぜぇ!!」



 ズガァンッ!!



 叩き付けられる鉄塊。



 紙一重で避けると、斧の切先が大地を叩き割った。



「な!? お前……っ!? どうやって避けた!?」


「直線的で分かりやすい太刀筋。それを読むのは簡単さ」


 戸惑うゼフィーの胴体に斬撃を放つ。


 しかし、キィンッ!という高い音と共に、重装甲の鎧が斬撃を弾き返す。


「へっ。攻撃は避けられるかもしれねぇが、俺様の鎧は破ることはできねぇ!」


 再び大斧を構えるゼフィー。大振りな動きの隙を突いて複数の斬撃を叩き込む。


「効かないよ〜!!」



 一瞬幼女らしい声を出し、ゼフィが大斧を薙ぎ払う。



「オラァ!!」



 ブオンッッ!!



 薙ぎ払われた斧の一撃を飛んで交わし、再び斬撃を2度叩き込む。



「無駄だって言ってんだろうが!!」



 ズガァンッ!!!



 再び縦の一撃を交わし、斬撃を3度放つ。



 ピキッ……。



 鎧に一筋のヒビが入る。


 ……そろそろか。



「何回やっても意味ねぇっての!! 諦めろ!」



「本当にそうかな?」



「!? 余裕かましてんじゃねぇ!!」



 全身で斧を振り被るゼフィー。その瞬間を見計らって彼女の懐へと一気に踏み込む。



「な……っ!? お前!? そんな速度が……っ!?」



多重連斬ガトリングスラッシュ



 私が修行で得た剣技を放つ。それは、数十発もの高速斬撃を放つ奥義。その攻撃をある1点へと集中させる。



「ぐぅ……っ!? なんだこの衝撃!?」



 ビシリッ。



 ゼフィーの鎧に大きな亀裂が入る。それが徐々に全身へと広がっていく。



「どれほどの装甲でも攻撃を一極集中させれば破ることができる。岩石亀『ガドーカタイマイ』の甲羅でもな」


「お前!? 数多の兵士を殺したガドーカタイマイを!?」


「苦労はしたがな!!」


 身体を回転させ、全体重を乗せた一撃を放つ。その衝撃によって、ゼフィーが後方へと吹き飛んだ。



「うあ"あああああ!?」



 空中で粉々になる重装の鎧。鎧の中からゼフィーの裸体・・が現れた。



 吹き飛ぶゼフィー。陽光に照らされ、彼女の双璧が淡く輝いた。



「うおおおおおお!!!」

「アレックス様の勝ちだあああ!!」

「ゼフィー様をこうも容易く……」

「ほっほっほ。目の保養じゃぞこれは」


 周囲から上がる歓声。


 ゼフィーは、裸体のまま大地へと叩き付けられる。


「あぐっ!? クソォ!」


 悔しそうに大地を叩くゼフィー。そんな彼女にニアがそっとマントをかける。


「……なんで裸?」


「ぐぅ!! そっちのが動きやすいからだよっ!!」


「ボクには分からないな……」


 ゼフィーがマントをギュッと握りしめる。


「クソクソクソッ!! こんなのってありかよ!! 一撃も与えられないなんて!!」


「ゼフィー」


「なんだよ! 俺様のこと馬鹿だと思ってんだろ!!」


 悔しそうに顔を歪ませる彼女。その視線に合わせるように膝をつく。


「素晴らしい攻撃だった」


「……え?」


「もし私が一瞬でも気を抜けば……私は真っ二つにされていただろう。君は一撃もと言ったが、その一撃が当たっていれば私の負けだったよ」


「う……分かってる、じゃねぇか……」


「君は私の背中を任せるに足る力量を持つ者だ。だからこそ私は……無理に君を従えるようなことはしたくない」


「なんだよそれ」


「すまないな。私は人と接するのに慣れていないから……ゼフィー。改めて言うよ。私に力を貸してくれないか?」


 手を差し伸べると、ゼフィーは目を大きく見開いた。


「俺様は……突っ走る時あるぞ」


「はは。問題が起きた時は私の力量が足りなかったという事だ」


「わ、分かった。お前を……騎士団長と認めよう」


 ゼフィーが私の手を取る。


 その瞬間、周囲から再び歓声が上がった。



「ゼフィー様がアレックス様を認めたぞ!」

「新生ロリヴァーナイツの誕生だああああ!!」

「な、泣いてなどいませんよ……」

「ほっほっほ。目の保養じゃぞこれは」


 ゼフィーがなぜか顔を赤くしほおく。


「ま、まぁ? お前、綺麗な顔してるし……性格いいし……好みかも……」


「ん? 今何か言ったか?」


「な、なんでもねぇよ!」



「「「うおおおおおおお!!!」」」



 兵士達が口々にロリババァ救世主と叫び出す。



「ちょ、恥ずかしいぜ……」

「ボクは嫌いだな。この呼び名」


「まぁいいじゃないか2人とも。今ぐらいはな。皆、希望を持ちたいのさ」



 皆魔女の存在に怯えていたんだ。少しでも彼らに希望を与えられるなら、恥ずかしい思いなど訳もない。



「「「ロリババァ救世主! ロリババァ救世主! ロリババァ救世主」」」



 その「ロリババァ救世主」の声は、日が沈むまで続いた。



―――――――――――

 あとがき。


 ゼフィーとニアに認められたアレックス。次回。彼女は王に呼び出されることに……。




 モンスター図鑑。


 超硬度の甲羅を持つ巨大亀型モンスター


「ガドーカタイマイ」


 その甲羅を破った者はいないと言われており、いくつもの村が、兵士が、餌食となった恐るべき魔物。


 なお、ガドーカタイマイはメスの貞操観念が強すぎる為、絶滅の危機にひんしている。

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